環境問題の一つとして、宇宙にも目を向けてみましょう。宇宙と言いましても、人工衛星などが多く飛んでいる、地球からあまり離れていない、地球の周囲の宇宙の話です。そして、その地球周囲の宇宙の環境が、非常に悪い状態になってきている、というお話になります。
環境を悪化させている最大原因は、〝宇宙ゴミ〟とか〝スペースデブリ(space debris)〟などと呼ばれる「ゴミ」が凄い勢いで増加していることです。
何が「ゴミ」になっているのか…ということについてですが、通信衛星、気象衛星、軍事衛星などの人工衛星が、毎年のようにどんどん打ち上げられています。そして、その打ち上げ頻度は、年々増加の一途です。そのお陰で、私たちは世界のどこからも通信が可能になりましたし、自分の居場所も多数のGPS衛星によって非常に正確に割り出せるようになりました。例えば、今から40年以上前であれば、一般市民のレベルでは、そのようなことは不可能でした。
では、30年ほど前に遡ってみましょう。この頃にようやくインターネット、衛星放送、国際的な通信、GPS機能などが使えるようになってきたわけですが、その頃には旧型の各種の人工衛星が活躍してくれていました。
その後、30年経った今はどうなっているでしょうか…。格段に高性能な各種の人工衛星に置き換わっています。では、古くて役目を終えた人工衛星はどうなっているのでしょうか…。これは、役目を終えた人工衛星を無難に回収することにおカネをかけるぐらいだったら、新しい人工衛星の開発・打ち上げ・運用におカネをかけたほうがよい、という考え方の結果になっています。即ち、役目を終えた古い人工衛星は、その多くが「放置」の状態なのです。そして、静止衛星ほどの高所まで打ち上げられた衛星はそのまま地球の周囲を回り続けますが、それよりも低いところで働いていた人工衛星は、ごく薄い大気の影響で速度が徐々に低下していき、どんどん高度を下げてきて、やがて大気圏に突入して燃え尽きることが多いわけです。だからこそ、放っておいても直ぐには大きな問題にならないであろうとして、放置されてきました。
掲載した図(高画質PDFはこちら)の中央下に、地球周囲の宇宙に存在している物体の存在割合が、円グラフで示されています。黄色く塗られている部分が「運用中衛星」の割合なのですが、これが「12%」となっています。即ち、現在働いている人工衛星は全体の1割強ほどだということです。そして、残りの88%(約9割)が「ゴミ」に相当するわけです。
「地球周囲の宇宙に存在している物体のうち、実際に役に立っているのは約1割」ということにつきましては、まさしく驚くべき事実ではないでしょうか…。たとえば、海に浮かんでいる船などの浮遊物のうち、現役で動いているものは1割だとすると、これは許せない気持ちになるのではないでしょうか。或いは、道路を含めた地上であれば、現役で動いているクルマが1割であったり、使われている建物が1割であったら、それは被災地を除けばあり得ない状況です。しかし、地球周囲の宇宙では、その状態になってしまっているということです。
では、上記の88%の内訳を見てみることにしますが、「運用終了衛星」が「15%」です。これは、壊れずに原形をとどめている、不用になった古い人工衛星の割合になります。そして、原形をとどめていない何らかの「破砕物」が「62%」を占めています。古い人工衛星も、破砕されたものが、これの何割かに相当しているはずです。もう一つは「使用済みロケット」です。地上から打ち上げられたロケットの1段目とか2段目などは落下してきて海などに落ちますが、人工衛星を格納した、或いはそれを連結していた部分のロケットは、人工衛星を周回させる軌道まで行きますから、それが地球周囲の宇宙に残っているわけです。これはもう、「ゴミ」でしかありません。
図の右下に、折れ線のグラフを引用しました。横軸は西暦で、データは2022年頃までになっています。また、縦軸は地球周囲の宇宙に存在している物体の数になっています。サイズの大きいものもあれば、1mm以下のものもあるわけですが、この場合の数は、地球からの探索によってカウント可能な大きさの物体に限られるわけです。精度の問題がありますので、実数はあまり気にせず、その増加の様子を確認していたければ結構です。
