高血圧症の解消に運動が有効である理由

跳ね上がった血圧は運動によって低下する仕組みになっている。

 高血圧症の解消に運動が有効である理由について見て行こうと思います。なお、ここで述べる運動の方法は、高血圧症を解消するための最も重要かつ基本的な方法になります。他にも実施すべき事柄が複数ありますが、それは別の記事にて紹介していこうと思います。

 先ずは、血圧が高まる理由について見ていきましょう。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左上に1枚の写真を引用しましたが、これは突然にクマが現れたときのシーンです。私たち人類だけでなく、少なくとも哺乳類はみな同様のメカニズムを備えていて、それは次のようです。
 命をも奪われかねない強敵が現れた場合、闘うのか、それとも逃げるのかの選択を迫られることになります。そのどちらであっても、全身全霊をかけて一刻も早く行動に移さなければならない状況に追い込まれたことになります。そして、その時に必要なことは、自分の体を、それまでのリラックスモードから戦闘モードへと切り替えることです。因みに、2モード構成になっているのは、無駄なエネルギーを消費しないための優れた方法だと言えるでしょう。
 闘うにしても逃げるにしても、運動能力と思考能力を瞬時に極限まで高めることが有効です。そのため、神経系による電気的刺激によって全身を戦闘モード、即ち〝闘争または逃走〟モードへと切り替えます。他にも、ホルモンによる血圧調節機構がありますが、それは時間がかかり過ぎて使いものになりません。何故なら、ホルモンを分泌する細胞がホルモンの産生量を増やそうと準備している間に何分も経ってしまうからです。従って、一刻を争う生体反応は、全て神経系によってコントロールされます。この場合、脳から交感神経系を通じて全身の至る所に指令が飛ばされることになります。

 次に、相手がクマですから逃げ出すことになっています。まぁ、この対処方法の良し悪しは別にして、交感神経の働きによって既に心拍数が跳ね上がり、心筋の収縮率も極度に高まっていて、総合的には心拍出量が大幅に増加します。この現象だけでも血圧はかなり高まりますが、併せて、内臓や皮膚などの、逃走に直接関係の無い臓器に向かう細動脈が収縮しますので、それによって血圧上昇に拍車がかかります。更に、骨格筋が大いに収縮しますから、血液が骨格筋中から絞り出され、循環血液量が増加したと同様の結果を招き、これによっても更なる血圧上昇が起こります。

 血圧が止めど無く上がる…、ということになると非常に怖いですし、より正確な調節をするためにも、生体内の各種の生理的な現象は〝フィードバック機構〟によって調節されています。血圧の場合、血圧を常にモニターするための主なセンサーが、頸動脈洞(けいどうみゃくどう)と、大動脈弓(だいどうみゃくきゅう)に備わっています。このセンサーは、血管壁の外層中に在って、血圧によって血管が引き延ばされることによって反応する〝伸展受容器〟になっています。そして、引き延ばされればされるほど、多くの電気信号が血圧中枢である延髄に向けて発信されます。すると、延髄は交感神経の活動を少し低下させて、血圧が上がり過ぎないように調節します。
 もう一つ、掲載した図の中央右寄りに挙げたメカニズムなのですが、走ったりすることによって頭部が上下方向に振動すると、脳脊髄液の流れが良くなって、それを検出することによって血圧を低下させる機構が備わっているようです。また、長期的には、頭部の上下振動によって脳内のアストロサイトが持っているアンジオテンシン受容体の数が減少し、血圧が上がり難くなる、というメカニズムの存在も報告されています。

 では、クマが来た時と同様の強烈なストレス状態になった時に運動をしなかったらどうなるでしょうか…?
 交感神経はそれなりに高まりますが、運動をしないため心拍出量の増加は限定的であり、骨格筋の収縮によるポンプ作用も加わりませんので、血圧の上昇も限定的となります。因みに、運動強度が高い場合には最高血圧は200mmHgを超えて行きますが、精神的ストレスだけではそこまで行きません。
 もう一つ、運動をしないため、頭部が上下に振動しません。そのため、脳脊髄液の環流量が増えず、このメカニズムを介した降圧システムも働きません。
 結局、戦闘モードになって激しい運動をすると、大きく上昇しようとする血圧を安全レベルまで下げるメカニズムも大いに働くことになります。しかし、運動をしない場合は、そのメカニズムの働く機会や働く強度が低下します。このような状態が何か月も何年も続くことになると〝使われない仕組みは廃用性退化する〟ことになります。即ち、血圧を下げる能力が相対的に弱まることになり、高血圧症になりやすくなるわけです。

 では、高血圧症になってしまった場合はどうすれば良いのでしょうか…? 最も効果的であると考えられる運動方法を図の右下にまとめておきましたが、それは次のようです。
 頭部に上下動が加わるような運動をすることです。上下動の周期は、1秒間に2回程度となるものが効果的です。具体的には、縄跳びやジョギングが理想的です。なお、硬い路面であれば、早歩き程度でも必要な上下振動が脳に伝わると考えられます。運動時間は1日30分間程度。頻度は1週間に3日程度が理想でしょう。使わなかったために衰えてしまった降圧システムを蘇らせるためには、最低でも2~3週間は続ける必要があります。
 なお、高血圧症でない場合は、これほどまで高強度の有酸素運動をする必要はありません。また、高かった血圧が正常範囲まで低下してくれば、運動強度を落としながら、レジスタンストレーニング(筋トレ)の割合を増やしていただければと思います。その他、食生活における降圧方法については日を改めて記事にしたいと思います。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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