イタドリがニョキニョキと伸びてくる季節になりました。イタドリをご存じの方の中には、それを採集して食用にされている方もいらっしゃることと思います。一方で、都会育ちの若い世代の方々では、その名前さえも聞いたことが無いという方が多いことと思われます。土地柄や年代やライフスタイルによって、イタドリの知名度は様々でしょう。
その名前を初めて聞かれる方に、イタドリをごく簡単に紹介しておきますが、掲載した図(高画質PDFはこちら)の中央および左下に、その外観の解る写真を幾つか挙げておきました。
4月~5月頃は、新しい芽が伸びてくる時期で、特に太くて短いものは茎が軟らかくて食用になり易いです。これが成長すると草丈が50~150cm程度になり、茎は硬くなり、夏から秋にかけて花期を迎えます。繁殖力が非常に旺盛で、一度根付けば周囲に根を伸ばしてどんどんと増えていきますので、どちらかと言うと、大きくて手強い雑草として嫌がられている場合が多いことと思われます。
学名は、Fallopia japonica、またはReynoutria japonicaなのですが、この名前から分かりますように、イタドリは日本を代表する植物種であり、中国や韓国を含めた東アジア一帯が原産地であると考えられています。そして、今ではこれが欧米にまで広がって、猛烈に繁殖する外来種として脅威を抱かせる存在になっています。
因みに、逆のケースとして、日本から見た場合の外来種(例えばセイヨウ○○〇〇などと呼ばれる植物)が、日本の在来種を脅かしている例はよく耳にするでしょうが、イタドリは諸外国に対して迷惑をかけているということです(諸外国の皆様、うちのイタドリが迷惑をかけていて、申し訳ございません)。
ところが、このイタドリは、諸外国の皆様に少しばかりの償い(つぐない)をしていると捉えることもできます。それは、イタドリの根が、レスベラトロール(resveratrol)というファイトケミカルの原材料として役立っていることです。
「レスベラトロール、…よく聞くかも。。」 レスベラトロールは、かつては抗老化(アンチエイジング)の最有力候補として一世を風靡しました。その後、様々な角度から検証が行われ、当時ほどの期待感は無くなってはいますが、継続的に行われてきている有効性評価の結果として、やはり確固たる地位を築いているファイトケミカルであると言えます。当研究室(stnv基礎医学研究室)発信のブログの幾つかの記事におきましても、レスベラトロールを有効物質の一つとして採り上げてきました。構造的にもフラボノイドとは違ってスチルベノイドですので、異なる作用機序が期待出来たり、フラボノイドや他の種類のファイトケミカルとの共存によって相乗効果が期待出来たりします。
レスベラトロールのみの生理作用(当研究室にて吟味済みのもの)を、図の右下の方にまとめ書きをしておきました。即ち、抗酸化、抗炎症、抗アポトーシス、オートファジー促進、アミロイドβの分解、緑内障や変形性関節症の改善/予防、腎機能改善、心血管保護、神経保護/改善/再生、女性ホルモン様作用、抗老化、抗腫瘍、その他種々の健康効果などを認めることができる、ということです。
では、何か驚くべきことでもあるのか…というと、レスベラトロールは赤いブドウの皮に多く含まれているファイトケミカルで、赤ワインにも多く含まれている…というイメージが広がっています。そして、有効性が期待できる量のレスベラトロールを摂ろうとすると、赤ブドウを食べたり赤ワインを飲んだりすることでは追い付かないため、サプリメントのメーカーが製品化したレスベラトロールのサプリメントを摂取しましょう、というのが常識として存在していました。もちろん、赤ブドウの皮から単離するならば、相当な量の赤ブドウが必要でしょうから、レスベラトロールのサプリメントはかなり高価なものになって当然だろうと、と納得させられてきました。ところが、少なくともアメリカ製のレスベラトロールの製品は、高価な赤ブドウではなく、増えて増えて困っているイタドリの根から抽出されていたのです。
イタドリの根を掘り起こすのは少々面倒だと思う人もいらっしゃるでしょうが、単品にされたレスベラトロールよりも、その他の多くの成分が入り混じっている〝イタドリ根そのもの(乾燥粉末など)〟、或いは〝イタドリ根エキス〟の方が、遥かに優れた生理効果を示す可能性が高いのです。
そもそも、イタドリの根は生薬として古くから使われてきました。図の右下にも書きましたが、それは虎状根(こじょうこん)と呼ばれる生薬で、これを得るには、秋も深まって地上部が枯れた頃に根茎を掘り起こし、水洗いしてから10cmほどに切り、日干しにすれば出来上がりです。
昔であれば、それを服用する場合は、適度に刻んで水を加え、長めの時間を使って煮詰める、即ち「煎じる」という工程を経て、液体の方だけを飲むことになります。そして、それによって得られる効能は、抗菌、鎮痛、鎮咳、利尿、緩下ということでした。昔は、これにレスベラトロールが含まれているなどという知見はありませんでしたから、あくまで虎状根の効能として利用されてきました。
今ならどうするか…。レスベラトロールは水には溶け難く(0.03g/L)、エタノールには多く溶けます(50g/L)。そのため、煎じるという行為では、レスベラトロールの多くが抽出されてこない可能性があります。従いまして、理想的には乾燥粉末にしてしまって利用することです。次には、アルコール抽出して、その抽出物を利用する方法もあるでしょう。
イタドリ根の全てを摂取すると、レスベラトロールと、その他の成分の混じったものを摂取することになり、これは相乗効果が出てメリットの方が多くなると考えられます。因みに、抽出物(イタドリ根エキス)を外用した場合の生理作用も図に挙げておきましたが、抗菌、抗酸化、抗炎症、鎮静、止血、細胞賦活、美白、抗老化ということになります。「痛みが取れる→イタドリ」の根拠になっているのは前記の抗炎症や鎮静です。そして、その他の生理作用を合わせると、概して言うならば皮膚に対して抗老化作用を示す、ということになります。
以上のように、イタドリの根には高価格であるレスベラトロールが多く含まれていますので、これを利用しないのは勿体無いと言えるでしょう。勝手に生えてきてどんどん増えていく嫌われ者ですから、地中に張り巡らされていく根を根こそぎ掘り起こし、健康増進&抗老化に利用するのが良いでしょう。神様の恵みですから、遠慮する必要は無いと思います。