昔は竈から放射される近赤外線も乳がん予防に役立っていた

 現代においては、竃(かまど)を使っている人は稀でしょうし、お風呂を薪で沸かしている人も稀でしょう。また、暖房器具として薪や炭火を使っている人も、かなり少数だと思われます。それに伴って、私たちは近赤外線を浴びる機会が減ってきており、健康の増進や、がんを防ぐことに対して不利な状況になってきています。
 現代では、調理のために電子レンジやIHなど、近赤外線を発しない調理器具の割合が増えています。また、お風呂は沸いた湯を使うのみですから、お風呂の関連で近赤外線を浴びることはありません。或いは、暖房器具はエアコンの使用が増えており、これも近赤外線を発しません。
従いまして、結論的に言うならば、近赤外線を多く放つ暖房器具や調理器具の利用を増やすことによって、健康の増進や、特に乳がんなどの体表から浅い部分のがんを防ぐことが可能になる、ということです。

 まず、近赤外線(Near-infrared, NIR)についてですが、これは赤外線の中でも、最も赤色光に近い波長領域のものをいいます。日常において近赤外線を多く発するものは、薪などの炭素を多く含んだ物が燃えるときの炎、炭火、灯油ストーブ(ファンヒーターは該当しない)、電熱線が赤く熱せられるタイプの電気ストーブ、ハロゲンヒーターなど、赤っぽく光って熱を発する物です。

 次に、近赤外線が抗がん作用を示す機序についてですが、掲載した図中に書き込んだ内容になります。そもそも、がん細胞は、悪環境にて生き延びることに全勢力を使いますから、当面の必要性の低い機能は使わないようにしています。その必要性の低いもののうちの2つが、ここで関係してきます。
 1つは、プロトポルフィリン9という物質を、ヘムという物資へと変換する酵素の発現を見合わせていることです。これによって、がん細胞内にプロトポルフィリン9が蓄積することになります。
 2つ目は、細胞内に生じた活性酸素種を消去する機能の発現を見合わせていることです。見方を変えるならば、意図的に細胞内の活性酸素種を増やし、DNA変異を誘発しようとしているのだと解釈できます。
 さて、がん細胞内に蓄積したプロトポルフィリン9に近赤外線が当たると、この物質はそれを大いに吸収して励起し(エネルギーレベルを高め)、そのエネルギーを放出するときに多量の活性酸素種を生じます。そして、活性酸素種を消去する機能の発現を見合わせているがん細胞は、多量に生じた活性酸素種によって死滅してしまう、という結果を招くことになるわけです。

 近赤外線の、人体に及ぼすメリットは多くあり、それらについては別の機会に紹介させていただくことにしますが、何故そのようなメリットが得られるようになっているのかと言えば、私たちの祖先が火を使い始めてから何十万年という時間が経過する間に、人体は近赤外線を浴びることを前提として進化してきたのだと考えられます。他のこともそうなのですが、そこに有る(在る)物は、その物を有効活用するように変化していくのが生物進化における法則の一つです。火の使用は、火を使わなければ満足に生きていけない心身を作ってしまったのだと解釈することが出来ます。

 
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