前回の記事では、身体の老化の正体がファシア(fascia;広義の筋膜)の滑走性低下であり、その最大原因が、ファシアの層内に挟まれるように存在しているヒアルロン酸(Hyaluronic acid;HA)の物性変化であることを紹介しました。
もう少しだけ具体的に言うと、ファシアの層間に存在するヒアルロン酸の分子が断片化することによって粘度が低下したり水和構造が崩れることによって、ファシアの滑走性が失われます。その結果として、各種のファシアの層間の滑りが悪くなり、筋肉および体の動きに対して常にブレーキが掛かるような感じ、或いは突っ張るような感じになります。そのため、体が硬くなる、姿勢が崩れる、肩が凝る、腰が重くなる、動きがぎこちなくなる、などといった老化現象が表面化するということでした。
その対策としまして、前回の記事では、日常的に誰もができる行動面での6つの対策を述べました。そして今回は、栄養素や機能性成分による対策について述べていこうと思います。
本論に入る前に、基本的なことについて前回記事で触れていなかった部分の補足をしておこうと思います。
まず、用語についてですが、個々の筋線維を包んでいる膜を〝筋内膜〟、筋線維束を包んでいる膜を〝筋周膜〟、筋肉全体を被っている膜を〝筋外膜〟とします。また、筋外膜の延長線上で筋肉以外の組織を包んでいる膜を〝深部ファシア〟とし、日本で蔓延している「深筋膜」という語は誤解を生むため使用しません。同様に、脂肪組織の中に入り込んでいる膜を〝浅部ファシア〟とし、「浅筋膜」という語は誤解を生むため使用しません。
もう一つ、〝滑走性〟というのは〝滑り具合〟のことですが、特にどの部分が滑るのかというと、最も大きく捉えるならば、ファシアの内部(内層)での滑り(スベリ)が9割、筋膜同士(筋内膜・筋周膜・筋外膜)の滑りが1割ということになります。詳しく言うならば、最も大きな滑りを示すのが深部ファシアの層内、次が浅部ファシアの層内、同レベルで筋周膜の層内、次が筋膜同士の滑りだということになります。従いまして、ファシア自身の層内滑りが、ファシアの〝滑走性〟を大きく左右するということであり、改善するためのターゲットになるということです。
このことをイラストで確認しておきたいと思うのですが、添付しました図(高画質PDFはこちら)の下段中央に皮膚~筋肉の断面図があり、〝深部ファシア(Deep Fascia)〟が層として描かれています。実際には3層のコラーゲン層と、2~3層のヒアルロン酸に富む疎性結合組織(HA-rich層)が、サンドイッチ状に重なり合って多層構造になっています。
このような構造になっていて、ヒアルロン酸の層が滑るため、その上下に接しているコラーゲン層が大きく滑ることになります。その滑り方のイメージは「ヌルヌル・トロッ・スルッ」という感じです。そして、ヒアルロン酸の分子が断片化して短くなると、粘度が低下して「ヌルヌル」が消える、水和が崩れて「トロッ」が消える、粘着性が増して「スルッ」が消え、その代わりに「ベタベタ」になる、ということです。その結果、全身の動きや動き方が老人のようになるわけです。
では、今回の記事の本論に入って行くことにします。今回は、前回の続編として、ヒアルロン酸分子の断片化・粘度変化・水和低下を防ぐための栄養学的アプローチ(栄養介入)について述べていくことになります。
先ずは、栄養介入の効果が出やすいファシアおよび筋膜を挙げるならば、それは特に次の2つであり、それらはヒアルロン酸に富んだ疎性結合組織の層が多いからこそ、効果が出やすいわけです。なお、これを含めてベスト5を表にしたのが添付した図の左下の表ですが、上位2つのみを下に書き上げておきます。
① 深部ファシア(deep fascia)
深部ファシアは上述しましたように、3層のコラーゲン層と、その間に挟まれたヒアルロン酸に富む疎性結合組織からなる“多層構造”です。この層は、加齢・不動・冷え・酸化ストレスの影響を最も受けやすく、ヒアルロン酸の構造変化が起こると、すぐに滑走性が低下します。そして、肩こり・腰痛・姿勢の崩れなど、多くの症状の大きな原因になります。
② 筋周膜(perimysium)
