アストレア楽器、動く

アストレア楽器、動く
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今回のアイキャッチ画像(高解像度版)
佐伯みのり
◆ 第30話 ── 緊急会議の午後

去る、土曜の午後、アストレア楽器株式会社(Astrea Music Inc.)の営業部では、出荷準備が進んでいた。
営業部の若手・佐藤は、大型の電子ドラムとテナーサックスのケースを見て眉を上げた。
「……これ、ひとりじゃ無理だなぁ……」

そのとき、広報部の川村が通りかかった。
「佐藤さん、それ重そうだね。手伝おうか?」

「助かります! 今日、例の飲食店に納品なんですけど、裏口が狭いので、私だけじゃムリっぽくて……」

こうして、営業部+広報部の“偶然の二人組”が誕生した。

16時過ぎ──二人は、例の飲食店の裏口に到着した。店内からは、すでに熱気を帯びた歓声が聞こえていた。

「……え、なに? ライブでもやってるんでしょうか…?」
佐藤が首を傾げる。

川村は、その音に耳を澄ませた瞬間、表情を変えた。
「……いや…これ…… プロのブルースだぞ…」

二人は荷物を置き、裏口からそっと店内を覗いた。店内は満席。人々がスマホを掲げ、熱狂していた。
そして──その中心にいたのは、高校の制服を着た女の子。サックスを吹いていた。

川村は、思わず息を呑んだ。
「……嘘だろ…… 高校生?」

佐藤も目を丸くした。
「えっ!? プロがコスプレしてるんじゃないですか?」

みのりのサックスは、ブルース特有の“人生の深み”を感じさせる音色で、店内の空気を完全に支配していた。

その後、メンバー紹介があった。川村と佐藤はそれを聞いて、信じられなかった。
(……図書館ホールで講演していた…水瀬先生? 大学の教授… JAXAの研究者… 高校の物理の先生… …そしてあの女の子…高校2年生… まじか……)

16:20頃、アンコール曲として、Wonderful Tonightが始まった。
川村と佐藤は、メンバー紹介を聞いたため、その異常さに恐怖心さえ抱いた。
(……キーボード…上手い… ベース…上手い… リードギター…上手い… ドラム…絶妙な誘導… 高2の女の子のサックス…やっぱり…異常なほど上手い…)

そのとき、みのりのサックスはボーカルラインを柔らかく包み込み、観客は感動の涙を流していた。

やがて、みのりがギターに持ち替えて、リードギターを担当。
川村は震えた。
「……あのエリック・クラプトンを…… 完全に上回ってる…!?」

佐藤は、鳥肌を押さえながら言った。
「川村さん…… これ…広告に使ったら……とんでもないことになりますよ…」

川村は、その場で確信した。
(……このような子は…… 日本中探しても…他にはいない…… “奇跡の逸材”だ…)

川村と佐藤は、みのりたちの演奏が終わると直ぐに、店主にも協力してもらって店の裏に停めてあった営業車に乗り込み、帰社を急いだ。
会社に戻ると、川村は佐藤と一緒に社長室へ直行した。
「失礼します!! 社長!!」

「ん!? どうしたの?」

「先ほど、品物を届けに行ったお店で、とんでもない子を見つけました!」

「えっ? …ちょっと、詳しく聞かせて」
社長は、彼らの尋常じゃない表情を見て、ただ事ではない予感がした。

川村は、店で見た光景を、かいつまんで説明した。
「おそらく…いえ、ほぼ確実に… その子は、プロの演奏家でも敵わないレベルです。高校生とは思えない表現力でした。サックスもギターも、完全に“観客を支配する音”でした」

社長は腕を組み、真剣な表情になった。
「……高校2年生の女の子が… サックスもギターもプロを凌ぐ演奏をしていた…と……」

佐藤が身を乗り出した。
「はい。私も最初は信じられませんでした。でも、店内は満席で、みんなスマホを構えて…… あの子の演奏に完全に飲み込まれていました。鳥肌が止まりませんでした」

川村は続けた。
「社長… まだ動画は上がっていませんが、あれだけの数の観客が撮影していましたので、明日には必ずSNSに複数の動画が上がるはずです。そのとき、社長にも確認していただけると思います」

