さりげなく筋肉量と筋力を増大させる方法

朝一のアミノ酸またはプロテインの補給

 タイトルにしました「さりげなく」の意図するところは、決してボディビルダーのような激しい筋トレと栄養補充をせずに…、ということです。もちろん、ボディビルダー用のプログラムはあるわけですが、体に対して「過剰」に当たることが色々と出てきますので、健康長寿や美容に対してはマイナスになることも多くなります。従いまして、マイナスにならない程度の筋肉量の増量、筋力の増大を目指し、しかも各臓器に負担のかからない栄養戦略のポイントを述べてみたいと思います。

 最大とも言えるポイントは、朝の活動前に、しかるべきアミノ酸、またはプロテインの1回目を摂取することです。
 その理由は次のようです。私たちの血中(血清中)におけるアミノ酸の種類と、それぞれの濃度は、想像以上に厳密に一定の範囲に維持され続けています。因みに、これが少々乱れるときというのは、何らかの疾患にかかっているときです。話を戻しますが、夜間の寝ている時間帯には食事をしませんので、朝方には空腹の状態になります。血中の糖分濃度が範囲を超えて低下しそうになると、肝臓に蓄えられていたグリコーゲンがブドウ糖へと変換されたり、貯蔵脂肪がブドウ糖へと変換されたりして血糖濃度が保たれます。一方、血中のアミノ酸濃度が低下しそうになると、筋肉内の組織液に極わずかに蓄えられたアミノ酸(アミノ酸プール中のアミノ酸)が血中に補充され始めますが、それはすぐに減ってしまいますので、筋肉を構成しているタンパク質を分解することによってアミノ酸を得る機構が働き始めます。従って、朝食を抜いたり、朝食を炭水化物や野菜がメインの軽食にした場合、昼食までには、それなりに筋肉量が減少することになります。だからこそ、一日の活動を開始する朝に、しかるべきアミノ酸、またはプロテインを摂取すれば、筋肉量の減少を食い止めることが出来るということです。
 例えば、農業、漁業、林業、その他の肉体労働に従事していて、食事量も決して少なくはないのに、筋肉が全然付かない…、という場合の多くは、夜間に少し太った筋線維が、翌日の朝から昼にかけて痩せ、結果として「±0」で維持されているということです。或いは、一生懸命に筋トレしてプロテインを摂取している人でも、朝に補充しなかったために、午前中に筋肉を痩せさせている人もいます。

 では、補給するなら、どのようなものが良いのかの話に移ります。プロテインにつきましては、特に健康を重視するならば植物性のプロテインが理想的ですが、少し高価になりますので、その他のものでも結構です。
 摂取量につきましては、体格、運動量、食餌からのタンパク質摂取量によって大きく異なってくるわけですが、概して言うならば、1日のタンパク質摂取量を、自分の体重をkgで表した時の数字にgをつけた量(体重が60kgであれば60g)を最低限とします。因みに、ボディビルダーや筋力系のアスリートは、その4~5倍を摂ることもありますが、体内におけるアンモニア生成量も相当増えることになりますから、一般の方にはお勧めできません。
 話を戻しますが、1日のタンパク質摂取量が判れば、足りない分をプロテイン製剤にて補うことになり、1日に3回補給するのなら、3で割り算した量のプロテインを、1回目として朝に飲めばよい、ということになります。補給回数の考え方は、小腸内、そして血中におけるアミノ酸濃度の変動を極力避けるために、多数回に分けることが重要です。
 もう一つ、注意点としては、糖質を制限したためにアミノ酸が全身のエネルギー源になった場合、外れたアミノ基がアンモニアを形成することになりますので、そうならないように、充分量の糖質を摂ることが必要です。

 では、アミノ酸の話に移ります。アミノ酸については、アスリートや高齢者、筋力回復を急ぐ人、ファスティングによる筋肉量減少を防ぎたい人などの場合に利用すれば効果的だということになります。もちろん、別に費用が掛かることになりますが、筋肉量増大のために必要なアミノ酸だけを摂ることになりますから、その分、プロテインの摂取量を減らすことができますので、考え方次第だと思います。
 さて、その場合のアミノ酸の種類ですが、先ずはロイシンです。ロイシンは、分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids、BCAA、(ロイシン、イソロイシン、バリン))のうちの一つです。このアミノ酸は、栄養素の一つというよりも、筋肉における諸々の代謝系に対して生理的作用を示す生理活性物質であると捉えることもできるアミノ酸です。その代表的な生理的作用は、タンパク質の分解を抑制したり、タンパク質の合成を促進したりすることです(掲載した図参照;高画質PDFはこちら)。なお、ロイシンは、体内で使われるときにHMB(β-ヒドロキシβ-メチル酪酸)を経由しますので、直接的にHMBを摂れば更に有効となりますが、価格的には上乗せされることになりますので、無理しなくても結構だと思われます。また、BCAAの製剤も多種類販売されていて、イソロイシンやバリンも必須アミノ酸ですから、BCAAを併せて補給しておいたほうが良いと言えます。ただ、筋肉に対する作用の中心はロイシンです。摂取量につきましては、これも体格によりますが、概して言えば、1回に3~5g程度を目安にすればよいと考えられます。

 次には、グルタミンです。これは、小腸粘膜細胞や免疫系細胞の主要エネルギー源であるというお話を既にしましたが、とにかく体内における使用量が非常に多いアミノ酸です。例えば、朝食によって補給されるグルタミン(またはグルタミン酸)の量が少ない場合、昼までには、筋肉を分解してでもグルタミンを確保するように代謝系が切り替わります。即ち、グルタミン不足を補うためにも筋肉が分解されてしまうわけです。ファスティングをされた場合は、この現象が最も大きな影響を与えるわけで、小腸壁が薄くなって委縮していくと共に、筋肉量も非常に速く減少していきます。体重が減ったと喜ぶ人もいるでしょうが、筋肉の減少分が相当加わっていることになり、これがやがてリバウンドを生むことにもなります。アスリートの場合は運動能力の低下を招きます。
 話を戻しますが、グルタミンはプロテイン製剤中に平均的には5%前後含まれていますので、活動量の多いアスリートを除けば、プロテイン製剤によって補うことも可能だと考えても結構かもしれませんが、経済的に許せるのなら、1回に3~5g程度を補給するのが良いと考えられます。

 もう一つ挙げるとすれば、それはβ-アラニンです。これは、持久的運動をする人にとってはお馴染みのイミダゾールジペプチドを構成するアミノ酸の一つです。因みに、もう一つはヒスチジンですが、イミダゾールジペプチド合成において律速要因になっているのがβ-アラニンなので、こちらのほうが重要になってくるわけです。
 持久性運動がメインのアスリートはぜひ補充すべきですが、それ以外の人で、筋肉量維持のためであるのならば、少量(1回に2~3g)の補給で結構だと考えられます。
 プロテインとアミノ酸の話で、結構長くなってしまいましたので、他の事につきましては稿を改めることにします。今日のところは「午前中の筋肉分解を防ぐ方法」として読んでいただければ結構かと思います。

 
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