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皮膚常在菌は、どこから来て、どのように維持されるのか

皮膚1cm²あたりの細菌数・多様性・生態系の特徴

◆ はじめに
 前回の記事では、“皮膚常在菌”を含んだ、皮膚表面に広がる“皮膚表層生態系(skin surface ecosystem)”の不健全さが、乾燥肌、痒み(かゆみ)、湿疹、アトピー、ニキビの悪化といった多くの皮膚トラブルに深く関わっていることを見てきました。別の言い方をするならば、皮膚にトラブルが起こった時にやりがちな対処法、即ち、石鹸やボディソープなどを使ってよく洗い、消毒してみたり、何らかの薬を塗ってみたり…、などという方法では、根本治療にはならないということです。何よりも大切なのは、不健全である皮膚表層生態系を健全な状態に戻す、ということです。
 前記事の復習になりますが、皮膚表層生態系は、皮脂や汗の成分などによる物質的な層と、常在細菌・常在真菌・常在ウイルスなどの微生物群が重なり合って形成されるもので、これは単なる「皮膚の表面の付着物」ではなく、私たちの健康を支える“精巧な防御システム”だということです。
 では、この皮膚表層生態系を構成する常在菌は、そもそもどこから来たものなのでしょうか…。そして、どのように維持されるものなのでしょうか…。本記事では、皮膚常在菌の出自、皮膚表層生態系維持の仕組みを見ていくことにします。

◆ 皮膚表面にはどれぐらいの数の細菌が生息しているのか
 皮膚の表面には、私たちが想像する以上に多くの微生物が暮らしています(参照:添付図(高画質PDFはこちら))。例えば、顔のTゾーンのように皮脂が豊富な部位では、1平方センチメートルあたり100万〜1000万個もの細菌が存在するとされています。一方、前腕のような乾燥した部位では、その数は1万〜10万個程度に減りますが、その代わりに多様性が高く、数十種類もの(属のレベルで)細菌が共存しています。
 凄い数となる細菌数ですが、皮膚表面を覆い尽くすように密集しているわけではありません。細菌の一つひとつは直径1μmほどの極めて小さな存在ですので、角質細胞の表面積に比べると圧倒的に小さいため、皮膚表面では“点在する微小な住民”のように存在しています。それでも、常在菌は皮膚の免疫細胞(樹状細胞、T細胞、ケラチノサイト(免疫活性を持つ)など)のすぐ上に位置し、弱酸性の化学環境をつくり、病原菌の増殖を抑えるなど、皮膚バリアの最外層として重要な役割を果たしています。そのため、細菌が点在しているだけでも皮膚の健康に大きな影響を与えることになるわけです。
 では、この生態系を構成する常在菌は、そもそもどこからやって来たのか…、ということについて見ていくことにしましょう。

◆ 皮膚常在菌はどこから来るのか(出自)
① 母親からの継承(最初の生態系の受け渡し)
 皮膚常在菌の出自として最も重要なのは、母親からの継承です。新生児は、出生直後から抱っこ、授乳、肌と肌の接触を通じて、母親の皮膚に存在する常在菌を受け取ります。実際、新生児の皮膚常在菌の構成は、母親の皮膚常在菌と驚くほどよく似ていることが知られています。
 この“最初の継承”は、単に細菌が移動するという単純な話ではありません。皮膚常在菌は、皮下の免疫細胞に対して「これは敵ではない」という信号を送り、免疫の過剰反応を抑える役割を担っています。言い換えれば、皮膚常在菌は新生児にとって “免疫教育の最初の教師” であり、皮膚の生態系は母親の生態系の延長として始まるのです。

② 家族・生活環境からの継承(家庭という生態系)
 皮膚常在菌の形成は、母親との接触だけで完結するわけではありません。家族、衣類、寝具、家屋、空気といった生活環境も、皮膚常在菌の重要な供給源になっています。例えば、家族間では皮膚常在菌が自然に共有され、同じ家に住む人々の皮膚常在菌は互いによく似てくることが分かっています。
 このことは、“家庭”そのものが “微生物の共同体(microbial community)” として機能していることを意味します。特に、ペットと一緒に暮らす家庭では、皮膚常在菌の多様性が高くなる傾向のあることが示されています。

③ 自然環境からの取り込み(外界との接触)
 皮膚常在菌の多様性を広げるもう一つの重要な要素が、自然環境との接触です。土壌、植物、外気には多様な微生物が存在していて、外遊びや自然との触れ合いは、皮膚常在菌の多様性を高める方向に働きます。
 現代人は、屋内中心の生活や過度な清潔志向によって、この“自然からの微生物供給”が大きく減少しています。その結果、皮膚常在菌の多様性が低下し、免疫の成熟が遅れたり、アレルギーや皮膚炎が増える背景になっていると考えられます。

 以上のように、皮膚常在菌は、母親からの継承、家庭という共同体、そして自然環境との接触によって形成される、“受け継がれた生態系” です。そして、皮膚の上に広がる微生物群は、私たちが生まれた瞬間から始まる長い歴史の積み重ねであり、皮膚の健康や免疫の成熟に深く関わっているわけです。