社長は静かに息を吸った。
「…なるほど。つまり、今は“現場を見た者の証言”しかないが、明日には映像が出回る…と…」

「はい。そして、もし社長がその映像をご覧になれば、僕たちが言っている意味がすぐに分かっていただけると思います。あの子は…本当に“逸材”です。日本中探しても、他にいないと思います」

佐藤も強く頷いた。
「社長…、彼女を広告に使えば、絶対に反響が出ます。私たち営業が何人増えても、あの子の演奏シーンには勝てません」

社長はしばらく黙り、机の上のペンを指で軽く叩いた。
「……分かった。明日、動画が上がったらすぐに確認する。そして、もし本当に君たちの言う通りなら…… 明日の午後に緊急会議を開こう」

川村と佐藤は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます、社長」

社長は、少しだけ笑った。
「いや…、君たちがここまで興奮して報告に来るのは珍しい。それだけで、ただ事じゃないと分かるよ。動画が上がり次第、すぐに知らせてください」

「承知しました!」
二人は深く頭を下げ、社長室を後にした。

◆ 翌朝のアストレア楽器(株)社内
アストレア楽器のオフィスは、まだ始業前の静けさに包まれていた。
広報部の川村は、出社するなりスマホを開いた。
「……アップされてる…」

動画サイトに、昨日の飲食店での演奏が複数アップされていた。その中に、Wonderful Tonight のフル演奏があった。

営業部の佐藤もオフィスに駆け込んできた。
「川村さん! フルで上がってます!」

「うん、見たよ。すぐに社長に見せよう!」
二人は動画をノートパソコンにダウンロードし、高性能なアクティブスピーカーを持って、朝一番で社長室へと向かった。

川村が静かにノックした。
「社長、お時間よろしいでしょうか…。昨日の件なのですが…」

社長はコーヒーを置き、穏やかな声で言った。
「あっ…入って!」

川村と佐藤の二人が社長室に入った。
「サックスとギターを演奏していた…例の高校2年生の女の子の映像が公開されましたので、ご確認いただきたいのですが…」

社長は目を輝かせながら頷いた。

川村と佐藤は、パソコンの画面を社長に見えやすいようにセットし、高性能アクティブスピーカに接続した。そして、Wonderful Tonight の再生ボタンを押した。

★ 動画再生――社長による、みのりの評価
☆ サックスの評価
高性能アクティブスピーカから、みのりのサックス演奏が流れ始めた。
社長は、おもむろに呟き始めた。
「……この子、最初のアタックの息の入り方が異常に綺麗だね。アンブシュアの作り方が大人だ…。しかも、オルタネイト・フィンガリングを、音色の段階変化に使ってる。高校生で、ここまで指と息を連動させられる子はまずいないよ…」

川村が頷く。
「社長…、観客が泣いてました」

社長は画面の中の観客を見ながら、さらに深く聴き込んだ。
「……泣くよ、これは…。語尾のサブトーンの入り方が完璧だ。クラプトンの曲って、表向きはバラードだけど、根っこはブルースの語法だからね。その“泣きの語尾”を理解してないと、このニュアンスは絶対に出せない…」

佐藤が驚いたように言った。
「語尾って…そんなに違うんですか?」

社長は、スピーカーから流れる微細な息の揺らぎを聴きながら答えた。
「うん…違うよ。語尾は、息の抜き方、アンブシュアの微調整、フィンガリングの選択 、この三つが揃わないと成立しない。…この子は…“技術”じゃなくて…“文脈”で吹いてる感じがする。クラプトンの曲が持つ“泣きの構造”を理解した上で、さらに自分なりのアレンジを加えている…」

☆ ギターの評価
2コーラス目、みのりがエレキギターを渡されて、イントロのリードを入れたとき、社長はまず、フレーズの違いに気づいた。
「……この子、クラプトンの原型を“なぞって”ないな。完全に“読み替えて”る」

川村と佐藤が息を呑む。

社長は、動画を部分的に止めたり繰り返したりしながら、解説を入れた。
「まず、最初の A(↑B) のところ。クラプトンはただのハンマリングだが、この子はA(↑B)~(V) にしてる。“揺らぎを伴うハンマリング”だ。ブルースの泣きじゃなくて、“バラードの呼吸”を作ってる」

