◆ 微量なアルコールの生理学的なメリット
前回の記事では、酒類に含まれる有益成分(微生物の代謝産物や植物由来成分)と、アルコールがもたらすデメリットを明確に区別しました。今回は、その中でも“アルコールそのもの”に焦点を当て、微量のアルコールが身体にどのようなメリットをもたらすのかを整理しておきたいと思います。
アルコール(エチルアルコール;エタノール;ethanol)は、一般的には「毒性を持つ物質」として語られます。だからこそ、消毒薬として用いられるわけですが、微量である場合は完全に毒というわけではなく、いくつかの生理学的メリットが存在することが知られています。これは、古くから経験的に語られてきた「酒は百薬の長」という言葉の“核”にあたる部分であり、現代の科学でも一定の説明が可能です。
微量のアルコールがもたらす主なメリットは、次のようなものです。
・末梢血管の軽度拡張による血流改善
・GABA系の軽度活性化による心理的リラックス
・HDL(善玉)コレステロールのわずかな上昇
・脂溶性成分の吸収促進(ごく軽度)
これらは全て、あくまで微量のアルコールによって発揮される作用ですので、量が増えるとアルコールの毒性(肝臓への負荷、アセトアルデヒドの蓄積、血糖変動、睡眠質の低下など)が急速に優位になり、メリットは完全に消失します。
なお、化学の世界では、「アルコール」と言うと、「エタノール(エチルアルコール)」だけでなく、メチルアルコール、プロピルアルコールなどを含めた、炭化水素の水素原子がヒドロキシ基 (-OH) で置換された各種物質の総称になりますので、限定したいときは「エタノール」という語を使います。ただ、この記事に関しましては、酒類に含まれている「エタノール」のことを「アルコール」と表記しますので、了承願います。
▼ 生理学的なメリットが出るアルコールの量
では、アルコールがメリットを生む量が、どれぐらいの量なのかを見ていきます。
推定では、体内に入るアルコールの量が1〜5ml程度が、メリットが出る範囲と考えられます。これは、前回の記事で示した「蒸留酒なら5〜15mlが限界」という数値とも整合します。蒸留酒のアルコール濃度を40%とした場合、蒸留酒5mlはアルコール2ml、 蒸留酒15mlはアルコール6mlに相当します。
この関係を整理すると、次のようになります。
・アルコール1〜5ml:生理学的なメリットが出る範囲
・アルコール6ml:生理学的なメリットが消える境界
・アルコール10ml以上:完全にデメリット化
このように、生理学的メリットが出る量は、アルコールとして1〜5ml程度に限られます。これをそのまま蒸留酒などで摂取すると、量が極端に少なくなりますので、飲み物としては成立しません(飲んだ気がしません)。そこで、酒を水や他の飲料で薄め、安全に利用できる濃度と量に変える必要があります。
◆ 微量アルコールを安全に利用するための濃度と量
アルコールの毒性を考える場合の2つ目のポイントは、その濃度です。アルコールの毒性は、局所毒性(粘膜刺激)と全身毒性(肝臓・脳・代謝)の二つに分けることができます。このうち、“薄めて飲む必要性”は、局所毒性(粘膜刺激)、即ち、アルコールが通過する際の、口腔、咽頭、食道、胃などの粘膜への毒性が生じない程度にまで薄めることが必要になります。そして、その濃度は、アルコールを水や他の飲料で薄めて0.5〜1.0%程度の低濃度にすることが必要になるのです。
では、濃度別に飲む量を計算してみましょう。アルコールが生理学的にメリットを生む量は、上述しましたように、1〜5ml程度になります。ここでは代表値として2mlを摂取する場合を考えてみます。これは、アルコール濃度が40%の蒸留酒であれば、上述しましたように、5mlに相当する量です。そして、中に含まれる2ml分のアルコールを水で薄めて飲料化すると、濃度によって次のような量になります。
・0.5%濃度にした場合
2ml ÷ 0.005 = 約400ml
→ アルコール感はほぼなく、粘膜への毒性は極めて低い。
・1.0%濃度にした場合
2ml ÷ 0.01 = 約200ml
→ ごくわずかにアルコールを感じる程度。粘膜刺激のことを考えると、これが上限。
・2.0%濃度にした場合
2ml ÷ 0.02 = 約100ml
→ ほのかにアルコールを感じる濃度。粘膜への刺激は、それなりに生じることになる。
ついでに、エタノールの健康上のメリットが生かせる上限量とも言える5mlで計算しておきましょう。要するに、この濃度のものなら、これだけ飲んでも“健康上のメリットが生かせる限度内に収まる”という数値になります。
