ただし、これは日本人だけの特権で、日本人でない場合は食べた海藻を上手く消化できない可能性がありますので、この話は聞かなかったことにしてください。因みに、日本人は大昔から海藻を食べてきたせいで、海藻に独特の細胞壁成分を分解できる腸内細菌を宿していることが多いですので、普通に食べても大丈夫だということになります。
「アメリカ人なのですが、お寿司の海苔巻きを食べたいと思うのですが、それは無理ですか?」
回答:「その海苔は加熱加工してあって、しかも寿司に巻いている海苔の量はごく少量ですので、大きな問題にはならないと思います」
「それはよかった♪ お寿司、大好きなんです」
さて、私たちが必要としているミネラルの種類を見てみますと、現在におきましては、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右上に示されているような解釈になっています。「必須ミネラル」の種類は、時代が進むにつれてどんどん増えてきました。体が変化したのではなく、微量ミネラルの研究技術が進歩したからです。中でも難しかったのは、極微量の元素をしっかりと検出する技術です。なお、この話は既にupしています『私たちにとって必須ミネラルとは海水中の全ての元素である』に記していますので、必要に応じてご覧になってください。
そこで、それらの必須ミネラルを得る方法についてですが、海水中のミネラルがほぼそのまま濃縮されている粗塩や岩塩を調味料として用いる方法が一つです。ただ、それは塩ですから、ナトリウムが多量に入っていて塩辛いですから、多量に食餌に入れることはできません。では、どうするのが良いのか…ということになるわけです。そこで使えるのが海藻になります。
海藻の種類によって微妙な差はありますが、概して言えば、海水中の微量ミネラルを海藻が濃縮して体内(海藻の体内)に蓄積させるという特徴を持っています。掲載した図の中央辺りに「海藻によるミネラルの濃縮」と題する表を引用させていただきましたので、スマホでお読みの方は後で見て頂ければ結構です。
例えば、鉄の〝濃縮係数〟は1,000~130,000となっているわけですが、これは、藻類の体内における鉄の濃度が、海水中の濃度の1,000倍~130,000倍程度になっているということです。千倍と十三万倍は大きな開きがありますが、海藻の種類や、生育環境の違いや、調査サンプルとして使った個体の差などが関係していると思われます。何れにしましても、凄く高い濃縮率であることが分かります。
他のものも幾つか見てみますと、例えばヨウ素の濃縮係数は500~60,000となっています。即ち、海水中のヨウ素濃度に較べて、海藻中のヨウ素濃度は500~60,000倍にまで高まっているということです。だからこそ、日本人が平均的な食生活をすると、その中に必ず何らかの海藻が入っていますから、その程度の海藻摂取量でヨウ素の必要量が賄えているということです。
それは即ち、例えばヨウ素の濃縮率が高いコンブ(昆布)をあまり沢山食べると、ヨウ素の過剰摂取に繋がるという結果にもなります。逆に、ヨウ素の過剰摂取を心配して海藻を避けてしまうと、他の微量ミネラルの摂取不足に陥ってしまうことになります。なお、ヨウ素の含有量は、掲載した図の左端の表の中に挙げられています。海藻の種類によって、特にヨウ素の量は大きく異なりますので、甲状腺機能亢進症の人の場合は「海藻を避ける」という大雑把な対策をせず、「昆布を避ける」ことにしないと、他の微量ミネラルの摂取源を失うことになってしまいますので、要注意事項だと言えます。
次に、亜鉛を見てみましょう。濃縮係数は700~33,000となっています。上述のヨウ素は平均的日本人では足りているのですが、亜鉛は必要量の7割程度しか摂れていません。従いまして、ヨウ素の多いコンブは出汁を取る程度にしておいて、ヨウ素の少ないワカメやヒジキをしっかりと摂れば、ヨウ素過剰を避けて亜鉛補給を実現できることになります。
その他、セレンの濃縮係数は10,000~16,000、他にも、クロム、マンガン、リン、銅が挙げられていますので、後で見て頂ければと思います。
この「濃縮係数の大きいもの」に該当するのは、リンの他は全て、ヒトにおける必須微量ミネラルです。このことは、ヒトにとっては、比較的少量の海藻を食べるだけで、必須微量ミネラルを得ることができるということを意味しています。先にupしています『必ず入れたい10種類の食材』に海藻を入れた理由はここにあります。
その他の見どころとしましては、海苔(その多くはアマノリ)にはビタミンB12が含まれていることです。そもそも必要量の少ないビタミンですので、植物食主義者が海苔を食べれば、ビタミンB12不足が少しは補えることになります。
また、カロテンが多いことも特徴の一つになります。これは、植物のβカロテンと同じように、ビタミンA作用を得ることができますので、海藻を食べる意味の一つとして挙げることができます。
今日の記事では、フコイダンとかアルギン酸などの多糖類については触れませんでした。抗がん作用など、種々の生理作用が言われていて、内容が比較的多くなりますので、別記事とさせていただきます。これらも海藻を食べる理由になりますので、今回の微量ミネラルの内容と合わせて海藻の効用を見直していただければと思います。