アルギニンは大腸内のポリアミンの原料である

アルギニンは大腸内のポリアミンの原料である

 アルギニンの前駆物質であるシトルリンについては、その内容を紹介する記事『スイカを1/7食べればシトルリン800mgが摂れる』を先にupしましたが、両アミノ酸は体内で相互変換されながら生理的な役割を果たす場面が多いですので、両者の生理作用を書き連ねた場合、重複するものも多くなります。もちろん、違うものもありますので、先にアルギニンの生理作用をまとめて書き連ねておきます。
 それは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右上方に、少し小さめの赤色の文字で書いておきましたように、成長ホルモン・インスリン・IGF-1・グルカゴンの分泌促進、アンモニア解毒のための尿素回路の構成、免疫反応の活性化、細胞増殖の促進、コラーゲン生成促進、一酸化窒素の生成による血管拡張、血小板凝集抑制、ミトコンドリアの生成などです。アルギニンが、このような作用を担当していることは、巷に氾濫している種々の情報発信サイトでも確認できますので、特に私がここで強調する必要はありません。しかし、もっともっと大切なことがあるのです。

 そもそも、アルギニンというアミノ酸は、タンパク質を構成している20種類のアミノ酸のうちの一つですから、タンパク質摂取量が少なくないのであれば、わざわざ単品になっているアルギニンをサプリメントとして補給する必要性はあまり無いと言えます。むしろ、シトルリンを摂ったほうがメリットが大きくなります。今日の結論も、決してアルギニンを摂りましょうということではありません。
 では、今日の話は何なのかと言いますと、タイトルにしましたように〝アルギニンは大腸内のポリアミンの原料である〟ということなのです。「え? でも、タンパク質を充分に摂ってさえいれば、何も気にする必要は無いのでは?」という疑問が浮上してくるかもしれません。
 口から放り込んだタンパク質は、消化酵素によってペプチド(アミノ酸が2個~小数個繋がったもの)またはアミノ酸にまで分解されます。そして、もう殆どが小腸にて吸収されてしまいますから、大腸にまでアルギニンが届かないのです。「なるほど、だから問題なのか…」ということです。

 では、なぜ大腸でアルギニンが必要になってくるのか、ということなのですが、大腸にて産生されるポリアミンの原料になっているからです。なお、ポリアミンというのは総称であって、具体的にはスペルミジンやスペルミンのことであり、その前駆物質がプトレッシン(プトレシン)です。
 スペルミジンの作用につきましては、右下の図にまとめられていますが、学習記憶改善、血管内皮機能改善、心臓機能維持、腸上皮細胞増殖、抗炎症型マクロファージ分化誘導、ということです。また、先にupしています記事『アンチエイジングの全貌とポリアミンについて』にて、ポリアミン(スペルミジンやスペルミン)の作用として、老化の原因の一つである慢性炎症を抑制すること、DNA損傷を抑制すること、不良タンパク質のリサイクルを進めるためのオートファジーを促進すること、粘膜等のバリア機能を高めること、老化したT細胞の機能を回復させること、高齢者の認知機能を高めること、などを挙げました。
 また、『抗老化(アンチエイジング)の方法』という一覧表を既にupしていますが、加齢に伴って減少していく体内成分の一つにスペルミンを挙げていて、その2つ目の対策が〝アルギニンを原料として腸内細菌にプトレッシンを作ってもらう〟ことを挙げています。今日の記事は、この件の詳細になります。

 口からタンパク質やアルギニンを放り込んでも小腸にて殆どが吸収されてしまいますから、大腸内にてアルギニンを産生させる必要が出てくるわけです。どうすれば良いのか…。結論を急ぐならば、大腸に差し掛かるまで消化されないタンパク質またはペプチドを摂取すれば良いということになります。
 そんなものが実際にあるのかということですが、あるのです。〝難消化性ペプチド〟といわれるものが、例えば大豆中にも入っているようです。ヒトが持っているタンパク質分解酵素では分解できない構造になっているペプチド(アミノ酸が複数個つながったもの)なのですが、腸内細菌の中にはこれを分解できるものが存在しています。腸内細菌というのは大腸に桁違いに多いわけですので、難消化性ペプチドが大腸に達したときに初めて分解され、生じたアミノ酸のうちの一つがアルギニンです。即ち、大腸にアルギニンを届けようとするのならば、この方法が最も自然な方法だということになります。

 大豆から豆腐を作るとき、いわゆる繊維質や不溶性のものはオカラとして取り除かれますが、その中にこそ、難消化性ペプチドが多く存在しています。そのため、オカラを食べると、大腸に届くまで消化されない難消化性ペプチドを摂取することになります。そして、大腸にて分解されて生じたアルギニンは、ある種の腸内細菌(大腸菌など)によってアグマチンという物質に変換され、そのアグマチンは別の腸内細菌(エンテロコッカス・フェカリスなど)によってプトレッシンへと変換されます。更に、プトレッシンは、ヒトの体内においてスペルミジンへと変換され、抗老化に関わる様々な健康効果をもたらすということになるわけです。
 このようにアルギニンは、腸内細菌由来ポリアミンの原料になっていますので、大腸内にも供給することを忘れないでほしい、ということになります。

 
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