健康診断は「任意」なのが世界標準――健康診断より健康教育が重要

健康診断は「任意」なのが世界標準――健康診断より健康教育が重要
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《今回のアイキャッチ画像(表;高解像度版)》

◆ 恐怖すら覚える日本の健康診断の“義務”
 まず、日本における健康診断の制度から確認しておきましょう。日本では、健康診断は労働安全衛生法によって、事業者と労働者の双方に法的な義務が課されています。
 事業者は年1回(特定業務は6か月に1回)の定期健康診断を実施し、従業員に受けさせなければなりません。これを怠ると、50万円以下の罰金が科されることがあります。
 労働者も、事業者が実施する健康診断を受ける義務があり、正当な理由なく拒否することはできません。医師を選ぶ自由は認められていますが、受診そのものを避けることはできない仕組みになっています。
 このことは、他の国のことを知らなければ、特に違和感なく当然のこととして受け入れている人が殆どでしょう。まぁ、子どもの頃から春になれば健康診断を受けることが当たり前になっていますから、習慣化されてしまっていて、逆に、健康診断を受けないと不安になる人さえいることでしょう。

◆ 世界標準では健康診断は“任意”
 しかし、視点を世界に広げると、まったく異なる風景が見えてきます。欧米諸国を中心とした多くの国では、特殊な仕事の場合、例えば航空機のパイロットなどの人命を預かる職種、有害物質や危険物を扱う現場の人など、重大な事故につながる可能性のある職種では健康診断の受診が義務化されていますが、その他の一般労働者に対しては、健康診断は“任意”なのです。要するに、健康管理は自己責任なのであり、健康診断は「必要な人が必要なときに受けるもの」として位置づけられているのです。
 そこで、「日本と世界の健康診断制度の“決定的な違い”(国別比較表)」を作成しましたので、アイキャッチ版と高精細版の2種類を公開します。パソコンで記事を読まれる場合は、記事と並べて開いておいていただけば結構です。スマホで読まれる場合は、高精細版を開いてざっと目を通し、後からじっくりと眺めることにして、すぐに本文に戻ってきてもらえば結構です。

◆ 健康診断を“任意”にしている理由
 “任意”にしている理由は、表の右端の欄に主なものを書き上げているのですが、それはごく一部であって、大抵は、どこの国も多くの理由があるからこそ“義務化”をしていないのです。日本を除いた各国の、表の右端の欄に書き込んだ内容は、そのどれもが、どこの国でも言われている“義務化しない理由の一つ”になると捉えてもらえば結構です。

▼ “任意”の国での「受診者 vs 非受診者」の比較データ
 では、それぞれの理由について、少し具体的に見ていこうと思います。健康診断の受診が“任意”である国では、健康診断を受けている人と、受けていない人との比較ができます。さて、健康診断を受けている人のほうが健康度が高かったのでしょうか…?また、健康寿命が長かったのでしょうか…?

 BMJ Open のシステマティック・レビューでは、任意の健康診断(主に心血管リスクチェック)を受けた人(受信者)と、受けなかった人(非受信者)の比較データ がまとめられていますので、要点のみ紹介します。

・ 受診者と非受診者で、寿命の差はほぼ無い
 これが、世界で任意化されている最大の理由だと言えます。

・ 心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中)の発生率はほぼ変わらない
 健康診断を受診したとしても、それが予防になるとは言えないということです。

・ 受診者は高血圧や高コレステロールの“診断率”が高い
 これは、検査を受けるからこそ、見つかりやすいということですので、当然だと言えるでしょう。

・ 受信者の生活習慣の改善率は非受信者のそれとほぼ変わらない
 受診して高血圧や高コレステロールが発覚しても、それによって生活習慣を変えようとはしない、ということです。

 要するに、“受診者は病気を見つけやすいが、健康寿命は伸びない”というデータが得られていて、これが国際的に確認されているということです。ただし、日本では、このような情報は伏せられます。 

▼ その他多くのデータから結論付けられていることのまとめ
【1】健康診断単体では健康寿命は伸びない
 上記のデータでも示されていますが、同様のデータは複数の研究で得られていますので、それらをまとめると次のようになります。
 健康診断は、あくまで“現在の状態を測る“だけであり、生活習慣を改善しない限り、健康寿命は伸びません。多くの人は、検査結果を受けても生活を変えませんので、制度としての効果が弱いのです。これが、欧米の公衆衛生局が内部文書で繰り返し指摘している天です。
 これ以外の理由を、次に述べていきます。

【2】健康診断は“偽りの安心”を生む
 第二に、健康診断には “偽りの安心(false reassurance)”が生じるという問題があります。
 検査で異常がなければ、生活習慣を改善しない、暴飲暴食を続ける、不規則な生活を改めない、などの行動パターンが生じることが、世界中で問題視されています。
 言い換えるならば、健康診断を“免罪符”のように使ってしまうことで、かえって健康を損なう可能性があるということです。

【3】医療や薬に頼る傾向が強まる
 第三に、異常が見つかった場合でも、生活習慣を改善せずに、医療や薬だけに頼る傾向 が強まる、という問題があります。
 これは、異常が見つかった場合は、次に医療機関を訪ねることになりますので、そこでは薬をもらうことになり、その薬によって改善できるのだと錯覚してしまうことに原因があります。
 言い換えるなら、健康状態を見るのも他人任せなら、異常を治すのも他人任せにする癖がつくということです。これは予防医学の観点から見ると致命的であり、欧米では大きな懸念材料になっています。