さらに画面を指しながら言った。
「そのあと、クラプトンは A-G-A とシンプルに行くところを、この子は A-G-A の間に (F#-G) を挟んでる。これ、ただの経過音じゃない。“感情の助走”だよ」

佐藤が驚く。
「助走……ですか?」

社長は頷く。
「そう。クラプトンのフレーズは“語り”なんだけど、この子は、そこに“呼吸の段階”を入れてる。F#→G の微妙な上昇で、“泣きの前のため息”を作ってるんだ」

さらに、みのりの下降フレーズに目を留める。
「そしてここ。クラプトンは G → A → B → C → E と上昇して終わるけど、この子は [G&B] → [A&C] → [B&D] と“二声で上昇”してる。これ、完全に “和声的な上昇” だよ」

川村が息を呑む。
「二声……ですか?」

社長は即答した。
「そう。クラプトンのメロディを“単旋律”として扱わず、二声のハーモニーとして再構築してる。高校生でこんな発想をする子はまずいない。しかも最後の E~(V) のビブラート。クラプトンの“揺れ”じゃなくて、“自分でアレンジし直した揺れ”になってる…」

社長は、さらに続けた。
「……ビブラートの“幅”と“揺らぎ”が… 一定じゃない…。フレーズの感情に合わせて変えてるんだ…。…これは…クラプトンの語法を理解したうえで、自分の感性を乗せてる証拠だよ。…あと…スライドの“入り方”が絶妙だな。ただの移動じゃなくて、“感情の接続”になってる。これはもう……プロでも滅多にいないレベルだよ…」

社長は、動画を止めて静かに言った。
「…この子は…クラプトンのフレーズを“弾いた”んじゃない。クラプトンの“語法”を理解して、その上で“自分の言葉”にしてる。これはもう…演奏家の演奏じゃなくて、作曲家の演奏だよ」

川村と佐藤は、言葉を失って社長を見つめた。

社長はしばらく沈黙し、ゆっくりと視線を上げた。
「……昨日、君たちが“奇跡の逸材”って言った理由、よく分かった。この子は……“楽器を弾いてる”んじゃない。音楽そのものを再構築してる…」

さらに社長は、机の上のペンを軽く転がしながら言った。
「この子は、他の誰にも渡したくない。絶対に確保しよう。…そこで、午後一に緊急会議を開きたいんだけど、川村君、招集してくれる?!」

「はい、承知いたしました」
川村は、姿勢を正しながら、もうそれ以上ないという返事をした。

社長は、パソコンを片付けようとした二人を引き留めた。
「あっ、ちょっと待って。もう一度見せて…。…広告とは違う話なんだけど… あのドラムの女性の演奏… すごく気になるんだ…」

佐藤は、Wonderful Tonight の再生ボタンを押した。
社長は、映像を見直しながら、ドラムの女性──あかりさんの演奏に目を留めた。
「…うーん……この人…… “ただ上手く叩いてる”っていうんじゃなくて……」

川村と佐藤が、社長の横顔を見つめる。

社長は、スピーカーから流れるドラムの細部に耳を澄ませながら続けた。
「まず、ハイハットの踏み方が異常に綺麗だ。普通のドラマーは、“チッ、チッ”と一定の踏み方になるんだけど、この人は 踏み込みの深さを微妙に変えて、倍音の量をコントロールしてる。ブルースでもロックでもなく、ヴォーカル部分の“呼吸”に合わせて踏んでる」

佐藤が息を呑む。
「踏み方で……そんなに変わるんですか?」

社長は即答した。
「変わるよ。ハイハットは“歌の呼吸”を作る楽器だからな。この人は、サックスが息を吸うタイミングに合わせて、ハイハットの開閉を変えてる。これは…プロでも滅多にできない…」

さらに、スネアの音が鳴った瞬間、社長の目がわずかに細くなった。
「……スネアの“打点”が完璧だ。真ん中を叩いてるんじゃない。ヘッドの中心から数ミリずらして、倍音を“サックスの邪魔にならない帯域”に逃がしてる。これ、歌伴(うたばん)のドラマーが持つ技術だよ」

