祖先は巨大な貝塚が出来るほど多量の貝を食べていた

 裏を返せば、貝をあまり食べなくなった現代人は、亜鉛とタウリンの主要な摂取源を失ってしまった、ということになります。もちろん、海産の貝にはニガリの成分であるマグネシウムも多く含まれており、他には、うま味成分であり小腸粘膜のエネルギー源となるグルタミン酸、植物食ではほぼ得られないビタミンB12など、貴重な栄養素が多種類含まれていますが、やはり貝類を食べることの最大の恩恵は、亜鉛とタウリンをたっぷりと補給できる、ということに尽きると思われます。なお、このようなことは、栄養関連のWebサイトを検索すれば、どこにでも書いてあることですので、割愛します。

 さて、貝類の特徴ですが、体の外側に丈夫な貝殻を持っています。これの主成分は炭酸カルシウムなのですが、元々は体内の余分なカルシウムを体外に排泄し始めたことが、貝殻を持つようになったきっかけだと考えられます。カルシウムという元素は生命活動にとって欠かすことのできないものですが、多くあると細胞毒になりますから、これを排泄しようとします。私たちヒトにおいても同様で、「カルシウムをしっかり摂りましょう!」の弊害が、各種の疾患の原因になっています(最大の理由は、以前の記事『普通に食べているだけではMg欠乏症になる可能性が高い』にて述べましたように、細胞内におけるMg/Ca比率の低下です)。私たちが貝を食べるときは、貝殻を除いた部分、即ち、余分なカルシウムを摂らずに、中身体全に含まれる栄養素を漏れなく戴くことが、功を奏することになります。

 では、私たちが平均的な食事をしていると、なぜ亜鉛不足やタウリン不足になるのでしょうか…? これは、難しい理屈ではなく、少なくとも縄文時代から多量の貝類を食べてきたことが原因であると言えます。これは、自らタウリンを満足に生合成できないネコが誕生したことと同様の経緯があるわけであり、体外から得られる栄養素は、自らの合成能力が低下しても、更には、その合成能力を完全に失ってしまっても子孫を繁栄できたからです。
 一般的に、ある種の栄養素や生理活性物質を摂取したときに元気になったり病気が治ったりするのは、その栄養素や生理活性物質がパワーを持っているからではありません。その栄養素や物質が不足していたところに、それが補われたことによって細胞や組織や器官が機能回復したことによります。奇跡でもミラクルでもなく、当然の結果だと言えます。

 次に、亜鉛不足の現状ですが、公表されているデータによりますと、日本人を平均すると、摂取推奨量の約7割ほどしか摂れていないということです。亜鉛不足による最大のトラブルは、男性の場合の生殖能力の低下や前立腺がんを挙げることが出来ます。これも、血中濃度の話ではなく、前立腺の特定部分の亜鉛濃度低下です。兆候を感じる方は、すぐにでも亜鉛を補給してみてください。急に貝を多く食べ始めるよりも、信頼性のおけるメーカーの亜鉛サプリメントにて補給を始めてください。

 次は、タウリンについてですが、ヒトは体内においてアミノ酸のメチオニンやシステインからタウリンを生合成する能力を持っていますが、その能力については、予想以上に個人差が大きいのが現状です。おそらく、毎日のように多量の貝を食べ続けてきた祖先の末裔に当たる人は、タウリンの合成能力が低くなっている可能性が高いと予想されます。タウリンは、貝類以外では、イカやタコにも多く含まれていますので、海辺に住んで日常的にそのようなものを多く食べてきた祖先の末裔の方も、タウリンの生合成能力が低くなっている可能性があると考えられます。
 タウリンの生理的役割については今日は割愛しますが、健康の維持・増進に対して膨大な種類の役割を果たしています。「タウリン1,000mg配合」で元気が出るのは、上述しましたようにタウリンのパワーではなく、タウリンが不足しているところにタウリンが補給されたことによる機能回復の結果です。
 タウリンの補給についてですが、日本では、純度の高いタウリンは医薬品としてのみ使用可能になっています。日本という国のやり方は、人々の健康よりも企業の利益が最優先されますので、高純度のタウリンは栄養補助食品として認可されていません。従いまして、米国などの海外にて何種類も売られているカプセル製剤(1カプセル当たりタウリン1,000mgが主流)をご利用ください。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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