筋線維束を包む膜であり、ヒアルロン酸を含む疎性結合組織が豊富です。これが硬くなると、筋肉が伸びにくくなり、トリガーポイント(押すと痛い点)が形成されやすくなります。深部ファシアと連続して張力ネットワークを形成しているため、栄養介入の効果が比較的早く現れる層でもあります。
では、ヒアルロン酸の〝質〟を高める、または維持するための栄養戦略について述べていきます。全部で5種類に分けていて、添付しました図の右上の表に、全てをまとめています。後から再確認したい場合、この表を見ていただくだけで充分であろうと思われます。では順番に、補足を交えながら書き連ねていきます。
① ヒアルロン酸の断片化を防ぐ「抗酸化成分」
ヒアルロン酸は、活性酸素(ROS)によって最も壊れやすい細胞外マトリックス分子(Extracellular Matrix molecules;ECM)です。断片化の最大原因が酸化ストレスですので、抗酸化成分は最重要カテゴリーになります。そして、特に次のような栄養素または機能性物質が有効となります。
・ビタミンC:ヒアルロン酸の酸化分解を抑え、コラーゲンの正常な架橋を保つ
・ビタミンE:脂質膜の酸化を防ぎ、ファシア細胞(Fasciacytes;ファシアに特有のヒアルロン酸産生細胞)の機能を守る
・ポリフェノール(緑茶カテキン・ケルセチン・レスベラトロールなど):炎症性ループを抑え、ヒアルロン酸の断片化を防ぐ
・アスタキサンチン:深部ファシアの温度依存性を安定化し、粘度低下を防ぐ
② ヒアルロン酸の粘度(潤滑性)を保つ「水和・脂質成分」
ヒアルロン酸は水を抱えて初めて潤滑剤として機能しますので、その水和構造が崩れると、潤滑ではなく“接着剤”のように働いてしまいます。そうならないようにするためには、次のような栄養素または機能性物質が必要になります。
・電解質(Na⁺、K⁺、Mg²⁺):ヒアルロン酸の水和構造を安定化
・オメガ3系脂肪酸(EPA/DHA):炎症を抑え、ヒアルロン酸の粘度低下を防ぐ
・コラーゲンペプチド:細胞外マトリックス分子の水保持能力を改善し、ヒアルロン酸リッチ層(HA-rich層)のゲル構造を安定化
③ ヒアルロン酸の生合成を支える「補因子・代謝成分」
ファシアには上述したように、ヒアルロン酸を専門的に生合成するファシア細胞(Fasciacytes)が存在しており、その機能が加齢によって低下しやすいため、その生合成能力を支える次のような栄養素も重要になります。
・マグネシウム:ヒアルロン酸合成酵素(HAS)の補因子
・亜鉛:細胞外マトリックス分子(ECM)リモデリング酵素の調整
・ビタミンB群(特にB1・B6):ヒアルロン酸の前駆体(UDP-GlcNAc)の生成を支える
④ ヒアルロン酸の水和を守る「バリア成分」
バリア成分として、次の2つが有効です。
・セラミド:浅部ファシアの水分保持に寄与
・(グリセロール):ヒアルロン酸の水和構造を安定化し、粘弾性を改善(補足:ただし、ヒアルロン酸が存在する層にまでグリセロールを届けることは事実上難しいため、表においては括弧で括っています)
⑤ 経口ヒアルロン酸そのもの
経口摂取したヒアルロン酸は、腸内細菌によって二糖・四糖のオリゴ糖に分解され、そのうち N-アセチル-D-グルコサミンを含む形が実際に吸収されることが分かっています(88%以上との報告あり)。因みに、ヒアルロン酸摂取とN-アセチル-D-グルコサミン単独摂取とを比較した研究はまだ十分ではありませんので、後者が有効であるかどうかは定かではありません。
以上をまとめておきますと、ファシアの滑走性を高めたり維持したりするためには、ヒアルロン酸の〝量〟ではなく〝質〟を高めたり維持したりすることが本質です。特に、深部ファシアと筋周膜は、ヒアルロン酸の断片化や粘度変化が最も起こりやすく、加齢による滑走性低下の中心となる層です。従いまして、前回に紹介しました行動面での6つの対策に加え、今回紹介しました栄養面での対策(摂取)を行うことによって、滑走性が低下してしまったファシアや筋膜を回復させることが可能になります。
なお、紹介しました各栄養素や機能性物質の摂取量などを細かく本記事に書くと、かなりの長文になりますし、既にupしています記事と重複するものも多くありますので、割愛させていただきます。本ブログの検索窓から、該当する栄養素または機能性物質を検索していただければ、該当する記事が存在する限りは検索に掛かってきますので、それをご活用ください。