川村が驚く。
「歌伴……ですか?」

社長は頷いた。
「そう。歌を“支える”ドラマーの叩き方だ。しかも、この人…… ゴーストノートの入れ方が異常に上手い。ただの“タタタ”じゃなくて、“タッ……タタッ……タッ”と、ヴォーカル部分のフレーズの隙間にだけ入れてる。これができるドラマーは、本当に少ない」

そして、あかりさんがフィルインを入れた瞬間──社長は小さく笑った。
「……このフィル、“技術”じゃなくて“物語”になってるな。普通のドラマーなら“ドドタッタ”みたいな定型で行くところを、この人は タムの“音程”で感情を作ってる。 低いタムから高いタムへ上がるときの“間”が絶妙だ」

佐藤が思わず言う。
「間……ですか?」

社長は即答した。
「そう。フィルインは“間”が命だ。この人は、叩く前の“沈黙”で感情を作ってる。これは……プロの中でも、“歌を理解してるドラマー”しかできない」

動画が終わる。
社長はしばらく沈黙し、ゆっくりと視線を上げた。
「……あの高校生の演奏が“音楽そのもの”なら、この人のドラムは…歌の呼吸そのものだ。 こんなドラマー、そうはいないよ」

川村と佐藤は、完全に言葉を失って社長を見つめた。

社長は、机のペンを軽く転がしながら言った。
「……このような二人が同じバンドにいるなんて…、ちょっと信じられないなぁ。高校生の女の子だけじゃなくて、このドラマーも……絶対に見過ごしちゃいけない人だよ。……でも… この人は… 図書館ホールで講演をした研究者の人だって言ったね」

「はい、そうです。会場からは“水瀬先生”って声援が沢山聞こえました」

「…ということは、ぜんぜん本職じゃなくて… …趣味程度にやってて、プロのドラマーを確実に超える演奏ができる… いったいどうなってるんだ…」

社長は、ちょっと考え込んだが…
「……日常的には忙しいはずの研究者の人に、当社に関わっていただこうとするのなら、相当な高額を支払う必要がある…。それは…将来的に考えることにして…。今日はとにかく、高校2年生の、この子の広告への起用について、午後一に緊急会議を開こう。川村君、よろしく…頼むね!」

「はい、承知いたしました」
川村は、姿勢を正しながら、もうそれ以上ないという返事をした。

◆ 午後の緊急会議
午後一――アストレア楽器の会議室には、営業・広報・マーケティング・企画・技術の各部門の部門長たちが揃っていた。社長が入室すると、空気が自然に引き締まった。

社長が話し始めた。
「それでは始めましょう。今日は、少し特別な議題になります。今から再生します動画は、うちが楽器を納めている市内の飲食店にて収録されたものです。ある音楽グループが演奏を始めるのですが、そのなかで、特に、高校生の女の子に注目して視聴してください。…じゃ、川村君、お願いします」

社長は、川村に合図を出すと、アストレア楽器が自社で構築した自慢のリファレンス・リスニングシステム(超精細大型ディスプレー+大型サブウーファー+超高域再生が可能なスーパートゥイーター+全機器がハイレゾ対応のプロ仕様)に、ぶつりーずのWonderful Tonight の演奏が再生され始めた。

会議室に集まった部門長たちは、ディスプレーを食い入るように見つめた。そして――イントロが終わった後、みのりのサックスが流れ始めた。その直後、部門長たちの表情が急変した。
(……えっ!? …いや…すごい…)
(…高校生… だよね…)
(……めちゃくちゃ…上手い…)
(…随所に すごく細かなテクニックを…自然に盛り込んでいる…)

2コーラス目に入り、みのりがギターに持ち替えてリードを入れた瞬間──部門長たちの驚きは最高潮に達した。
(……サックスだけじゃないんだ… ギターのテクニックも…)
(…エリッククラプトンの演奏は知ってる… …でも… その上行ってる…)
(……いや… ありえないよ… 誰?この子…)

2コーラス目の後の、各メンバーが循環コードでソロ演奏していくシーンや、そのときの客席からの大声援や拍手、涙ぐんで感動しているシーンまで再生された。
(……他のメンバーの人も、凄く上手い… 特に…ドラムの女性…)
(……お客さんの反応… すごい…)

