腎臓の話を続けることにしますが、今回は見る方向を少し変えて、原疾患が何であろうが全般的に腎疾患を重症化に導いている要因の一つである〝ミトコンドリアの機能障害〟にスポットを当ててみることにします。
また、ミトコンドリアに着目したい、もう一つの理由は、健常者であれば気にすることなく多く食べることができる野菜や果物を、腎臓を少しでも悪くしている場合にカリウムの摂取量を制限するために、殆ど食べていないケースが考えられるからです。私たちの体は、植物が含んでいる〝ファイトケミカル〟を必須としているのですが、それが摂取されなければ各種の生活習慣病に罹ってしまうことになり、慢性腎臓病もその一つになります。
植物中のビタミン、必須脂肪酸、ミネラル、食物繊維も重要なのですが、後述しますケルセチン、クルクミン、スルフォラファン、レスベラトロールなどのファイトケミカルも極めて重要で、これが摂取されなければ抗酸化機能をはじめとした様々な機能が発揮できなくなります。「学校ではファイトケミカルが必須だなんて習わなかったですが…」「そうでしょう。だから、野菜や果物をしっかり食べなくなった子どもから大人まで、昔には少なかった病気に罹るようになってしまったのです。現代の栄養学や医学が見落としたもののうち、ファイトケミカルはその典型例だと言えるでしょう」
では、ファイトケミカルの力を必要としているミトコンドリアと腎臓病の関係について見てみましょう。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左上を見て頂きたいのですが、スマホでご覧の場合は後で見て頂いても結構です。
この図の概略としては次のようです。即ち、何らかの原因によって急性腎障害になった場合、ミトコンドリアの機能低下が起こり、その結果としてミトコンドリアから多くの活性酸素種が排出されます。すると、それによってミトコンドリアの機能低下が更に進み、その悪循環の結果として炎症が起こります。炎症が過剰になると、ミトコンドリアから腎細胞のアポトーシス(積極的な死滅)を促す指令が出て、腎臓の細胞が死滅していくと共に線維化が進み、慢性腎臓病(CKD)に至る、ということを示しています。
それならば、たとえ急性腎障害に罹ったとしても、ミトコンドリアのケアがしっかりできているならば、慢性腎臓病に至ることなく回復できることを意味しています。逆に言うならば、腎臓の細胞がアポトーシスして組織が線維化してしまうからこそ回復不可能になるのだということです。
現在、世界的には、ミトコンドリアに着目することによって慢性腎臓病を克服できるのではないかと考えられて、各種のファイトケミカルの利用をはじめとした研究が盛んに行われているところです。図に引用させていただいたのは、2024年に報告のあった論文(総説)からのものです。
では、ミトコンドリアを標的にした腎機能改善作戦について見ていくことにしましょう。掲載した図の右上に、ケルセチンの作用機序を示した図を引用しました。ケルセチンは、このブログの中では最多出場かも知れない、極めて有効なファイトケミカルになります。数々の作用機序を示すケルセチンですが、ここでは、あくまでミトコンドリアと腎機能に関する機序に限定したものとなります。
図に示されている作用機序については、もちろん原著には詳しく書かれているのですが、ここでそれを書いても馴染みませんので、ごく概略にとどめておきます。即ち、ケルセチンは、ミトコンドリアにおける活性酸素種(mtROS)の産生を防ぐと共に、サーチュイン1(Sirt1)を活性化し、マイトファジー(ミトコンドリアの自滅)を予防します。また、ミトコンドリアのアンカップリング(脱共役;ATPを作らずにプロトンの濃度勾配を解消すること)と、マイトファジーの減少を通じて、カスパーゼ9と3を減少させることにより、腎細胞のアポトーシスを回避し、結果として腎臓の損傷を軽減する、というものです。
因みに、前回の記事中で触れました「腎硬化症にならないよういにケルセチンを摂取する」場合の機序としては他に沢山ありますので、腎臓のためにケルセチンを摂取する意義の一つが上記のものだということになります。
また、ケルセチンの摂取方法としましては、単品になっているもの(市販のサプリメント)を利用するのが適切であって、タマネギの皮茶、緑茶、ドクダミ茶などの場合に懸念されるカリウム過多を避けることができます。
では、図の左下に挙げたものについてですが、このうちのN-アセチルシステインはグルタチオンの前駆体で、海外からサプリメントとして入手することは出来るのですが、日本では医薬品の扱いになっていますので、安易にお勧めすることはできません。それよりも、同じ機序を発揮できるクルクミンがをお勧めするわけですが、クルクミン単品ではなくてウコンのほうをお勧めします。
ミトコンドリアと腎機能改善に対するクルクミンの作用機序を簡単に挙げておきますと、グルタチオン(GSH)を増加させてミトコンドリアからの活性酸素種の排出を減らすと共に、NF-κBを抑制することによって炎症を抑え、結果として腎臓の損傷を軽減するということになります。
次に、図の右下に挙げたスルフォラファンとレスベラトロールについてですが、スルフォラファンの作用機序は、β酸化を改善することによって脂質の蓄積を低減させたり、ミトコンドリア動態を改善することによって腎細胞のアポトーシス低減させることです。一方のレスベラトロールの作用機序は、Sirt1の発現を増加させることによって、最終的にミトコンドリアの生合成を促し、腎細胞のアポトーシスを低減させ、腎臓の損傷を軽減することです。
この両ファイトケミカルにつきましても、単品にしたサプリメントが販売されていますので、それを利用するのが適切だということになります。
「これ、全部を飲んだほうが良いのですか?」という質問が当然のように出てきます。腎臓を患っていない人が、これらを多く含む野菜や果物、カレー、お茶などを多量に飲食したとしても、副作用的なものは一般的には出ません。しかし問題は、単品になったものを高用量にする場合です。ファイトケミカルの多くは、単品にした場合の吸収率はあまり高くはないのですが、肝機能を含めた個人差は様々ですから、1日に1品~2品ほどに抑えて様子を窺うのが良いでしょう。普通に食事をする場合のように、今日はこれ、明日はあれ、というふうに、日を変えて少しずつ多種類を投与するほうが、副作用無しに相乗効果を得ることができると考えられます。何事も、無理をしないことが大切だと思われます。