がん総論Ⅰ-第3章 がんが退縮していく人に見られる共通パターン

がん総論Ⅰ-第3章 がんが退縮していく人に見られる共通パターン

 がんについての記事をここまで読み進めてくださった方の多くは、そろそろ、次のような感情を抱き始めているかもしれません。「結局、どうすれば良いのか。方向性だけでも早く知りたい」と…。
 その気持ちはとても自然です。これまでの章では、がんという現象を“構造”として理解するために、あえて基礎から丁寧に積み上げてきました。がんは“狂った細胞”ではない、がん幹細胞という“根っこ”が存在する、細胞は環境に応じてふるまいを変える、発がんは細胞同士のコミュニケーションの結果である、などでした。このような視点を理解していただいたうえで、いよいよ本章では「がんが退縮していく人に共通するパターン」を示します。
 まだ具体的な方法論には踏み込みませんが、どの方向に体が変わると退縮が起こりやすくなるのか、その“構造”をつかむことができます。

【1】がんが退縮するとは、細胞の“判断”が変わるということ
 まず最初に、極めて重要な前提があります。がんが退縮するとは、細胞が「もう、がんを維持する必要はない」と判断した結果だということです。これは比喩ではなく、生命現象としての事実です。
 怪我をしたとき、細胞たちは瞬時に状況を把握し、痛み・炎症・止血・修復といった一連の反応を全身のネットワークを使って調整します。がんも同じなのです。細胞は、周囲の環境や全身の状態を読み取りながら、進展させる、維持する、退縮させる、という方向性を選びます。
 言い換えれば、退縮とは“偶然”ではなく、細胞の判断が変わった結果として起こる現象なのです。

【2】細胞間コミュニケーションが方向性を決める
 細胞同士は、膨大な種類のメッセージをやり取りしています。その中でも近年注目されているのが マイクロRNA(miRNA)です。miRNAは、細胞外小胞に乗って全身を巡る、受け取った細胞の遺伝子発現を微調整する、がん遺伝子にもがん抑制遺伝子にも作用する、種類や量は体内環境に応じて変化する、という特徴を持っています。即ち、miRNAは「細胞の意図を伝える遠隔指示」のような役割を果たすわけです。
 がんが退縮していく人の体内では、この miRNA の“方向性”が変わり、がんを維持・進展させるメッセージから、がんを抑制・退縮させるメッセージへと傾いていきます。これは、外から薬を入れて操作できるような単純な仕組みではありません。細胞は、全身の状態を総合的に判断しながら、必要な種類の miRNA を必要な量だけ放出します。

【3】退縮する人に共通する「体内環境の変化」
 がんが退縮していく人の体内では、細胞が「がん細胞を、もう維持しなくてよい」と判断できるような環境の変化が起きています。その共通点は次のようなものです。
 ● 炎症が弱まる
 慢性的な炎症は、その部位に各種の起炎物質を滞留させることになり、細胞に「防御・増殖」を促すメッセージを与えることになります。逆に、炎症が静まると、細胞は攻撃的なふるまいをやめ、落ち着いた状態に戻ります。
 ● 腸内環境が整う
 腸は免疫・代謝・炎症の中心だという見方もできます。そして、腸内細菌叢が整うと、全身の細胞が受け取るメッセージが変わります。
 ● 栄養状態が正常化する
 ミネラル・ビタミン・ファイトケミカル・食物繊維などが十分にあると、細胞は安定した代謝を維持できます。
 ● 体温・循環が改善する
 血流が良くなると、細胞は酸素・栄養・情報を適切に受け取れます。これだけでも miRNA の方向性が変わることがあります。

【4】退縮する人に共通する「生活の変化」
 退縮していく人の生活には、驚くほど多くの共通点があります。
 ● 適度な運動
 筋肉から放出されるマイオカインは、全身の細胞のふるまいを穏やかに整えます。
 ● 日光を浴びる
 紫外線〜赤外線は、ホルモン・免疫・代謝に影響し、細胞の判断材料を変えます。
 ● 体を温める
 冷えは細胞のストレスです。温まると、細胞は“緊急モード”を解除します。
 ● 自然環境との接触
 森林の精油成分(フィトンチッド)、自然音、土の匂い。これらは自律神経を整え、細胞の緊張を解きます。また、土壌細菌が理想的な細菌叢や免疫系を構築します。
 ● 規則正しい生活
 睡眠・覚醒リズムが整うと、細胞の代謝サイクルも整います。

【5】退縮する人に共通する「心の変化」
 ここが最も軽視されやすい部分なのですが、心の状態は細胞のふるまいに直接影響します。
 ● 不安が減る
 不安は視床下部を介して全身の生理反応を変え、細胞に“緊急モード”を強制します。そのため、不安を解消することが重要になります。
 ● DMN(デフォルトモードネットワーク)が静まる
 過去や未来を考えすぎるとDMNが過活動になり、ストレス反応が増えますので、何か好きなことに集中したり(マインドフルネス)、自然の中で過ごしたりすることでDMNが静まり、細胞は“落ち着いた判断”を取り戻すことができます。
 ● 前向きな捉え方
 ストレスを「悪いもの」として受け取るか、「成長の糧」として受け取るかで、生理反応はまったく異なります。何事も、前向きに捉えることが大切です。

【6】自然生活で退縮が起こりやすい理由
 人里離れた山奥で生活しているうちに、がんが小さくなったり、消えたりする例があります。これは奇跡ではありません。自然生活は、ここまで述べてきた、炎症の減弱化、自律神経の安定、腸内環境の改善、精油成分、自然音、日光、運動、規則正しい生活、心の安定、DMNの低下など、これらを同時に満たす“複合条件” だからです。即ち、自然生活は、退縮に必要な条件が“必然的に揃う環境”なのです。
 細胞はその変化を正確に読み取り、miRNA の方向性を変え、退縮へと向かう判断を下すわけです。

【7】総論Ⅰの締め:方向性が分かれば、次は“どう整えるか”へ
 本章で示したのは、がんが退縮していく人に共通する “方向性” です。即ち、細胞の判断が変わる、miRNA の方向性が変わる、体内環境が整う、生活が整う、心が整う、自然との接触が増える、などです。これらはすべて、細胞が「がん細胞を、もう維持しなくてよい」と判断できる基本的条件になるわけです。

 多くの人は、検診によってがんを告知され、その後は、がんを駆除することだけに意識を奪われてしまい、上述したような“がんを退縮させるための基本的な条件づくり“をさせてもらえず、その余裕さえ奪われてしまいます。それでは、がんが退縮するはずは無いのです。

 総論Ⅰは、ここで一区切りとなります。読者の皆さんが、がんという現象を恐怖ではなく、理解可能な生命現象として捉えられるようになるための土台が、ここまでの章で整ったわけです。次のステップでは、この“方向性”をどのように整えていくのか、より具体的な方法へと進んでいきます。

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執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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