・0.5%濃度にした場合
5ml ÷ 0.005 = 約1000ml
・1.0%濃度にした場合
5ml ÷ 0.01 = 約500ml
・2.0%濃度にした場合
5ml ÷ 0.02 = 約250ml
以上のように、全身毒性(肝臓・脳・代謝)と局所毒性(粘膜刺激)の両方を無くした上で、アルコールの生理学的なメリットを得ようとすると、上記の濃度と量になるということです。
◆ 一般的な「ビール」のアルコール濃度と評価
ここで、身近な例としてビールのアルコール濃度を見ておきます。一般的なビールのアルコール濃度は4〜6%程度であり、発泡酒や新ジャンルでも3〜5%が中心です。数字だけを見ると「低い」と感じられるかもしれませんが、微量アルコールのメリットが出る濃度(0.5〜1.0%)と比較すると、ビール中のアルコール濃度はその4〜10倍に相当します。即ち、ビールは「弱い酒」という印象とは裏腹に、微量アルコールのメリットを得るには“濃すぎる”飲料であると言えます。
ビールをそのまま飲む場合、アルコールのメリットが出る量(1〜5ml)を守ろうとすると、飲める量は わずか20〜80ml程度になってしまいます。これでは、かなり物足りないと思う人が多いことでしょう。しかし「最初の一口だけでよい」という方は、健康上のメリットが出ます。
このことから、アルコールのメリットを活かすためには、ビールのような既製の酒類ではなく、アルコールを水や他の飲料で薄めて濃度を調整する必要があることが分かります。
◆ どうしてもビールを飲みたい場合の作戦
まず、ノンアルコールのビール350mlと、本物のビール135mlを用意します。そして、ノンアルコールビール350mlに、本物のビールを足して(混ぜて)飲むのです。そして、その足し加減(混ぜ方の比率)を2パターン計算してみます。
① ノンアルコールビール350ml + 本物のビール135mlの場合
・アルコール量
135ml × 0.05 = 6.75ml
・全体量
350ml(ノンアル)+ 135ml(ビール)= 485ml
・最終アルコール濃度
6.75 ÷ 485 ≒ 1.39%
【これの評価】
風味は、ほぼビールそのものであり、全体量は485mlになりますので、ビールを飲んだ気になります。ただ、アルコール量が生理学的メリットの範囲を少し超え、濃度も粘膜刺激の点で上限を少し超えます。
② ノンアルコールビール350ml + 本物のビール67.5ml(=135mlの半分)の場合
・アルコール量
67.5ml × 0.05 = 3.375ml
・全体量
350ml(ノンアル)+ 67.5ml(ビール)= 417.5ml
・最終アルコール濃度
3.375 ÷ 417.5 ≒ 0.81%
【これの評価】
風味は、ノンアルコールビールが良くできている限り、ほぼビールそのものであり、全体量は417.5mlになりますので、控えめにビールを飲んだ気になります。これのメリットは、アルコール量がメリットの出る範囲の中間辺りになりますし、濃度は粘膜刺激がほぼゼロ〜極めて弱い程度になりますので、これは健康上においてもメリットのほうが多い「良いお酒」になります。
因みに、135mlの缶を買った場合、残りの半分はどうするのか…。間違っても、飲んではいけません。密封できる容器に移し替えて、明日以降に使うのが良いでしょう。料理に入れるなどの使い方もあるかも知れません。
◆ おわりに
今回は、アルコール(エタノール)そのものに焦点を当て、微量であれば生理学的なメリットが存在すること、そしてそのメリットが発揮される量と濃度について整理しました。
アルコールは「毒性を持つ物質」であることに変わりはありませんが、量と濃度を極端に絞ることで、毒性をほぼ無くしつつ、わずかなメリットだけを抽出することが可能になります。
そのためには、アルコールとして1〜5ml程度という“絶対量”を守りながら、飲料としては0.5〜1.0%程度の低濃度に薄めることが重要になります。既製の酒類では濃度が高すぎるため、ノンアルコール飲料に少量のビールを混ぜるなど、工夫することで「健康上のメリットが得られる飲み方」が成立します。
なお、アルコールの影響には、アルコール脱水素酵素(ADH)やアルデヒド脱水素酵素(ALDH)などの解毒能力による個人差が大きく関わります。これらの酵素の働きは人によって大きく異なり、同じ量のアルコールを摂取しても、体内で生じるアセトアルデヒド量や毒性の強さは大きく変わります。この“個人差”の問題は、次回の記事にて紹介したいと思います。
