抗老化(アンチエイジング)のためには「1年が短く感じる」ほうが良い

抗老化(アンチエイジング)のためには「1年が短く感じる」ほうが良い

 「1年の長さをどのように感じましたか?」という質問を行った調査結果は複数あるのですが、それらの結果を集計すると、添付しました図(高画質PDFはこちら)の右上の表のようになります。そして、その要点だけを次に紹介します。

 50歳代の場合は、(1年が)「あっという間に過ぎた(非常に早い・早い)」と答えた人が約75%~85%で、逆に、(1年が)「長かった(遅い)」と答えた人が約5%~10%でした。要するに、平均的には約8割の人が「1年があっという間に過ぎた」と感じたということです。
 70歳代・80歳代の場合は、「あっという間に過ぎた(非常に早い・早い)」と答えた人が約85%~90%で、「長かった(遅い)」と答えた人が約5%以下でした。要するに、平均的には9割弱の人が「1年があっという間に過ぎた」と感じたということです。

 両結果を概観すると、年齢が高まることによって、1年が更に短く感じるようになる、という傾向を見出すことができます。また、子どもたちを対象にした調査結果はありませんが、大人たちが答えている1年の長さは、「以前に比べて…」とか、「子どもの頃に比べて…」などのように、過去に感じていた1年の長さが基準になっているわけですから、自ずと「以前の1年はもっと長かった」ということになります。

 そこで、年齢が高まると1年を短く感じるようになる理由について見ていくことにしましょう。予め、表を作っておきましたので(添付しました図の左上の表参照)、それに従って上から順に見ていくことにします。

 1年を短く感じさせる要因の1つ目としまして、「人生における1年の割合」を挙げました。これは、例えば5歳の子どもでしたら、それまでの人生経験が5年ありますので、人生における1年の割合は1/5になります。それは、さぞかし長く感じることでしょう。
 一方、50歳の人であれば、それまでの人生経験が50年ありますので、人生における1年の割合は1/50になります。これは、子どもの頃に比べると、かなり短く感じることでしょう。
 更に、80歳にもなれば、、それまでの人生経験が80年ありますので、人生における1年の割合は1/80になります。これは、50歳の頃に比べると、更に短く感じることでしょう。

 要因の2つ目としまして、「神経系の情報処理速度」を挙げました。例えば、昆虫のハエ(蠅)を想像してみましょう。ハエは人間より遥かに小さく、ニューロンも短く、伝導距離も短いため、情報処理速度が非常に速いことが知られています。そのため、1秒のうちに処理できるイベント数が非常に多く、世界がスローモーションに見える、という時間の伸長が起こります。
 この理屈は、子どもの脳にもそのまま当てはまります。子どもの脳内ではシナプスの数が多く、密度が高く、神経回路も比較的に短く、神経細胞が若くて反応時間が短いため、全体として情報処理速度が速くなります。その分、単位時間内に大人よりも多くのイベントを処理することができ、世界が比較的遅く動いているように見えます。
 一方、大人になると、シナプス密度の減少、神経伝達効率の低下、髄鞘の変性や軸索輸送の低下などが進み、情報処理速度が低下します。その分、世界が比較的速く動いているように見えます。即ち、1年が短く感じられることになります。

 要因の3つ目としまして、「身体の各代謝の程度」を挙げました。これは、上記の脳における情報処理速度の場合と同様に、脳以外の身体の活発度によっても、感じる時間の長さが変わってくるということです。
 即ち、子どもの頃は、代謝率が高く、心拍数や呼吸数が多く、緊張している時間帯が多く、交感神経が優位である時間帯が多く、身体の内部の種々の変化も多くなります。それによって、時間が長く感じられるということです。
 みんなで集まって聞く5分間の園長先生の話が20分ぐらいに感じたりするものです。大人は退屈しなくても、子どもは退屈するのです。

