最近、「AI(人工知能)」という言葉を聞かない日はありません。文章を書いたり、絵を描いたり、質問に答えたり…。まるで人間の知能のような働きを見せるようになりました。私は最近、AIとやり取りをしていて、ふとこんなことを考えるようになりました。「AIの“考え方”は、人間の脳にも役立つのではないだろうか?」…と。
もちろん、人間の脳とAIはまったく同じものではありません。AIはコンピュータの回路で動き、人間の脳は神経細胞でできています。しかし、情報の扱い方という点では、意外と似ている部分もあるように思えるのです。もしAIの思考の中に、人間の認知機能を保つ、或いは高めるヒントがあるとしたらどうでしょう。今回は少し視点を変えて、AIの思考から認知症予防や認知機能を高める習慣について考えてみたいと思います。
◆ AIの学習の仕方と人の場合の類似点
AIの学習の仕方を見ていると、ひとつ気づくことがあります。それは、AIは個々の情報をバラバラに覚えているわけではないということです。これは、先にupしています記事『AIの情報処理方法から学べる、あなたの能力を劇的に伸ばす5つの力』で述べたとおりです。即ち、AIは「これはあれと似ている」「このパターンは以前にも見た」「この情報はこの情報と関連している」というように、情報どうしの関係を見つけながら学習していきます。つまり、知識を「点」で覚えるのではなく、「つながり(ネットワーク)」として理解していくのです。
実は、人間の脳もこれとよく似た仕組みを持っています。新しい健康情報を聞いたとき、「それは以前聞いた話と似ている」「昔読んだ本にもそんなことが書いてあった」「自分の経験ではこうだった」などです。このように、すでに知っていることと結びつけて理解することがあります。この作業は、単に暗記するよりも、ずっと深い理解につながります。もしかすると、脳にとって本当に大切なのは、新しいことを覚えることよりも、すでに知っていることと結びつけることなのかもしれません。
◆ AIは頻繁にアウトプット(人の質問に答える)作業をしている
ここで、もう一つ大切なことがあります。それは、「インプットだけで終わらせない」ことです。本を読んだり、話を聞いたりして、新しい情報を得ることは、もちろん大切なことです。しかし、そのままにしておくと、意外と早く忘れてしまいます。ところが、その情報を、「文章として書き出す」「誰かに説明する」「人に話してみる」などの形でアウトプットすると、脳の働き方が変わります。アウトプットするためには「どういう意味なのか」「どう説明すればよいのか」といったことを考えながら、情報を整理しなければなりません。この作業の中で、脳の中では情報どうしの結びつきが強くなり、記憶のネットワークがよりしっかりしていきます。つまり、「覚える」よりも、「つなげて説明する」ことが、脳にとってはよいトレーニングになるのです。
◆ 高齢になるほど有利になる点
ここで、もう一つ面白い視点があります。それは、AI的思考という点では、高齢者のほうが有利な面もあるということです。確かに、若い人は記憶力に優れているかも知れません。また、新しいことを覚えるスピードも速いかも知れません。しかし、長い人生を生きてきた人には、若い人にはない財産があります。それは、これまでに積み重ねてきた知識や経験の多さです。AIも、学習データが増えるほど、より良い判断ができるようになります。人間の脳も、これとよく似ています。
長く生きてきた人ほど、これまで読んできた本、仕事での経験、家族や身近な人の体験、過去に聞いた健康や医療の話など、たくさんの知識や経験を持っています。即ち、新しい情報を理解するときに、関連づけられる材料がたくさんあるということです。これは、AIで言えば、学習データが豊富な状態とも言えるでしょう。
もちろん、年齢とともに単純な記憶力は少しずつ低下するかもしれません。しかしその一方で、知識と知識を結びつける力はむしろ強くなることが多いのです。もし私たちが、新しい情報を「これまでの経験と結びつけ」「自分なりに考え」「言葉にして整理する」という習慣を持てば、脳のネットワークは年齢を重ねても広がり続ける可能性があるわけです。
◆ 忘れることは大きなメリットでもある
最後に、AIと人間の違いについて、もう一つ面白い点があります。それは、AIは忘れないけれど、人間は忘れるということです。
