電子レンジの悪影響は?

電子レンジの影響

 今回は、リクエストいただきましたテーマについて述べてみたいと思います。そのテーマは〝電子レンジ〟に関する事なのですが、なかでも特に〝電子レンジの危険性の科学的根拠〟ということでした。なるほど、Web検索してみると、全く正反対の内容が入り乱れている状況であることがわかりました。こんな状況では、多くの人が不安を感じたり、第三者に伝えるときに、一体どちらの意見を信じればよいのか…、と迷ってしまうこと必至です。そこで、これを解決しておくことにします。

 基本的なところから順番に押さえていくことにしましょう。電子レンジが食品を加熱するために用いている方法ですが、電磁波の特定の領域である2.4GHz(ギガヘルツ)を食品に照射するという方法です。
 なぜ2.4GHzなのかについてですが、アメリカ(南北両アメリカ)の電子レンジは915MHzを用いていますので、原理的には必ずしも2.4GHzでなくてもよいことになります。両者の特性上の違いは、波長が短いほど食品の深部にまで届き難くなる代わりに、より小さな電力で表層部分を加熱することが可能になります。従いまして、日本が選んでいる2.4GHzは、どちらかというと小さなものを効率よく加熱するのに向いています。一方の915MHzは、波長が比較的長いですから、大きな食品の内部にまで電磁波が届き易くなりますので、大きなものを温めることが多そうなアメリカにぴったりの選択だと言えます。

 では、なぜ2.4GHzとか915MHzなどというような細かくて中途半端っぽい数値の周波数になっているのかということですが、これらが該当する〝電波〟の周波数帯域は、各種の通信機器が用いている周波数帯域になります。通信事業者は、周波数が他者のものと重なってしまうと混線して通信が出来なくなりますから、通信技術が進歩し始めた頃から早い者勝ちのように自分たちが使う周波数を決めていきました。そして今や、空いている周波数帯域は無い状態になっています。そこで、出来る限り電波という資源を分かち合おうということで、国際的にキメ細かな規約が定められるようになりました。そのうち、〝加熱〟などという、通信以外の用途に用いても構わない周波数が幾つか決められることになりました。
 それは即ち“産業科学医療用バンド”、或いは“ISMバンド(アイエスエムバンド;Industry-Science-Medical band) バンド”とも呼ばれるもので、24.125GHz、5.8GHz、2.45GHz、
915MHz、40.68MHz、27.12MHz、13.56MHz、6.78MHz、という7種類に決められました。そして日本の電子レンジは2.45GHzを選び、アメリカの電子レンジは915MHzを選んだというわけです。
 「あれ? 最初の文章では〝2.4GHz〟になっているのに、ISMバンドでは〝2.45GHz〟になってますね。脱字ですか?」という疑問が生じたと思われますが、掲載した図(高画質PDFはこちら)の中央下の小さな図を見ていただけますでしょうか。本当は、日本の電子レンジは2.45GHz以外の周波数の電磁波を放出してはいけないのですが、どうしてもその前後の周波数も出てしまうのです。
 例えば、パソコン環境で用いているWi-Fiは、2.4000GHzから2.4835GHzまでを細かく13区分し、時と場合に応じて他のWi-Fiと混線しないように機器が自動的に選ぶように設計されています。ただ、発信の精度上、隣のチャネルに該当する周波数成分も生じてしまうのですが、最も主となる周波数が判断されて使われることになります。図の左端の例では、チャネル1、6、11が使われている場合が示されています。
 ところが電子レンジの場合、中央の図に示されているように、2.4GHz帯全域に亘る電磁波が放射されています。これでは、Wi-Fiを用いているときに近辺で電子レンジを使われると、Wi-Fiによる通信が途絶えたりします。これは、比較的よく起こる現象ですので、記憶にとどめておいていただければと思います。