 要因の4つ目としまして、「生活の内容・変化量」を挙げました。例えば、初めての経験が多かったり、生活の変化が大きかったりする場合、 1年間を長く感じます。この理屈は、脳における時間感覚は、処理した情報量が多いほど、脳は「長い時間だった」と感じる仕組みになっているということです。
 例えば、自分が幼稚園に行っていた1年間は、大人の3年間ぐらいに相当する時間であったような気がします。それは、生まれて初めて経験することが非常に多かったからです。
 逆に、高齢者の場合、新しい経験というのは非常に少なくなります。世の中のことを色々と知ってしまい、あれはこうなるだろう、これはああなるだろう、などと予想も出来るようになります。そうなると、新しい経験というのは少なくなるわけです。その分、処理する情報量も少なくなり、脳は「短い時間だった」と感じることになるわけです。
 もう一つ、何らかのことに夢中になっていた場合、そればっかりをやっていますから、入ってくる情報量は少なくなり、同じく脳は「短い時間だった」と感じることになります。また、生活が安定している場合も同様です。

 要因の5つ目としまして、「心理状態」を挙げました。1年を長く感じる心理状態としましては、苦難や不安が多かったり、何かを待つ時間が長かったり、焦りが無い状態、という3つを挙げました。
 順に補足していきますと、苦痛や不安が多いと「早く終わってくれないかなぁ」と思いますので、そう思うと逆に長く感じるものです。何かを待つ時間が長いと、待っている時間が非常に長く感じられます。焦りが無い状態というのは、早くしなければならないことの反対ですから、時間はゆっくり流れることになります。
 上記の逆が、1年を短く感じる心理なのであり、安楽である、待つことが少ない、何らかの焦りがある場合です。例えば、きつい仕事をする必要もなくなり、きめ細かなスケジューリングをする必要もなくなったけれど、残りの人生は何年かなぁなどと少し焦ってくると、1年がかなり短く感じるようになります。

 要因の6つ目としまして、「生き方のスタイル」を挙げました。ここが、この記事のタイトルにしました「抗老化(アンチエイジング)の観点で、最も重要なポイントになります。
 1年を長く感じる場合、その生き方としましては〝精一杯生きている〟〝常に全力〟の場合が該当します。この場合、子どもの頃のように、身体の各代謝の程度がハイレベルになり、生活の内容や変化量も多くなり、心理状態は苦難や不安も多くなり、何かを待つことも多くなります。だからこそ、1年を長く感じることになります。また、その心身の状態を作るために、感神経優位の時間帯が増えることになります。
 逆に、1年を短く感じる場合、その生き方としましては、ゆっくり生きる、余裕がある、副交感神経優位だということになります。

 さて、表の下から2段目に「成長/老化速度」を挙げましたが、〝成長〟も〝老化〟も一連の変化だと捉えることができます。理想は、成長は速めて、老化は遅らせたいところでしょう。従いまして、成長段階におきましては「1年を長く感じる」ための各要因を実行すれば良いわけですし、成長が終わった後は「1年を短く感じる」ための各要因を実行すれば良いことになります。
 少々、言い方を変えてみましょう。「時は金なり」「毎日を全力で生きる」「精一杯生きる」という価値観は、子どもや若い頃は成長につながりますが、中年期以降は老化を促進することになってしまうということです。これは、表の最下段に挙げましたように、交感神経優位→コルチゾール高値→免疫力低下を引き起こすことになり、炎症が起きた場合には短期間で終わらせることが出来ませんので、慢性炎症に移行することになってしまいます。これは、特に老化を加速させることになります。

 実際のところ、人生は「太く短く」か、「細く長く」かの、どちらかです。なかなか、太く長くは難しいものです。その理由は、上述してきたとおりです。
 高齢になるほど、ゆっくり・ゆったりと生きている人は、80歳代や90歳代でも若々しいことが多いです。もちろん、使わなければその機能が廃用性の退縮を始めますので、ぼーっと生きるのは良くないです。しかし、避けるべきことは、「時は金なり」「毎日を全力で生きる」「精一杯生きる」ことです。そのような生活をしていては、早く老けてしまいます。
 皆さま、ゆったりと生きて、「あ~、今年も1年が短かった」と言えるような生活を目指しましょう!

 
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執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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