血流制限(BFR)トレーニングの効果

血流制限トレーニングの効果

 運動をしなければならないが、足を負傷してしまって歩けない状態であったり、高齢になって普通に歩くことさえ出来なくなった場合などにも、筋力アップが図れる唯一と言ってよい方法が〝血流制限トレーニング〟です。これは、歴史は比較的あるほうですが、近年ではリハビリテーションの分野で医療行為の一つとして行われることが増えてきました。そして、医療行為として行うための詳細な研究データも追加されつつあります。なお、ボディビルをはじめとしたスポーツトレーニングの分野におきましては、従来から馴染みの深いトレーニング方法でもあります。

 この方法の最大のメリットは、運動強度が低いトレーニングであっても、高強度のトレーニングを行った場合のような筋肥大や筋力増強が実現されることです。例えば、ウォーキング時に利用したり、ベッドに寝ころんで下肢を上下運動させるだけでも大腿四頭筋の筋肥大を実現することが出来ます。まさに、運動嫌いな人が、楽をして筋肉を付けたいと願う場合にも、ぴったりの方法になります。

 では、どのような方法なのか…ということについてですが、私たちが大きな力を出すときには筋肉が強く収縮します。その時、筋肉内の体液(間質液や血液)が筋肉の外側へと絞り出される形になります。例えば、何か重いものを持って3秒間耐えたとすると、その間に筋肉内の体液の何割かが筋肉の外側へと押し出されていき、その結果として、エネルギー源が乏しくなると共に代謝産物の濃度が高まっていきます。そして、その状況が脳に送られ、その程度が激しいほど、次回までには筋力を相当増やしておかなければならないなぁ、と判断することになります。
 それならば、筋肉に大きな力を出させなくても、意図的に体液の供給を止めてやれば、同様の結果になるのではないか…ということです。その、意図的に体液の供給を止める方法が、太ももの付け根などに何かを巻き付け、強めに縛り上げる方法になります。
 因みに、以前には「加圧トレーニング」というものが流行しましたが、これは静脈血の流れは制限するけれども動脈血の流れまでは制限しない、という考え方でした。一方、血流制限トレーニング(blood flow restriction(BFR)training)は、動脈血も、ある程度制限することになります。

 掲載した図(高画質PDFはこちら)の左端に、下半身の血管が分かりやすく描かれた図を載せておきました。これは、ヒトの後ろ向きの図で、左脚の大腿部の根元に点線を入れておきましたが、この部分を外側から締め付けることになります。
 どの程度締め付ければよいのか…ということの根拠になるのが、血管が通っている位置です。動脈であろうが静脈であろうが、それが表層に在るのならば、少し抑えただけで血流を止めることが可能です。しかし、大腿部を通っている血管は比較的内部にありますので、これらに影響を与えようと思うと、それなりに強い力で締め上げる必要性の有ることが理解できると思います。逆に言えば、締め過ぎた場合でも悪影響は比較的少ないと言えます。

 実際に行われている方法としましては、締め上げる道具としてベルト状のものがあるわけですが、加圧カフと呼ばれるものと、加圧ベルトと呼ばれるものの2種類が一般的です。前者のカフは、血圧測定するときに腕に巻くカフと同様の原理のもので、締め上げる圧力が数値で示されるようになっていて、主に医療施設やスポーツ施設で使われています。後者の加圧ベルトは、価格もそれなりに安価であることから、個人ユーザーが使っていることが多くなります。
 締め上げる強さですが、一般的には、装着する部位の血流の50~80%が制限されるように圧力が掛けられます。言い換えると、本来の量の50~20%しか流れないように制限が掛けられるということです。カフを用いた場合は、締まっている圧力が数値として出てくるわけですが、男性では160mmHg前後の圧力(安静時収縮期血圧の1.3~1.4倍程度)が掛けられることが多く、女性では140mmHg前後の圧力が掛けられることが多くなっています。これは、脚の太さや筋肉量などが違えば、同じ圧力で絞めても血管の圧迫のされ方が違ってくるからです。
 なお、安価な加圧ベルトの場合、数値が出ないわけですから、その商品の説明書に書かれている強度で締め付けることになります。何らかの目安としましては、足先が青白くなってくるようでは締め過ぎだと思われます。大腿部は動脈と静脈が並行して走っていますが、静脈の方が血管壁が軟らかいですから、動脈の流れよりも静脈の流れが制限されやすくなります。すると、適切に絞められている場合は、静脈血が溜まってきますから足先が少し赤みを帯びてくることになります。
 装着している時間につきましては、それは締め上げる強さによっても変わってくるわけですが、締め上げて運動し、それが解放されるところまでがトレーニングになります。解放される瞬間の変化も重要なわけです。要するに、着けっぱなしでは意味が無く、着けて運動をしてから外すことに意味が出てきます。従いまして、装着時間はあまり長くならないようにするのが良いと言えます。
 また、使ってはいけない人についても説明書きがあるはずですが、もともと血管に閉塞が見られる人は、これを使うと更に血管を閉塞することになって危険です。その他、血管疾患(静脈瘤など)、種々の心疾患、高血圧の人は、その疾患によるリスクを高める可能性もありますので、使わないほうが懸命だと言えます。

 では、血流制限トレーニングの効果についてですが、図の右下に、該当する論文の一つを挙げておきました。即ち、血流を制限した状態で軽い運動を定期的に続けると、筋肉量や筋力の増大、脂肪組織の縮小、肥満の解消、筋脂質プロファイルや糖代謝の改善、血管機能の改善、その他として、骨密度の増加、リハビリテーションに用いて怪我や障害からの回復、高齢者の運動機能向上、種々ホルモンによる若返り、などが実現されます。
 このブログでは書き切れない細かいことが沢山あるのですが、筋力増強の一手段として、このような方法もあるというお話でした。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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