リンパ心臓を持たないヒトは寝るときも動き回る必要あり

人類の祖先が両生類や爬虫類の頃は、「リンパ心臓」が備わっていた可能性あり

 今回は、リンパ液の流れについて考えてみようと思います。「リンパ液の流れなど気にしたことが無い…」という人もいらっしゃることでしょうし、マッサージなどを業としている人にとっては最大のターゲットになっていることでしょう。或いは、「最近、どうも浮腫(むく)みが酷くて…」と気にしている人もいらっしゃることでしょう。人によって様々だと思われますが、平均的には、ヒトはリンパ液の流れを気にしなくてはならない宿命になってしまった、と言えるでしょう。そしてそれは、あなたのせいではなく、動物の進化の途上で起きた変化によるものだということです。

 先ずは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左側を見ていただくことにします。これは、オタマジャクシと、その一部分を拡大した写真ですが、赤色の細い破線で囲った部分が拍動している様子を捉えた動画の一部を、静止画としてキャプチャさせていただいたものです。少々分かりにくいかも知れませんが、上側の写真は拍動中の拡張時であり、下側の写真は拍動中の収縮時です。拍動している〝もの〟の、おおよその輪郭を赤色の破線で囲ってみましたので、上側の写真の赤枠のほうが少し大きいことを確認できると思います。要するに、この部分が心臓のように拍動しているということです。
 この3ヵ所は、外側から見えやすい位置に在るものであって、これが全てではありません。胴体の部分にも幾つも備わっているとされています。その拍動は0.5~数秒に1回の割合でランダムであり、この3ヵ所が同調して収縮するときもありますし、1か所だけ、または2ヵ所だけが収縮するときもあります。そして、これが〝リンパ心臓〟と呼ばれるものだということです。
 もちろん、血液の場合は、それを環流させている心臓が別に在って、それは規則正しく拍動していますので、このリンパ心臓は、リンパ管に備わっているリンパ液環流専用の心臓だということになります。

 何故こんなものが…、ということになるでしょう。図の中央上段にオオサンショウウオの写真を載せましたが、水族館に行ってこれを見付けて眺めていると「あれ?全然動かないね~」ということが多いと思います。彼らは捕食活動や逃避行動をするとき以外は、じーっと潜んでいます。無駄なエネルギー消費を抑えたいといったところでしょうか…。これをヒトが真似をすると、先ずはしんどくなり、やがてどこかの関節が痛くなってきたり、下方に位置していた部分が浮腫んできたり、更にはエコノミークラス症候群に罹ったり、圧迫されていた部分に褥瘡(じょくそう)を生じたりするようになります。従いまして、オオサンショウウオのように、長時間にわたって静止状態を続けることは、ヒトにおいては不可能だということになります。
 「でも、心臓は動いていて、血液も循環しているはずなのに…」ということでしょうが、例えば、傷などをして毛細血管や静脈を切ってしまったとします。すると、その部分から出血してきますが、出血するということは、それなりの圧力、即ち血圧が掛かっているということです。そして、組織内に生じた老廃物は、毛細血管から静脈に流れ込んで処理される、というイメージを持つことは間違いではないのですが、血圧が掛かっている毛細血管の中に全ての老廃物が流れ込むことは物理的にも不可能です。だからこそ〝下水道〟の役割をする〝リンパ管〟という管が、動物進化の過程において設けられることになったわけです。
 上述の理由によって、リンパ管に血圧のような圧力を掛けてしまうと老廃物が流れ込まなくなりますから、大きな圧力を掛けることはできません。しかし、リンパ管はやがて静脈に繋がって、中を通るリンパ液を静脈中へと流し込むようにしなければなりませんから、静脈圧には少し勝てる程度の圧力を掛けてやる必要があります。そのため、リンパ管の何ヵ所かにポンプ、即ち、リンパ心臓が設けられることになりました。
 因みに、リンパ心臓を持つ動物種は、カエルやサンショウウオだけでなく、肺魚などの原始的な魚類、両生類や爬虫類の全て、原始的かつ飛ばない鳥類たちです。彼らが持っているリンパ心臓の個数は、種によって様々のようですが、少ないものは10個程度、多いものでは100個以上のものもいるそうです。

 そして、ヒトを含めた哺乳類は、その進化の途上にてリンパ心臓を失うことになりました。その理由は、リンパ管の至る所に逆流防止弁を設け、筋肉を始めとした組織を膨らませたり、体を曲げることによって圧迫したり、それらから開放したりすると、リンパ管中のリンパ液を一定の方向に流すことが出来たからです。灯油などを汲み出す手動式ポンプのように、逆流防止弁が設けられていれば、単に圧迫と開放を繰り返せば、内部の液体が一方向に流れる、という仕組みです。併せて、哺乳類はじーっと静止していることが少なく、常に動き回っている状態が多いですから、その全身的な動きをポンプの代わりに使うことが可能であった、ということです。
 なお、リンパ管自体も微妙に収縮を繰り返していることが明らかになってきているのですが、それはリンパ液を静脈に送るためではなく、組織中から組織液(リンパ液の元)を吸い上げるためだと解釈されています。

 以上のように、結果としてリンパ心臓を失うことになってしまったヒトが、長時間にわたって静止状態を続けた場合、当然の結果としてリンパ液の滞留が起こり、上述したようなトラブルが発生します。従いまして、私たちは、体を動かし続けなければならないという宿命を背負ってしまったわけです。
 図の右端に、保育園の子どもたちが寝ている様子を写した写真を引用させていただきましたが、子どもたちは寝ているときであっても大きく動き回っています。逆に、じっーと大人しく寝ている子どもがいれば、その子はリンパ液の環流が悪くなり、健全な発達にブレーキが掛かることになるでしょう。大人が教えなくても、子どもたちは自然の摂理に従って強かに生きていることになります。
 私たち大人も、同じ姿勢を保って寝相良く眠るのではなく、大いに動き回って眠ることをお勧め致します。

 
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