加齢に伴って高い音が聞こえ難くなる原因と対策

加齢に伴って高い音が聞こえ難くなる原因と対策

 まだ20代だから…、まだ30代だから…、と安心していられません。自分が赤ちゃんであった頃に較べると、高い音が既に聞こえ難くなっているはずです。一般に、ヒトの耳に聞こえる音の周波数範囲は20Hzから20,000Hzまでだと言われていますが、それはせいぜい幼児期までの場合であって、10代以上になると20,000Hzなどという高音は聞こえなくなるのが普通です。

 先ずは、掲載した図(高画質PDFはこちら)をご覧ください。図中の実線は、22歳~35歳の平均的な可聴周波数のカーブを示していますが、15,000Hz(即ち15kHz)あたりではマイナス10dBになっています。この数値は、聞こえる音の大きさが約3分の1の大きさでしか聞こえないことを意味しています。
 因みに、マイナス20dBであれば聞こえる音の大きさが10分の1、マイナス40dBであれば100分の1、マイナス60dBであれば1,000分の1の大きさになっていることを意味しています。

 巷で「モスキート音」と呼ばれている音がありますが、あれは概して18,000Hzの音のことを指していて、広義では15,000~20,000Hzと定義している場合もあります。たとえば18,000Hzであれば、平均的には20歳以上の人には聞こえない場合が多いと言われています。
 なお、Web上に、自分の可聴周波数をテストできるサイトが幾つもありますので、その中から私がスマホアプリのアナライザーにて、20,000Hzまでしっかりと出力されていることを確認したサイトのURLを貼り付けておきます。 https://www.youtube.com/watch?v=EFngmMR5CCQ
 因みに、最近のスマホならば問題無いと思いますが、古い機種や、パソコンでの視聴でスピーカーの性能が悪い場合は、例えば16,000Hz以上が再生できないという場合もありますので、その点を留意して試してもらえば結構かと思います。

 テストの結果、該当する年齢で聞こえるはずの周波数の音が聞こえなかった場合、少々ショックでしょうが、一応は生理的かつ正常な変化だと言えますので、後に述べることに注意して日常生活を送っていただければと思います。
 ところで、何故このような、悲しくなるような変化をするのでしょうか…。掲載した図の中央辺りに電子顕微鏡による写真を引用させていただきました。これは、耳の奥の〝蝸牛(かぎゅう)〟の内部に在る有毛細胞を捉えたものです。白っぽく3列に並んでいるのが〝外有毛細胞〟の列、その左側に白っぽく1列に並んでいるのが〝内有毛細胞〟の列です。そして、その表面に白く見えているのが線毛の束で、特に外有毛細胞の場合は「く」の字型に密生しています。また、写真の右側にイラストを引用させていただきましたが、紫色で描かれていて3列になっているのが外有毛細胞、1列になっているのが内有毛細胞で、全体の構造が解りやすく描かれています。
 一方、電子顕微鏡写真の下側は、線毛が壊れたり無くなったりしていることが判ります。このような状態になっていると、音が聞こえ難くなります。この線毛は、音によって動く蝸牛中のリンパ液の動きを検出する役割を果たしています。線毛がなびくと細胞の活動電位が高まり、電気的信号を発することになります。そのため、線毛が無くなったり、細胞の健康度が低下すると、音によるリンパ液の動きを捉えることが出来なくなります。聞こえ難くなるのはそのせいです。
 
 では、なぜ高い音の方が聞こえ難くなるのか…、ということですが、左下の図を見て頂きたいと思います。これは、蝸牛の部分だけが描かれた図なのですが、高い音、即ち周波数の高い音を検出する有毛細胞が、蝸牛の入り口側に存在していることを確認してもらえば結構です。要するに、年齢が進むほど、蝸牛の入り口付近の有毛細胞がダメージを受けやすい、ということです。
 逆に言えば、蝸牛の奥の方の有毛細胞は、低い音(低周波数の音)を拾い上げる有毛細胞になっているのですが、蝸牛の奥の方なので健全に保たれている、ということになります。
 入り口付近が壊れやすい…、それは耳の構造を示している中央上部のイラストを見て頂けば一目瞭然なのですが、蝸牛の入り口部分は鼓膜から最も近い位置に面していることが分かります。それは即ち、大音量の影響を受け易かったり、外耳や内耳の悪環境の影響を受け易いことを意味しています。

 それならば、高音が聞こえ難くなるという現象を出来るだけ防ごうと思うのなら、大音量を避けたり、外耳や内耳の環境を適切に保つことだと言えるわけです。言い換えれば、〝有毛細胞を大切にする〟ということになります。
 図の右下に、「対策<加齢性難聴は予防できる>」としてまとめておきました。なお、周波数テストをして「歳相応」ということであれば、特に問題は無いと考えて結構でしょう。また、余程ひどくなければ〝難聴〟という表現にはならないですが、70歳、80歳、90歳、100歳と、先は長いわけです。50歳代、60歳代、70歳代で問題にならない範囲であっても、その先は今後の生活習慣に掛かっています。
 そこで、具体的な対策を図中に書き込みました、ここにも羅列しておきます。即ち、大きな音を避ける、大きな音を聞いた後は耳を休ませる、生活習慣病に罹らない、必要な栄養素を欠かさない(特に、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB12、ω3系脂肪酸)、適度な運動をする、過剰なストレスを避ける、ということです。
 なお、近年で特に問題になっているのはイヤフォン(イヤホン)の使用です。ヘッドフォンよりもイヤフォンの方が問題有りです。それは、外耳道に密着させるため、あまり大きいとは思えない音量でも、けっこう強い音圧が鼓膜や蝸牛の入り口付近に及ぶことになるからです。アメリカをはじめとした海外では、若者のイヤフォン使用時の音量に厳重注意が呼びかけられています。私たちも、大いに注意したいところです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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