「ビタミン」と名の付く物質は、基本的には体外から補給しなければならない微量栄養素を指しますが、なかには腸内細菌によって供給されるものもあります。そのうち、腸内細菌による供給が最も期待できないビタミンが、ビタミンCであると言えます。即ち、必ず体外から補給しなければならないビタミンだということになります。
お猿さんが、雪に覆われた地域で越冬する場合でも、木の芽や樹皮を毎日のようにかじっている大きな理由は、まさしくビタミンCを確保するためであると解釈して結構でしょう。これは、人が何日間かのファスティング(断食)をする場合でも同様であって、だからこそ未加熱の野菜ジュースを1日に3回飲むことを甲田光男医師は義務づけたのだと考えられます。そうしなければ、患者さんの体調が悪化することを、理論的にも、臨床の場からも確信されていたのでしょう。
ビタミンCの全貌をコンパクトにまとめることは非常に難しいのですが、私なりに1枚の図(高画質PDFはこちら)にまとめてみましたので、それを元に簡単な解説をしてみることにします。
正式な名称は〝アスコルビン酸〟であり、これは立体化学的には〝L体〟と呼ばれる構造です。巷には〝L-アスコルビン酸〟と表記されている例がありますが、これに対する〝D体〟は〝エリソルビン酸〟という別名が付けられていますので、〝アスコルビン酸〟に敢えて〝L-〟を付ける必要はありません。
面白いことに、生物は〝L体〟のみを生合成します。掲載した図の左下方に〝D体〟である〝エリソルビン酸〟を挙げておきましたが、人間が実験室にて化学合成すると〝L体〟と〝D体〟の両方が生じてしまいますので、ビタミンCの工業的生産では主に発酵法が用いられています。因みに、後者は酸化防止剤として食品に添加されて使われています。抗酸化作用(還元作用)は非常に強いですが、ビタミンCとしての生理作用は確認されていません。
さて、アスコルビン酸が「ビタミン」になってしまった理由ですが、大昔(約6,300万年前)に合成酵素の一部(L-グロノラクトンオキシダーゼ)をコードする遺伝子に致命的な変異を生じてしまい、その酵素活性を失ってしまいました。図の左端に進化の系統樹の一例を示しておきましたが、お猿さんの仲間の多くが、要するに〝ビタミンC〟を自分で合成することが不可能になりました。だからこそ、そのようなお猿さんも、ヒトも、毎日のように植物を食べ続けなければならなくなった、というわけです。
それに伴って、ビタミンC不足による悪影響を少しでも補うために、体内における尿酸の濃度を高める工夫が凝らされました。これはまさに、神様の救いであるかのような出来事です。尿酸の抗酸化能力は非常に高いため、その濃度を高めてやれば、ビタミンCの機能の一部を肩代わり出来るということです。
具体的には、尿酸オキシダーゼ(尿酸酸化酵素)をコードする遺伝子の変異も確認されているのですが、その遺伝子ごと封印されていて機能していないようです。従いまして、ヒトという生体における抗酸化能を高めるための、意図的な発現変化であるような気がします。
ヒトの尿酸値は他のお猿さんに比べて圧倒的に高く、それによって高い抗酸化能が得られています。また、それによってヒトが長寿になっているのだと考えることも出来ます。
因みに、尿酸は少々水に溶けにくいですので、あまりに濃度が高まり過ぎたり、共存するタンパク質の濃度が低下したり、温度が低下したりすると、結晶化して痛風になるというデメリットも生じることになりました。
尿酸は、あくまで抗酸化機能だけですので、その他の機能はビタミンCでなければならないことに変わりはありません。そのため、ヒトもしっかりとビタミンCを摂り続ける必要があります。最近は、特にドリンク類にビタミンCが配合されることが多くなりましたが、糖分などを控えるためにそのようなものは飲まず、野菜や果物を食べる量も少なく、ビタミンCのサプリメントも飲まない場合、容易にビタミンC不足になります。
そのような人の場合、種々の病気に罹るリスクが高まり、全体として老化が促進されることになります。「ビタミンCの主要な働き」として図の右下にまとめておきましたが、個々については図から読み取ってもらうこととし、老化が速まるのは、それらの諸々の働きが全体的に低下する結果だと考えられます。
1日の推奨摂取量としては、一般的には多めであるとされる〝500~1,000mg〟を挙げておきました。この量をレモンから摂取しようとすると、レモン1個のビタミンC含有量を20mgとすれば、レモンを1日に25~50個食べなければならないことになります。これは現実的ではない量ですので、やはりサプリメントによって摂るのが手っ取り早いと思われます。しっかりと摂って、老化しない心身を得ていただければと思います。