AIは、一度学習した情報をそのまま保存しておくことができます。大量の情報を正確に記録することは、AIの得意分野です。一方、人間の脳はそうではありません。時間が経つと、細かい情報は少しずつ薄れていきます。一見すると、これは欠点のようにも思えます。しかし最近の脳科学では、忘れることには意味があるとも言われています。
人間の脳は、すべてをそのまま保存するのではなく「重要な情報」「意味のあるつながり」「経験から得たパターン」を“整理して残す”ように働いているのです。細かいことは忘れても、「つまり、こういうことだ」という本質的な理解が残るわけです。これは単なる記憶というより、知恵に近いものなのかもしれません。言い換えるならば、AIが得意なのは大量の記録ですが、人間が得意なのは意味を見つけることなのです。
そう考えると、日々の出来事や新しい知識を「自分の経験と結びつけ」「考え」「言葉にして整理する」という作業が、脳にとって凄く大切な働きだということになります。
これはちょっとした余談なのですが、私自身、こうしてブログを書きながら、健康の話を、生物学、化学、物理学、医学、心理学、教育学などの過去の知識や経験と結びつけて整理しています。もしかすると、この作業そのものが、脳にとってとても良いトレーニングになっているのかも知れません。
◆今日からできる「AI的思考」で認知機能を高める3つの習慣
では、上述したことを踏まえ、私なりに「AI的思考」を鍛える習慣を3つ挙げてみたいと思います。決して難しいことではなくて、日常生活の中で、ほんの少し意識を変えるだけで、脳の使い方が変わってくるということです。
① 新しい情報を「すでに知っていること」と結びつける
整った内容のブログ記事を読んだり、良い本を読んだり、しっかりした内容のテレビを見たり、人の話を聞いたりして新しい情報を得たとき、その情報をただ覚えようとするのではなくて、「これは以前聞いたあの話と似ている」「昔読んだ本にもこんなことが書いてあった」「自分の経験ではこうだった」というように、すでに知っていることと関連づけて考えてみることです。
AIは、大量の情報の中から「似ているもの」や「パターン」を見つけながら学習します。人間の脳も同じで、情報どうしが結びつくほど、理解は深くなり、記憶も定着しやすくなります。つまり、知識を「点」で覚えるのではなく、「つながり」として理解するという習慣です。
② 覚えたことを「誰かに説明してみる」
新しいことを知ったとき、そのままにしておくと意外と早く忘れてしまいます。しかし、その内容を「誰かに話してみる」「家族に説明してみる」「文章にしてみる」といった形でアウトプットすると、脳の働き方が変わってきます。
人に説明するためには、「どういう意味なのか」「どこが大切なのか」を自分の中で整理しなければなりません。この過程で、脳の中では情報どうしの結びつきが強くなります。要するに、理解を深める一番よい方法は、人に説明することなのです。これは教育の世界でもよく知られていることです。
③ 「なぜだろう?」と一度立ち止まって考える
私たちは日常の中で、さまざまな情報に触れています。しかし、その多くを深く考えないまま通り過ぎてしまうことも少なくありません。そんなとき、ほんの少しだけ立ち止まって「なぜだろう?」と考えてみることです。
例えば、「なぜこの健康法が話題になっているのだろう?」「この研究結果はどういう意味なのだろう?」「本当にそうなのだろうか?」といった疑問を持つだけでも、脳は活発に働き始めます。
AIも、膨大な情報の中からパターンや意味を見つけることで賢くなっていきます。人間の脳もまた、考える習慣によってネットワークが広がっていきます。
◆まとめると
上記の3つの習慣は、特別なトレーニングではありません。短く表現するならば「関連づける」「説明する」「考える」という、シンプルな作業を繰り返すことです。それによって、脳の中では知識のネットワークが広がり続けていくのです。そして、こうした日常の小さな習慣こそが、認知機能を保つため、そして認知機能をさらに高めるための大切な鍵なのかもしれません。因みに、入院などによって新しいことを覚える機会が少ない環境になってしまったのであれば、既に知っていることを頭の中でつなげて考えてみる習慣をつけることも有効だと考えられます。皆様の健脳をお祈りいたします。
