ヒトは耳で超音波を拾うことが可能である

ヒトは耳で超音波を拾うことが可能である

 先にupした記事に『加齢に伴って高い音が聞こえ難くなる原因と対策』がありますが、今度は更に高い音である〝超音波〟についてです。超音波は〝超高周波音〟と同じことです。なお、超高周波音を浴びることの必要性につきましては、『生命信号を浴びると心身の機能が高まる』にて述べていますので、まだお読みでなければ、この後にお読みください。
 因みに、生命信号の記事を書いている頃には、今回ご紹介する知見は得られていませんでした。そして、虫の声や楽器などに多く含まれている超高周波音(超音波)はどこで聞くのか…という問いに対して、主に皮膚で聞くのだろうと考えられていましたので、それを紹介させていただきました。そして今回、ヒトは耳で超音波を聞くことが出来るという確証が得られたということですので、それを紹介することにします。

 では、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左上から見て頂くことにします。これは、超音波を耳で聞くのではなくて、骨伝導イヤホン(または骨伝導補聴器)と同様の信号の与え方で、即ち、耳の周囲の骨の部分に振動子を当てて超音波を与える方法です。因みに音波として与えればどうなのかということですが、聞こえないから超音波なのだという背景があることと、音波が聞こえない難聴者向けの補聴器の開発が目標としてありますので、自ずと骨伝導式(骨導式)による実験が行われています。
 さて、左端の図は、重度感音性難聴者が被験者になっています。なお、感音性難聴(感音難聴)というのは、蝸牛から聴神経に至る経路のどこかに障害があるために起こる難聴を指しています。その多くは高音部分から聞こえ難くなっていきますが、重度感音性難聴の場合は殆ど聞こえないという状態になっています。そして、そのような被験者に対して4種類の超音波、即ち22kHz、27kHz、32kHz、37kHzが与えられた時の、聴覚誘発脳磁界反応が示されています。
 結果としては、右脳の一部分に、何れの周波数においても反応が見られています。これは驚くべきことでしょう。音波でなく骨導として与えられたにしても、超音波が感受できて脳が反応しているということです。
 次に、その右側の図ですが、これは超音波によって活動度が高まった脳部位が色分けで示されているのですが、その部位はまさしく聴覚野だったということです。特に、22kHzと27kHzでは反応が顕著であったと報告されています。結局、音が全く聞こえない人であっても、骨導にて超音波を聞かせると、脳はしっかりと反応するということです。

 このような事実に基づいて〝骨導超音波補聴器〟の試作機が作られました。メカニズム的には、図の左下に描かれていますように、通常の音声信号を、超音波の振幅の変化として変調する方法が採られました。何かに例えるなら、AMラジオの変調によく似ていて、音声などの低い周波数の信号を1メガHz前後の電波の振幅の変化として表す方法に相当します。これにおきましては、AMラジオ受信機が1メガHz前後の電波を受信できるからこそ、低周波である音声を再現することが可能になるわけです。同様に、難聴者であっても超音波が感受できれば、音声を脳で再構成できることになるわけです。
 因みに、現在、骨伝導超音波補聴器は研究開発の途中です。超音波を使わない「骨導補聴器」(骨伝導式集音器)は何種類も出回っていますが、それとは別のものです。

 次に、超音波の周波数に相当する振動が、どのようにして感知されるのかについて、他の研究機関から新たな事実が発見されましたので紹介します。これについて、掲載した図の右側に、ポイントのみをまとめてみました。この手の実験では、ヒトの内耳に電極などを差し込むことは許されませんので、モルモットを用いた実験の結果になります。
 例えば、18kHzの高音(基音)を聞かせた場合に蝸牛中で起こる現象が下方の図に示されています。18kHzというと、ヒトに例えると、少なくとも30歳代以降の人には聞こえないモスキート音です。ところが、18kHzを受けた蝸牛中の基底版は、然るべき部位が振動するわけですが、同時に共振を起こして、その整数倍の周波数に該当する部位でも弱く振動する現象が捉えられたのです。具体的に言えば、18kHzの2倍に当たる36kHz、3倍に当たる54kHzの部位でも弱く振動します。或いは、18kHzの2分の1である9kHz、3分の1である6kHzでも弱く振動します。
 だからこそ、18kHzそのものが聞こえない30歳代以降であっても、共振によって生じる9kHzや6kHzの混じった音が弱く聞こえる、ということになります。

 では、全体を通して理屈をまとめてみます。概して、軟らかい物や重い物ほど、速く振動し難くなります。逆に言えば、軽くて硬いものは速く振動することが出来ます。耳の構造においても、鼓膜は軟らかいものです。一方、鼓膜の裏側にあって鼓膜の振動を蝸牛に伝えている小耳骨は硬いです。そのため、鼓膜で超音波を受けてもしっかりと追随できないのですが、小耳骨に直接的に超音波の振動を与えてやればしっかりと追従して動きます。
 だからこそ、耳で超音波を拾うためには、音波そのものであると感受が難しくなります。ただ、大音量にすれば小耳骨まで強引に震わせることができるでしょうから、その場合には伝わると思います。もちろん、超音波を発生させる機器の方が高価なものになります。従いまして、骨伝導式のものにして超音波領域の振動を耳の周辺の骨から入力してやると、効率良く超音波を耳で聞けるようになります。
 では、その場合にどのような音が聞こえるのか…。その答えとしましては、凄く高い音が聞こえるのではなく、その2分の1や3分の1の共振音、いわば雑音が聞こえることになります。ただ、雑音であっても、人の話し声を変調した超音波であれば、言語として聞ける難聴者が2割ほどいる、ということになります。
 結局のところ、超音波は耳で聞けるのかと問われれば、聞けるということになりますが、超音波の凄く高い音が聞けるのかと言えば、それは聞けないことになります。ただ、上手く変調してやれば、難聴者のための優れた補聴器になるということです。
 また、先にupした記事に書きましたように、超音波は皮膚からの入力もあるかもしれません。特に虫などの自然音に含まれる超音波は、意味のある信号になっています。それが無意識のうちに脳幹部分にまで到達し、脳幹部分を大いに活性化させるのだと考えられます。
 今まで、聞こえないから意味が無いと思っていた超音波も、難聴者の補聴器に使われたり、自然界の超音波は健康増進に必須であったりと、医学的にも生物学的にも大きな存在だと言えるでしょう。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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