睡眠導入だけではないメラトニンの多彩な健康効果

 私自身、メラトニンを愛用し始めてから20年以上が経過しています。掲載した図は、2021年に公開された総説論文中の一つですが、これまでに報告された数々の研究成果がまとめられたものになっています。和訳を入れておきましたが、上方から時計回りに、概日リズム調節、フリーラジカル消去作用、生殖調節作用、抗老化作用、抗がん作用、抗炎症作用、免疫調節作用、の7つに集約されています。そのそれぞれが、私たちの健康維持や健康増進にとって欠かすことのできない作用ばかりです。では、主なものを簡単に見ていくことにします。

 既にメラトニンを愛用している人もいれば、その名前を初めて聞くという人もいらっしゃることと思います。メラトニンは、ヒトを含めた脊椎動物では、主に、脳内の松果体という小さな器官で産生されて分泌されます。概日リズム調節に関わっており、夜間に分泌量が増えることによって、私たちは眠くなり、眠りに落ちていくことになります。そして、一般的に、松果体からのメラトニン分泌量は、加齢とともに減少していきますので、それに伴って眠り難くなる人の割合が増えていきます。そのような時、サプリメントとして売られているメラトニンを、眠りたい時刻の15~20分ぐらい前に飲めば、眠りたい時刻には眠くなる、という使い方ができます。因みに、用量は、初めての方であれば、1~3mgから始め、様子を見ながら必要に応じて5mg、それでも眠れないのなら10mgへと増量していけば良いでしょう。

 次に、メラトニンならではの貴重な作用は、乳がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がんなど、特に性ホルモン性のがんを強く抑制することです。因みに、その他のがんについても、がん細胞のアポトーシス促進、がん細胞増殖抑制、血管新生抑制、転移抑制などによって、抗がん作用を示すという論文が続々と出てきています。
 メラトニンと性ホルモンの関係は次のようです。メラトニンには、性ホルモンの過剰分泌を抑制する作用があります。例えば、小学生の頃は、眠っているときに大きな地震が来ても気づかないという、非常に深い睡眠状態が作られますが、これは脳内におけるメラトニン量が非常に多いからです。併せて、その大量のメラトニンによって性ホルモンの分泌が抑制されるため、性成熟も抑制されます。やがて中学生頃になるとメラトニン分泌量が、ある程度減少してきますので、性ホルモン産生の抑制が外れて思春期を迎えることになります。これは、掲載した図における生殖調節作用でもあります。
 また、次のような現象も生じます。職種によっては、どうしても避けられないことですが、夜勤を伴う仕事をされている場合です。特に、妊娠・出産の経験の無い女性の場合は、多量の性ホルモンを無難な物質へと分解処理する能力が獲得できていないため、性ホルモン分泌を抑制する役割を果たしているメラトニンが夜勤のために減少すると、多量の性ホルモンが分泌されることになり、その代謝産物がホルモン性のがんのリスクを高めることになります。従いまして、比較的若い世代の方も、夜間に眠ることができず昼間に眠ることになる場合には、足りない分のメラトニンを、サプリのメラトニンにて補って頂ければと思います。

 抗老化(アンチ・エイジング)の効果についてですが、それはフリーラジカル消去作用、抗炎症作用、免疫調節作用などの、総合結果でもあります。また、別の機序としては、砂時計の中の砂の量が徐々に減っていくように、体内におけるメラトニン分泌量が徐々に減っていくことが寿命の時計の本体であろうとする捉え方があり、メラトニンを体外から補うことで抗老化、または若返ることができるのではないかと、米国を中心にメラトニンが「若返りの秘薬」として脚光を浴びた時期がありました。機序がどうであろうが、フリーラジカル消去作用をはじめとした上述の種々の機序によって、間違いなく抗老化作用を示すことになります。

 なお、このように優れた健康効果を示す物質は、日本では公に広められることはありません。一方、米国ではサプリメントとして、誰もが一般的なストアで買うことができます。その差は、例えば発がん率の低下速度にも現れており、日本における発がん率が速やかに低下していかない一因です。日本は、病人が減らないように、そして、医薬品が多く売れるように、全体の舵を切られているわけです。

 
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