 「Wi–Fiへの悪影響は分かりましたが、人体に対してはどうなんですか?」という質問が次に出てくることと思われます。
 少なくとも最近の大手メーカー製の電子レンジは、加熱に使う電磁波が機外に漏れ出ないように、しっかりと遮蔽するように努めています。そして、少々古くて雑な電子レンジから電磁波が漏れ出てWi-Fiに影響を与えたとしても、その強度はWi-Fiに使われている電磁波の強度レベルだということです。
 「スマホはいつもポケットに入れていて、そのスマホは頻繁に外部との交信をしているようです」という人が、たまにしか使わない電子レンジの危険性を強調するのは、少々おかしいということになります。なお、電磁波は周波数によって異なった影響を心身に与えることを否定できませんが、電子レンジとWi-Fiは競合するぐらいに重なっていますから、比較しやすいわけです。
 因みに、我が家の場合、スマホにメールなどが届くときに「ジー」と鳴るパソコン用の古いスピーカーがあるのですが、部屋内の電子レンジを使っても反応しませんので、Wi-Fiの電磁波のほうが遥かに強いことが分かります。

 2.45GHz帯の電磁波は、温熱治療器に用いられていることを紹介しておきます。図の右下に、いわゆる〝マイクロ波温熱治療器〟の一例を挙げておきました。まさしく電子レンジと同様の電磁波を用いて患部を温める装置です。電磁波の出し方は何パターンかあり、間欠照射ができたりなど、被曝量を抑えながらも加温効率が高まるようなプログラムが用意されています。とはいえ、2.45GHz(±50MHz)の電磁波で関節部分を温めるわけですから、Wi-Fiごときの低レベルの電磁波強度ではありません。
 医療機器ですから、限界ギリギリまで電磁波の強度を高めてあるわけですが、使用上の注意事項があります。代表的なものは、この電磁波が眼球に当たると水晶体を白濁させる可能性があるため当たらないようにすること。ペースメーカ使用者への照射をしないこと。睾丸への照射は生殖機能に影響があるため行わないこと。成長期の患者さんには骨端細胞の成長に影響があるため使用しなこと、などが書かれています。即ち、強い2.45GHzを体に受けた場合の傷害/障害は、上記のようなものだということになります。

 マイクロ波によって加熱される原理を図の右上にまとめておきましたが、ごく簡単に言うと次のようです。加熱される対象物は、その殆どが〝水〟です。即ち、分子に極性があって、分子サイズが水分子程度の大きさである分子が影響を受けるだけであって、タンパク質、脂質、糖質そのものは、少なくとも電子レンジ程度の強度の電磁波の影響を受けません。
 水分子に電磁波が当たると、電界(電場)の向きの変化に合わせて水分子が方向転換しようとします。この場合、マイクロ波よりも周波数が低い電磁波であれば、電界の方向変化に水分子の方向変化がしっかりと追随します。逆に、マイクロ波よりも周波数が高い電磁波であれば、電界の方向変化に水分子の方向変化が追い付かず、水分子は震えているだけになります。ところがマイクロ波の周波数の場合、電界の方向変化に対して水分子が遅れながらもしっかりと方向転換することになり、その遅れの分のエネルギー損失(誘電損失の分)が熱となって、水を加温することになる、という原理になります。

 結局、〝電子レンジの危険性の科学的根拠〟という命題の結論は、しっかりと作られている電子レンジを使っている限り、直接的な健康被害を心配する必要は無い、ということになります。
 なお、間接的な事では、例えば〝電子レンジ不可〟と明示されているプラスチック容器に食品を入れて加熱するとか、加熱によって不健康な成分(トランス脂肪酸など)が生じやすいものを加熱するとかは、避けるべきでしょう。
 では、電子レンジは積極的に使ったほうが良いのかといえば、そうではありません。そもそも、電子レンジに限らず、熱くなるまで加熱したものを食べる生き物は人間だけだということです。熱いものを食べる習慣は、口腔内や喉の部分の粘膜損傷、更には発がん率を高めますので、絶対にやめておくべきです。また、冷えたままのデンプンは大腸にまで届いて腸内細菌を養ってくれますから、大変貴重な食べ物になります。何でもかんでも電子レンジで温めてから食べる癖のある人は、すぐにでもその癖を治しましょう。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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