大腸がんを防ぐための基本的な心構え

大腸がんと腸内細菌叢

 これまでの記事において、がんについては度々触れていますが、がんを主テーマにした記事はこれが5つ目ということになります。また、今日のテーマは〝大腸がん〟を主にしていますが、大腸がんの原因となる種々の物質は血流に乗って全身に行き渡ります。そのため、他部位の発がんリスクを底上げすることになりますので、非常に大切な事柄になると考えられます。

 本論に移りますが、野生の動物たちは、発がんする頻度が非常に少ないのですが、その理由はやはり食生活にあると考えられます。一方で、人間に飼われているペットは、それなりに発がんの頻度が高くなっています。人間はもっぱら人間に飼われていると言えますから、当然のことながら発がんの頻度が跳ね上がってくるわけです。
 食生活について野生動物と人間を比較してみますと、野生動物の殆どは食物を洗ったり加熱殺菌したりはしませんので、その辺に居る莫大な種類の微生物を多量に飲み込んでしまいます。また、食べ物自体も未加工ですし、未精製でもありますから、腸内細菌叢を乱す要因が非常に少ないわけです。だからこそ、腸内細菌叢を自然のままに、即ち健全な状態に保つことが可能なのであり、その結果として、大腸がんをはじめとした種々のがんも極めて少ないのだということになります。
 一方、人間は「わぁ~、美味しそう!!」などと言って、様々に加工した食品を食べる人の割合が年々増えていることと思われます。「うまいもんを食べられないのなら死んだほうがマシだ」と考える人もいらっしゃることでしょうが、リスクを知って食べるのと知らずに食べるのとでは、後者の人が非常に気の毒ですので、特に子どもたちや若い世代の人には知っていただきたいと思います。

 掲載した図(高画質PDFはこちら)の原図は2021年に描かれたものですが、特に海外では、腸内細菌叢とがんとの関係に関する研究論文が年々増加中です。最近では、ごく僅かなサンプルからDNAの塩基配列を解析することが可能になりましたので、どの種類の微生物が、どの程度居るのかという全体像を比較的容易に知ることができるようになりました。因みに、昔は、分離して人工培養できる細菌のみが調査対象だったのですが、今は、それこそ全微生物について、その存在割合を調べることが可能になっています。
 図の上方に幾つかの種類の細菌が描かれていますが、これらの割合が増えることによって、その下に書かれている種々の悪影響が出てくることになります。その詳細については図の右側に書き込みましたので、ご興味があれば見てもらえば結構です。〝割合が増える〟と申しましたが、これらの細菌の殆どは健常な人にも居るわけであり、むしろ、少数居ることのほうが大切です。巷では〝悪玉菌〟などと勝手な区別をし、〝そのようなものは駆除できないのか〟と考える人も少なくないはずです。しかし、そのような捉え方こそが、腸内細菌叢を乱してしまう大きな原因になっていると言えます。

 〝不適切な食事〟とは具体的にどのようなものなのか…?ということについてですが、一言で言うならば、人類が野性的な生活をしていた頃の食事から大きくかけ離れた食事である、と言うことが出来ます。「自分の家で採れたものを殆ど未加工で食べている」という場合を除き、食品市場に流通している食材の多くは、流通過程で腐敗したり変質したりしないように様々な添加物の投入や加工が行われます。また、「美味しい」と言ってもらわなければならないため、繊維質が多くて嚙み切れないようなものや、苦かったり渋かったりする成分も徹底的に取り除かれるのが普通です。特に、加工肉は大腸がんの大敵であると言われますが、その家畜が生きている段階から肉を軟らかくするめに筋肉中への脂肪の蓄積を促したり、普通よりも速く成長させるための種々の工夫が施されます。次にはアルコールの多飲を挙げることができますが、この両者が重なるだけでも大腸がんリスクは一気に跳ね上がることになります。野生動物は酒を飲みませんから、やはり見習わなければならないことだと思います。

 もう一つ、見逃してはならないポイントは、大腸粘膜細胞を次々と生み出している幹細胞や、それに準ずる役割を果たしている細胞の分裂頻度を高めなければならないような状況を作り出さないことです。それは即ち、修復しなければならないような状況を作らないことであり、言い換えれば、大腸粘膜を傷つけないようにすることです。例えば、大腸粘膜のエネルギー源である酪酸が不足したり、潰瘍を生じさせたり、ポリープが出来たために切除する、などという状況を避けることです。修復することは細胞分裂頻度を増やすことですから、その分だけ発がんリスクが高まることになります。
 
 私たちは食欲に負けないようにし、出来る限り、祖先が食べてきたような未加工・未精製の食材を選び、それと共に自然界の多くの細菌種を取り込むような生活を続けることが、大腸がんをはじめとした種々のがんを防ぐための基本だと言えます。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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