これを意識的に補給しなければ、脳の発達が遅れたり、脳の機能維持が出来なくなったりする、という極めて重要な脂肪酸を紹介しておこうと思います。
その脂肪酸は、DHA(ドコサヘキサエン酸)です。近年では様々な媒体にてω3(オメガ3)系脂肪酸の重要性が採り上げられていますから、多くの人が知り得るところでしょうが、その重要性は特に脳内のニューロンの性質にあることを強調しておきたいと思います。
私たちが、現代日本人の平均的な食事をした場合、脳内におけるDHAは必ず不足します。そして、脳の発達が遅れたり、満足に発達しなかったり、加齢に伴う能力(脳力)低下が著しくなったりします。また、菜食主義者と呼ばれる方々の多くはDHA不足を防ぐために、敢えて別にDHAを補給をされていることと思いますが、それを怠った場合には、加齢に伴う脳機能の低下速度が速まることになります。そのようなことになる理由は、ニューロンの特徴によるものだということになります。
掲載した図の上段に描かれているのは、ニューロンはDHAを、その場で生合成する役割を果たしているデルタ6デサチュラーゼという酵素を欠いていること(図の下部)と、肝臓やアストロサイトや内皮細胞が生合成してニューロンに供給するDHA量が極めて限定的であることです。そのため、ニューロンは食餌から供給されるDHAに依存しなければならないという状況になっています。
因みに、全身的には、左下の図に描かれているように、エゴマ油や亜麻仁油など、比較的高含有量で含まれているα-リノレン酸を元にして、多ければ5%ほど(妊婦さんの場合は、もう少し多い)がDHAへと変換されるとされています。しかし、これが脳内のニューロンに届けられる割合は極めて少ないということです。従いまして、人工乳にはそれなりの含有率にてDHAが添加されています。
併せて、次のことも重要です。それなりの量のα-リノレン酸を摂取していたとしても、これと競合関係にあるリノール酸を多く摂取していると、デルタ6デサチュラーゼという酵素はリノール酸からγ-リノレン酸への変換に使われてしまい、その結果として炎症を誘起するアラキドン酸、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどの過剰をもたらします。現代の子どもたちに多くにみられる様々なアレルギーは、何気なく多く食べている菓子類、揚げ物、その他多くの加工食品に含まれている多量のリノール酸が原因の一つになっています。
昔の日本人の場合、DHAを生合成できる海産の微生物をたっぷりと食べて育った魚(特に背の青い魚;サバ、イワシ、サンマなど)を多く食べていましたので、ある程度の量のDHAが得られていたのだと考えられます。しかし現代は、そのような魚を食べたとしても、含まれるDHAの量は少ないと予想されます。だからこそ、現代の平均的な食事をしていると、間違いなく脳内のニューロンに届けられるDHAが不足することになります。
現代に生きる皆さま、くれぐれも、DHAの補給を忘れないようにしていただければと思います。