ビタミンEのうちトコトリエノールは優れた抗がん作用を示す

「ビタミンE」は、4種類のトコフェロールと4種類のトコトリエノールの総称である。このうち、トコトリエノールの方に優れた効能がある。

 今回は、ビタミンEの話にしようと思うのですが、特に近年において見出された優れた作用に着目してみようと思います。
 本論の前に、最近はAIに聞くこともできますので、某大手検索サイトの検索窓に「ビタミンEとは」と入力してみると、次のような返事が返ってきます。
 ☆AIによる概要
 ビタミンEは、脂溶性のビタミンの一種で、強い抗酸化作用を持つ栄養素です。化学名は「トコフェロール」と呼ばれ、4種のトコフェロールと4種のトコトリエノールの合計8種類の化合物の総称です。
ビタミンEには、次のような働きがあります。
・体内の脂質の酸化を防ぎ、動脈硬化や血栓の予防、血圧の低下、LDL(悪玉)コレステロールの減少、細胞膜を健全に保つなど、加齢によって発症しやすい疾患の予防に役立つ
・女性ホルモンの分泌を調整したり、女性ホルモンの代謝に関わることで、更年期の症状を緩和する効果も期待されている
・血行促進や活性酸素を撃退する効果があり、美白効果や肌のくすみの改善が期待できる
・シミやシワなど肌の老化が原因でおこる肌トラブルの改善にもつながり、肌全体のトーンを明るく保つのに役立つ
 ビタミンEは、とうがらしやかぼちゃ、玉ねぎ、えだまめ、なすなどの野菜に多く含まれています。脂質と一緒に吸収されるため、油で炒めることによって効率的に吸収されます。
 ということでした。面白いですね! 何でもAIが答えを出してくれる時代になりました。しかし、このような機械に負けているわけにはいきません。…と言いますか、AIに新しい知見を入力して、更に成長させてやらなければやらなければなりませんから、頑張ってまいりましょう!

 ビタミンEの入門的な概略は、AIさんのお答えのようで結構だと思うのですが、これではあまり注目されないでしょう。もっともっと大切なお話があります。それは〝トコトリエノール〟のお話です。中でも、非常に優れた抗がん作用を示すことが複数の研究機関から報告されるようになってきましたので、それを中心に紹介しようと思います。
 先ず、トコトリエノールの存在比率なのですが、8種類の総称である〝ビタミンE〟の中でトコトリエノールを産生する植物種は非常に限られていることが大きな特徴です。上述のAIさんの答えに在った「とうがらし、かぼちゃ、玉ねぎ、えだまめ、なすなどの野菜」には殆ど含まれていません。即ち、これらには〝トコフェロール〟は多く含まれているのですが、〝トコトリエノール〟が殆ど含まれていないのです。なお、「ほとんど」という表現を使うのは、ゼロであることを証明することが難しいことによるものです。
 では、トコトリエノールは何に多く含まれているのかというと、玄米、アブラヤシ、大麦や小麦に、ほぼ限定されるようです。そして、ビタミンEの仲間は脂溶性ですから、油分に混じって存在しています。
 玄米ご飯を食べればトコトリエノールを摂取できますが、白米にした場合は米ぬかの部分にトコトリエノールが含まれていますので、恩恵を受けられないことになります。これは、非常にもったいないことです。米ぬかを捨てずにそこから〝米油〟を抽出すれば、その油中にトコトリエノールが含まれていることになりますので、どうしても玄米が嫌だという方には、米油を利用してもらう方法はあります。あとは、ぬか漬けのものを食べれば、少しはトコトリエノールを摂取できることになるでしょう。
 その他に含有量の高いのは、アブラヤシの実なのですが、これは一般的にパーム油として市販されています。また、大麦や小麦の胚芽にも含まれていますので、小麦胚芽製品を摂取するか、胚芽油を用いることでトコトリエノールを摂取できるでしょう。
 サプリメントですが、トコトリエノールの含有量の高いものが何種類か市販されています。抽出や精製に手間がかかる分だけ価格が少々高めですが、これを利用すれば確実にトコトリエノールを摂ることが可能になります。

 次に、今回注目する〝トコトリエノールの抗がん作用〟ですが、これは非常に多くの機序によって抗がん作用がもたらされていることが確認されています。掲載した図(高画質PDFはこちら)の中央寄りに6個の円で描かれている図がありますが、それは即ち「がん細胞のアポトーシス誘導」「がん細胞の細胞周期停止」「血管新生の抑制」「転移の抑制」「抗酸化作用」です。
 このうち、血管新生の抑制や転移の抑制に関する機序のみを、図の右下に引用しておきました。なお、この論文中には、上記機序の全てが図示されていますので、ご興味のある方は原著をご覧ください。
 併せて、2023年に報告されました「PD-L1を介した免疫抑制を緩和」することです。これは、がん細胞がT細胞による攻撃から逃れるために、T細胞のPD-1という免疫チェックポイント分子にPDL-1という表面タンパク質を結合させてブレーキをかける仕組みです。そして、トコトリエノールは、そのPDL-1の発現を抑制してしまうことが判ったわけです。要するに、がん細胞による免疫抑制が働かないようにしてしまうのであり、結果としてがん細胞が免疫細胞に攻撃されやすくなるわけです。

 その他、トコトリエノールの作用を、図中央下部に箇条書きにしておきましたが、即ち、抗がん作用、強い抗酸化作用、抗炎症作用、動脈硬化改善作用、LDL-コレステロール低下作用、高脂血症改善作用、脳機能保護作用、利尿作用、運動疲労の回復作用、皮膚の細胞賦活作用、ヒアルロン酸産生作用、色素沈着抑制作用、などです。

 摂取についてですが、日頃から玄米食や小麦胚芽などを摂っていれば、トコトリエノールの恩恵を充分に受けられるのではないかと思われます。また、サプリメントにて補う場合は、あくまで脂溶性成分ですから、過剰になることだけは避けながら、適宜摂取すれば良いと考えられます。
 なお、他の種類のビタミンEであるトコフェロールは、ビタミンCとの連携によって抗酸化機能を高めることが出来ますので、両者(トコトリエノールとトコフェロール)が含まれているサプリメントのほうが好都合だと言えます。その意味で、小麦胚芽などの天然物そのものを補給することも良いと考えられます。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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