紫色で示されているのが「破砕物」なのですが、どんどん増加していってます。因みに、2007年ごろに大きく増えていることを確認できますが、これは中国が弾道ミサイルを使って老朽化した人工衛星を破壊する実験を行ったためです。そして、その破壊によって、2,841個の破片が生じた(周囲に散らばった)と報告されています。
また、2009年頃にも少し目立った増加がありますが、これは、ロシアの機能停止中の軍事通信衛星と、イリジウム社が運用中であった通信衛星とが衝突したことによるものだと報告されています。
人為的な破壊活動は、それを止めるようにすればよいのですが、意図しない衝突事故は大問題です。当時、まだ衛星の数も少ない時代に衝突が起こったわけですが、現在では衝突が非常に起こりやすくなっています。そのため、今は、衝突回避のためにも様々な装置や構造物を搭載しなければならなくなりました。もちろん、それで全てが防ぎ切れるものではありませんから、大きな問題の一つになっているわけです。
「破砕物」の怖さは次のようです。長さが1cm程度の金属片であっても、銃の弾丸の10倍程度の速さで地球の周囲を移動していますので、直撃すると宇宙船に穴が開きます。その対策としては、頑丈な覆いを設けることで内部まで貫通しない設計になっているそうです。しかし、長さが10cm程度の金属片が宇宙船に直撃すると、当たりどころが悪ければ宇宙船が大きく破損し、乗組員の命にも影響が出る可能性があるそうです。そのため、地上でも監視しながら、可能な限りの軌道修正を行ったりしているそうですが、万全だとは言えない状況です。
宇宙における宇宙ゴミの危険性は他にも沢山あるのですが、話を地上の方に向けます。地上なら安心だというわけではありません。掲載した図の左側に2023年と2024年に起こった「宇宙ゴミ(スペースデブリ)落下事故」を掲載しました。これは、発見されて、何らかの報告書になったものだけが挙げられていますので、氷山の一角かも知れません。その中で、2024年3月に起きた事件と、2024年12月に起きた事件の「ニュース」の一部分を図の中央に掲載しました。
このうち、3月の落下事件は、4月17日にマスメディアにて報道されました。落下してきた金属片は国際宇宙ステーションから放出されたもので、フロリダ州にある民家の屋根を貫通し、2階部分の天井を貫通し、2階部分の床と1階部分の天井を貫通したそうです。1階に息子さんが居たようで、怪我をするところだったそうです。その後、NASAに対して損害賠償を請求されたそうです。
上の例は、落下物が小さかったからまだマシだったのでしょうが、12月に落下したものは巨大なリング状のロケットの部品で、重さが500kgほどだったそうです。これは、村の茂みに落ちたため大きな被害にはなりませんでしたが、これが民家に落下していたら、住民は命を奪われていたかも知れません。非常に恐ろしい事故だと言えます。
実際のところ、宇宙事業関係者の間で宇宙ゴミの落下を確認できたとしても、一般住民が気付かなかったものについては、マスメディアによる報告は行われないのが一般的だそうです。もし、全てを報告してしまうと、「キミたちは何という危ない事業をやっているんだ」などとお咎めが入って当然だからでしょうし、必要以上の恐怖感を与えるのも問題だということなのでしょう。
どれだけ健康に気をつけていても、どれだけ交通事故に気をつけていても、まさか空からいきなり重い金属片が降ってくるなどとは夢にも思わないことでしょう。「滅多に人には命中しないだろう」とする見解もあるのですが、このような見解は過去のものであって、将来的なリスクを言ったものではありません。今後も宇宙ゴミは増え続けることが必至ですから、怖いのはこれからだと言えます。まぁ、確率の問題だと腹をくくって、夜はそのようなことなど忘れて寝るしかないでしょう。万全を記すならば、ビルディングの最上階付近を避けることや、一戸建ての場合は頑丈な金属製のシェルターなどを用意して、その中で寝るようにすれば少しは安心できるかも知れません。