【4】過剰診断のリスクが生じる
 第四に、過剰診断(overdiagnosis) のリスクです。
 本来、治療の必要がない状態であっても、それを“病気”だと診断してしまい、不必要な治療が行われることがあります。そして、これによって医療費が増大し、生活の質が低下するという悪循環が始まります。
 欧米では、この問題が深刻で、義務化を避ける理由のひとつになっています。

【5】費用対効果が低い
 第五に、費用対効果の低さがあります。
 健康診断は莫大なコストが掛かるにもかかわらず、生活習慣が改善されませんので、制度としての効果が乏しいということです。
 欧米の政策担当者は、“検査より生活習慣改善教育のほうが効果が高い”と判断していて、健康診断を義務化するよりも、生活習慣の改善を促す政策に力を入れています。

 以上の理由から、欧米諸国は、生活習慣の改善や予防医学を政策の中心に置き、検査は補助的な手段にすぎないということで、健康診断を“任意”としているわけです。対照的に、日本は“検査そのもの”を制度の中心に置いており、ここに両者の健康政策の根本的な違いが表れています。

▼ 国別の健康診断受診率(低い順)
 健康診断の受診を“任意”にしている国と、日本の場合の受診率を見てみましょう。
イギリス:約 31〜33%
フィンランド:31〜33%
スウェーデン:31〜33%
オランダ:31〜33%
 :
韓国:約 66% ( 国民健康保険加入者は2年に1回の健診が義務)
日本:ほぼ100%

◆ 日本の制度が何故こうなったのか
 では、日本の健康診断制度は、なぜそこまで強く義務化されているのでしょうか…。その主な要因を挙げてみることにします。

① 検査を重視する分化
 第一に、日本には“検査を重視する文化” があります。戦後の医療制度は、病気を早期に発見し、早期に治療することを中心に設計されてきました。そのため、検査そのものが“健康を守る行為”として強く位置づけられ、生活習慣の改善よりも“検査を受けること”が重視される傾向が生まれました。

② 集団意識が強い
 第二に、集団で同じ行動を取ることへの安心感 があります。学校でも職場でも、春になれば健康診断を受けるという流れが半ば儀式のように繰り返され、検査が“習慣”として社会に深く根づきました。多くの人が“みんな受けているから自分も受ける”という心理で、制度の強制性に疑問を抱かないまま受け入れてきたのです。

③ 企業側の管理文化
 第三に、企業側の“管理文化” があります。日本企業は従業員の健康状態を把握し、管理することを重視する傾向があります。これは、終身雇用や企業内福祉が強かった時代の名残でもあり、企業が従業員の健康を“会社の責任”として扱う文化が制度に影響しています。

④ 生活習慣改善の教育が行われなかった
 第四に、生活習慣改善の教育がほとんど行われてこなかった という問題があります。 欧米では、学校教育や地域の公衆衛生プログラムを通じて、食事・運動・睡眠・ストレス管理などの生活習慣が健康の中心であることが繰り返し教えられます。しかし日本では、生活習慣改善の教育が体系的に行われてこなかったため、“健康=検査”という認識が社会全体に広がりました。

⑤ 安心を強く求める国民性
 第五に、“安心”を求める国民性 があります。日本では、検査を受けることで「とりあえず安心できる」という心理が強く働きます。異常がなければ安心し、異常があれば薬を飲めば安心するという、“安心の文化”が、検査中心の制度を支えてきたのです。

 以上のような文化的背景が積み重なって、日本では健康診断が“生活習慣改善よりも優先されるもの”として制度化されました。しかし、世界の政策判断はまったく逆で、生活習慣改善こそが健康を作るという考え方が中心にあります。ここに、日本と世界の健康観の根本的な違いが表れているのです。

◆ 日本人の行動変容の必要性
 日本と世界の健康診断制度を見比べてみますと、日本の健康診断が「当たり前」とされてきた背景には、文化、習慣、国民性が深く影響していることが分かります。しかし、健康をつくるのは検査そのものではなく、日々の生活習慣です。一般的に言われている、食事、運動、睡眠、ストレス管理、そのような表面的なことは、日本でも多く語られていますが、その程度では目的は達成されません。

 現代の食材にはどのような栄養素が足りないのか、どのような成分が多すぎるのか、どれぐらい食べるべきなのか、または食べてはいけないのか、などをしっかりと教育すべきです。テレビ番組も、やたら「美味しさ」を強調するだけであり、少しばかりの栄養教育を行ったとしても、その効果はかき消されてしまいます。日本という国全体が、健康診断を強要する代わりに、予防医学の観点からの、食の役割や重要性の教育を行わなければなりません。

 私の友人の一人が「健康診断は絶対に受けたほうが良いよ」と言っていたのですが、その友人は軽度の糖尿病や睡眠時無呼吸症候群で既にトラブルを抱えています。私は、「マグネシウム足りてる?」って聞くと、「え?なにそれ…」って言ってました。「タウリン摂ってる?」って聞くと「ドリンクに入ってるやつ?」って言ってました。結局、そういうことなんですよ、多くの日本人は…。本当に大切なことを教えられてないんです。学校では習わないんです。それを、欧米ではしっかりとやり始めている。健康診断じゃなくて、健康教育・予防医学をしっかりとやり始めているわけです。日本は、欧米を見習って、どんどん変わっていかなければなりません。

 
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