がんを治すも防ぐも基本は温めることである

冷えたがん組織を温めて環境改善する

 さて今回は、温めることと、がん(癌)を治したり防いだりすることとの関係について見ていくことにします。
 事前の確認事項なのですが、掲載しました図(高画質PDFはこちら)の左端に、がん細胞が生じ、がん組織が大きくなっていく要因について、ごく簡単にまとめてみましたので、それを見てみることにします。
 そもそも、がん細胞は、普通の組織に在った幹細胞、または幹細胞的な細胞が、後天的に変化したものです。特に何が変化するのかと言えば、巷で言われているようなDNAの変化ではありません。即ち、遺伝子が壊れるわけではありません。変化するのは、細胞を取り巻く環境です。最も多い例は、慢性炎症による局所的な環境悪化です。「…もう、何か月も我慢してきました。ご主人様は、どうして私が住む環境を汚されるのですか…。どうして気付いてくれないのですか…。もう、我慢の限界です。この苦境下で生き延びるために、最後の手段として…、封印していた能力を解放させていただきます。ご主人様、ごめんなさい。。」という声と共に、そのときに最も必要である能力、例えば細胞内に入り込んできている毒物を無毒化する能力とか、その毒物を排泄する能力とか、低い酸素濃度でも充分量のATPを作り出す能力とか、極度に低下したpHでも稼働できる代謝系を回す酵素を作り出す能力とか、そのような、普段は使わなくても済むため封印していた能力の全てを解放させます。そして、そのように普通ならば見られない活動をするようになった細胞を、人間は「がん細胞」と呼んで悪者扱いするようになったのです。
 細胞内外の環境の悪化が激しいほど、「今のうちに増えておかなければ、この先、増えられなくなるかも…」と感じた細胞は、増殖速度をどんどん上げていきます。どの生物も、生命の危機に曝されると、増殖率を高めます。人類も、戦争をしていて命が危ういほど、沢山の子どもを授かるようになっています。
 細胞の増殖速度が高まると、その細胞へのライフラインを確保するために血管網を急いで整備していかなくてはならないのですが、それまでのように丈夫な血管壁を精密に作っている余裕がありません。そのため、とりあえず血管内皮細胞を増殖させる因子を多量に放出して、簡易的な血管をどんどん伸ばしていきます。いわば、中途半端な血管網が出来上がっていくことになります。また、動脈側から伸びていった血管と、静脈側から伸びていった血管が上手く繋がる割合が低下して、血液が動脈から静脈へと流れるルートが限られたものになります。その結果として、腫瘍微小環境を流れる血流量は他の組織に比べて非常に少ないものになります。
 血流が悪いと、当然のことながら低酸素になり、酸素を使わない嫌気呼吸によってATP産生を行うことになり、代謝産物のピルビン酸や乳酸などが増えてpHが大きく低下し、その他の種々の老廃物が高濃度化し、各種栄養素の供給も追い付かないため欠乏が加速します。
 私たちの細胞は、原始の海に誕生したときからの生き方の全てを遺伝情報として継承し、積み上げてきていますから、封印していた全ての遺伝情報を開放すれば、もう怖いもの無しです。そのように、徐々に強かになっていく細胞を見て、人間はそれを「がん細胞の悪性化」と言っています。
 なお、放射線などによってDNAがズタズタに切られてしまった場合、その修復が出来なかった時には免疫系の細胞(NK細胞や細胞傷害性T細胞など)が自滅装置のスイッチを入れてくれるのですが、がん化の場合はDNAの損傷が修復できなかったのではありませんから、自滅のスイッチは入れられません。この様子を見て人間は「がんにおける免疫抑制」だと言っています。

 では、どうすれば、がんを退縮へと導けるのでしょうか…? それは、生じている悪環境を改善することです。このことは、例えば手術によってがん組織を全て摘出した場合も同様なのですが、悪環境が生じやすくなっている原因を一掃しない限り、たとえ、手術でがん組織の全てを取り去ったとしても、約6割は別の部位にて再発することになります。手術による摘出で安心しているのは、がん化の原因を見誤っているからに他なりません。不運なのではなく、ちゃんとした原因が在るからこそ、がん化したわけです。
 摘出手術以外のケースを考えてみましょう。既に腫瘍微小環境が生じている場合、その中のがん細胞を全て死滅させることは不可能です。最大の理由は、薬剤が内部にまで届かないからです。届いた周辺部分に位置していたがん細胞だけは死滅しますが、内部にまでは届きません。人類の叡智よりも、細胞のほうが格段に賢いのです。では、どうすれば良いのでしょう…?
それは、少し温めてあげることです。掲載した図の右側中央に引用しました図は、腫瘍微小環境を39℃~41℃程度に温めた場合に起こる現象のうち、免疫系の部分だけが描かれています。これについては後に触れますが、その前に重要な現象が起こります。それは、腫瘍微小環境中の血管網が整備されていないからこそ、外部から加温、即ち遠赤外線が到達して温度が上がっていった場合、それを冷やすための血流が乏しいため、温度が下がり難いことです。因みに、体内にがんが生じている人に対して何らかの温熱治療を行うと、他の人よりも早く、そして強く温かみを感じられます。がんでなくても、血行不良の箇所が多い人ほど、温熱治療によって早く強く温かみを感じられます。
 次に起こることは、腫瘍微小環境へ向かう血管が拡張することです。さすがに、腫瘍微小環境中の血管は多少太いものでも平滑筋が未発達ですから、温度変化などによる収縮は殆ど期待できないのですが、それに向かう細動脈は拡張可能です。そのため、加温後の方が、腫瘍微小環境に流れ込む血液量が増加することになります。このことは、種々のファイトケミカルを併用する場合に、目的の場所に届きやすくするために効果的となります。
 次に、腫瘍微小環境が温められた時に起こる重要な現象は、酸素が多く供給されることです。これは、ヘモグロビンの性質として、温度が高いほど酸素を結合させておく力が減少する〝ボーア効果〟と呼ばれる現象が生じるからです。逆に、空気が出入りする肺の組織中は温度が低いため、ヘモグロビンと酸素の結合力が強く、肺にて酸素が取り込まれる理由になっています。既に書きましたように、低酸素環境が、がん化や、がんの狂暴化の大きな原因の一つになっていますから、それが少しでも解消されることは、腫瘍微小環境の根本的な改善方法であると言えるわけです。

 後述することにしていました免疫系の部分ですが、要点は図の右下の部分に書き上げておきました。即ち、腫瘍微小環境(および、全がん組織)の温度を39℃~41℃程度に温めた場合、M1マクロファージや樹状細胞の働きによって、好中球の脱顆粒、食作用、抗原提示が促進されることになります。そして、腫瘍抗原の取り込み後、樹状細胞はリンパ節に移動し、そこで腫瘍抗原をT細胞に提示することになります。そして、このプロセスは、細胞傷害性T細胞のクローン増殖につながり、増殖したものが腫瘍に浸潤することになります。また、ナチュラルキラー細胞(NK)と共に細胞傷害性T細胞は、細胞傷害性顆粒を放出し、Fas-Fasリガンド経路を活性化することによって、がん細胞を排除する働きをすることになります。
 以上の現象は、人為的に血管新生を抑制する薬物にてがんを兵糧攻めにしようとする方法とは逆のことをやっているわけで、いわば、生体に備わっているメカニズムによって、がんを退縮に向かわせる方法の一つになります。〝温熱療法〟というのは昔から行われている方法なのですが、当時は鍵となる機序が定かでなかったため、現代西洋医学では軽視されてきました。しかし実際は、極めて重要なアプローチだということになります。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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