動画が終わった。
社長は、静かに口を開いた。
「この演奏の翌日、テレビのニュースでも採り上げられました。その動画もアップされていますので見ていただきたいと思います。じゃ、川村君、それもお願いします」

『市内の飲食店で“奇跡の演奏” 研究者6名の即興セッションに人だかり』
『研究者6名の即興演奏に大勢の人 「ぶつりーず」とは何者か? SNSで話題に』

部門長たちは、それぞれに様々な驚きを示した。
(……わっ!! 店の周囲の歩道にまで…人がいっぱい…)
(……すっごーい!! あの短時間に、これだけ人を集めてしまう……)

ニュース動画が終わり、社長が話し始めた。
「…はい。主な動画のみ見ていただきましたが… …皆さんも相当な驚きを感じたことと思います。この子は、単なる高校生ではなく、単なる演奏家でもありません。高校2年生で、卓越した演奏技術だけでなく、通りすがりの人たちを立ちどまらせ、ほぼ瞬時に人々の心を奪ってしまう……そんな能力と魅力を秘めた人だと言えるでしょう」

マーケティングの部門長が言った。
「社長… 広告起用について、具体的なお考えはありますか?」

社長は頷いた。
「あります。この佐伯みのりさんを、当社の広告・イメージキャラクターとして起用したいと思うのです」

広報の部門長が切り出した。
「この…佐伯みのりさんが、他の会社との契約が無い状態なのでしたら、それはもう…今のうちに、当社で絶対に確保しておきたい人だと思います。まだ高校2年生なのですから……。この騒ぎで、もう既に有名な人になりつつあるとは思うのですが…早めに手を打っておく必要がありますね。…ところで、予算のほう、具体的なお考えはありますか?」

社長は頷きながら答えた。
「うん、そうなんですよね。私の方から具体的に言いますが、契約の形態は──月額30万円程度を考えています。高校生であることを考慮しても、この辺りの額が適正だと判断します」

会議室が静かにざわついた。
「月30… …この才能なら…むしろ安いくらいでしょう……」
「月100万円あげるから、あのような演奏をして、うちの楽器の良さをPRしろ…と言われても、出来るもんじゃないですからね…」
「もし、もっと高額出してプロの人に演奏してもらったとしても、サックスとギターの両方を、1人の人があのレベルで演奏出来ないですからね…」
「そうそう。楽器を色々と楽しむために、一人が複数の楽器を持って演奏を楽しむことをPRしたいのなら、あのような子は、どこ探しても他には見つからないでしょうね…」
「それに…佐伯みのりさん、ビジュアルがすごく可愛いですので、楽器持たせてポスターにするだけでも、かなりの宣伝効果になると思いますね…」

社長は続けた。
「もちろん、彼女には、学校や家庭の事情もあるでしょう。しかし、我々が“本気で評価している”という姿勢を示すことが重要だと思いますね」

広報の部門長が言った。
「社長、私は大賛成です。この子の映像は、広告というより“作品”として成立します。それによって、ブランドイメージも大きく変わるでしょう」

営業の部門長も頷いた。
「営業としても大賛成です。この子の演奏は、商品そのものの価値を跳ね上げる力があります。例がありよくないですが、比較的安価な楽器でも、あの子の手に掛かったら、名機と呼ばれるようになるかもしれません。逆に、凄く高価な楽器をあの子に演奏してもらえば、さすがに高価な楽器は良い音がするなって思わせることになるでしょうね」

企画室長も続いた。
「企画としても大賛成です。この子の演奏とか、今後の成長は、企業のストーリーとして扱える素材だと思います」

社長は、全員の表情を見渡し、静かに言った。
「ありがとうございます。それでは──佐伯みのりさんを、当社の広告・イメージキャラクターとして正式に起用する方向で、ご本人や保護者の方と話を進めていくことにします。では、契約の準備を進めるよう、よろしくお願いします」

会議室に、静かな拍手が広がった。
社長は最後に言った。
「才能を見逃さないことは、企業の責任です。我々は、この子を本気で支えます。以上です」

(第31話につづく)

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