ようやく涼しい季節になってきましたが、このチャンスを活かす目的の一つに、白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞へと変換する、ということがあります。
ベージュ脂肪細胞というのは、主には白色脂肪細胞が変化して生じるもので、熱産生を主な目的とする脂肪細胞です。熱産生するためにはその分のエネルギーが必要になりますから、沢山食べて得たエネルギーが消費されることになります。即ち、それまで太りやすかった体が、太りにくい体へと変化することになります。他には、糖尿病が防げたり、血糖値が必要以上に高まりにくくなったり、寒さを感じにくくなったり、良いことばかりです。では、白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞へと変換する方法について見ていくことにしましょう。
そもそも、私たちの体に有る脂肪細胞は、大まかには3種類に分けることができます。大まかにというのは、他にもピンク脂肪細胞というものの存在が指摘されていたり、これらの中間段階の脂肪細胞が存在する可能性もあるからです。ただ、今日のところは大まかな分類で行きます。
因みに、昔は、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類だとされていたのですが、近年になってからベージュ脂肪細胞が追加されました。
先ず、褐色脂肪細胞についてですが、これの主な役割は熱産生です。細胞内に多くのミトコンドリアを有していて、ミトコンドリアが鉄分を多く含むために褐色に見えますので、細胞全体も褐色に見えることから名付けられました。褐色脂肪細胞が多く存在する部位は、ある程度限られていて、肩甲骨の周り、脇の下、首の周り、心臓や腎臓の周りなどです。また、新生児の頃に多くて、大人になるにつれて減少していくことが確認されています。また、暖かな生活を続けるほど、減少の程度も大きくなると言われています。
ミトコンドリアというのは、本来はATPを産生することを主な役割とする細胞内小器官ですが、自ら発熱することができる特殊なタンパク質を持っています。そのタンパク質の名前は、UCP-1(uncoupling protein-1;脱共役タンパク質)というものです。ごく簡単に言うならば、ミトコンドリアは外膜と内膜の間隙に汲み出したプロトンを基質内に戻すときにATP合成酵素の内部を通過させ、その力でATP合成酵素を回転させてADPをATPにします。ところが、汲み出したプロトンをATP合成酵素ではなくUCP-1を通過させることによって熱が発生し、プロトン濃度勾配のエネルギーが消費されてしまう、ということです。要するに、過剰に摂取した食物のエネルギーを熱に換えて逃がしてしまう、ということであり、沢山食べても太りにくいということになります。
次に、ベージュ脂肪細胞についてですが、別名をブライト脂肪細胞と言います。これは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左端の図に描かれていますように、細胞の起源としては、主として白色脂肪細胞から派生するものであるとされています。なお、白色脂肪細胞を経ずに、直接的にベージュ脂肪細胞が生じる経路も描かれてはいますが、その実態は今後の研究を待たなければならない状況のようです。
ベージュ脂肪細胞の特徴は、褐色脂肪細胞に似ており、多くのミトコンドリアを有し、その主な役割は熱産生であることが確認されています。即ち、白色脂肪細胞のように余剰のエネルギーを貯蔵脂肪に変えて貯蔵するのではなく、余剰のエネルギーを熱に変えて発散することだということです。だからこそ、ベージュ脂肪細胞が増えれば、沢山食べても太りにくくなるわけです。
図の右上は、左の図の最下段を拡大したものですが、白色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞の相互変換について示されています。そして、白色脂肪細胞がベージュ脂肪細胞へと変換される条件が示されています。
そもそも、ベージュ脂肪細胞は熱産生を主な目的にしていますから、熱産生が必要な状況を多く作ってやれば、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換が促進されることになります。具体例としては、涼しくなってきても薄着を続けることです。もっと積極的には、冷水浴をするなど、意図的に低温暴露することです。
逆に、常に暖かくして過ごしていると、ベージュ脂肪細胞が生じていたとしても、それが白色脂肪細胞へと戻っていくことになります。即ち、生物の体は環境に適応できるように変化する仕組みになっていますから、熱産生が必要になれば脂肪細胞がベージュ化し、エネルギーが使い切れないため中性脂肪に変えたい場合は白色化する、というわけです。
なお、詳細は割愛しますが、脂肪細胞のベージュ化を進めるための条件として、低温暴露以外には、β3-アドレナリン作動薬、PPARγ作動薬(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ作動薬)、FGF21(線維芽細胞増殖因子21)、イリシン(運動によって骨格筋から分泌されるホルモン)、およびナトリウム利尿ペプチドなどがあります。
以上のように、脂肪細胞をベージュ化するには、秋から冬にかけてが絶好の機会となります。できるだけ薄着を心掛け、体力が高まればもっと積極的に低温暴露を受けるようにしてみましょう。