◆ 皮膚常在菌はどのように維持されているのか
 今回の2つ目のテーマに移るわけですが、皮膚常在菌は、一度皮膚に付着したら自動的に維持されるわけではありません。皮膚の上に広がる生態系は、皮脂・汗・角質層・微生物同士の相互作用といった複数の要素が重なり合うことで、ようやく安定した“環境”として成立します。言い換えるならば、皮膚常在菌は「皮膚が作り出す環境」と「微生物同士の均衡」によって支えられていて、そのどちらが欠けても生態系は簡単に崩れてしまいます。では、それぞれの要素の中身を少し具体的に見ていくことにしましょう。

① ケミカル・バリアによる支え(皮膚が作る“環境”)
 皮膚常在菌が安定して存在できる最大の理由は、皮膚そのものが微生物にとって適切な“住処”を作り出しているからです。皮脂、汗、セラミド、乳酸、遊離アミノ酸などは、単なる皮膚の分泌物ではなく、常在菌にとっての栄養源であり、同時に外来の病原体を寄せつけないための化学的バリアでもあります。特に重要なのが、皮膚表面の弱酸性(pH 4.5〜5.5)という環境です。この低pHは、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)などの常在菌にとっては快適な環境ですが、黄色ブドウ球菌(S. aureus)などの病原性の高い細菌にとっては増殖しにくい環境です。
 要するに、皮膚常在菌は “皮膚が作る化学的な環境”に依存して生きていますので、この環境が乱れると、常在菌は急速に減少していくことになるわけです。

② 常在菌同士の相互作用(微生物の均衡)
 皮膚の生態系を支えているのは、皮膚そのものだけではなくて、常在菌同士が互いに影響し合い、病原菌の増殖を抑えたり、皮膚の炎症を鎮めたりする“微生物間の均衡”も重要な役割を果たしています。
 例えば、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)は、黄色ブドウ球菌の増殖を抑える抗菌ペプチドを産生します。また、S. hominisS. lugdunensis などの常在菌も、病原菌に対して強い抑制作用を持つことが知られています。更に、皮膚には常在ウイルス(バクテリオファージ)も存在し、これらが細菌の増殖を調整することによって、生態系の安定化に寄与しています。
 このように、皮膚は “微生物同士の均衡によって守られている器官” であり、特定の菌だけが重要なのではなく、複数の微生物が互いに補完し合うことによって初めて健康な状態が維持されます。

③ 皮膚の構造そのもの(部位ごとの生態系)
 皮膚常在菌の維持には、皮膚の構造そのものも深く関わっています。角質層の水分量、皮脂腺や汗腺の分布、体毛の有無などによって、皮膚の部位ごとに全く異なる生態系が形成されます。具体例を挙げると、次のようになります。
 顔は皮脂が多く、CutibacteriumStaphylococcus が優位になります。脇は湿度が高く、Corynebacterium が多くなります。足裏はどちらかと言えば湿度が高く、靴の影響もあって、細菌よりも真菌が優位になります。頭皮は皮脂が豊富で、Malassezia(真菌)が多くなります。なお、更なる詳細は、添付画像内の表(高画質PDFはこちら)をご覧ください。
 このように、皮膚は全身で均一な環境ではなく、部位ごとに異なる“微小生態系(microhabitat)”が存在する器官だということになります。常在菌は、この微小環境に適応しながら定着し、互いにバランスを取り合うことによって、皮膚全体の健康を支えてくれています。

 以上のように、皮膚常在菌は、皮膚が作り出す化学的環境、微生物同士の相互作用、そして皮膚の構造という三つの要素が重なり合うことによって維持されています。従いまして、そのどれか一つでも乱れると、皮膚の生態系は簡単に崩れ、乾燥、かゆみ、炎症、アトピーの悪化といったトラブルが生じやすくなるわけです。

◆ 皮膚常在菌と腸内細菌叢は連動している
 もう一つ重要なことがあります。それは、皮膚の生態系を理解する上で欠かせないのが、腸内細菌叢との関係です。
 皮膚と腸は離れた場所に存在する別々の器官のように見えますが、実際には免疫・代謝・炎症といった複数の経路を通じて密接に連動しています。言い換えれば、皮膚と腸は“二つの生態系”として互いに影響し合いながら、全身の健康を支えているのです。では、少し具体的に見てくことにしましょう。

① 皮膚と腸は免疫系でつながっている
 皮膚と腸の連動を理解するうえで最も重要なのが、免疫系の存在です。T細胞、樹状細胞、サイトカインといった、免疫細胞とその調整因子は、腸で受け取った情報を全身に伝え、その影響は皮膚にも及びます。例えば、腸内細菌叢が作り出した短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸など)は、免疫細胞の働きを調整し、皮膚の炎症を抑える方向に作用します。一方、皮膚常在菌は皮膚の免疫細胞に対して「過剰に反応しないように」と教える役割を担っています。言い換えるならば、腸内細菌叢 → 免疫の“内側の教師”、皮膚常在菌 → 免疫の“外側の教師”、という二つの教育システムが、免疫を挟んで連動している、ということです。

② 皮膚常在菌の多様性は腸内細菌叢の多様性と相関する
 近年の研究では、皮膚常在菌の多様性と腸内細菌叢の多様性には相関があることが示されています。腸内細菌叢が豊かで安定している人ほど、皮膚常在菌の多様性も高く、皮膚のバリア機能が保たれやすい傾向があります。
 これは、腸内細菌叢が免疫の“内側の教師”として働き、皮膚常在菌が免疫の“外側の教師”として働くためです。免疫は腸と皮膚の両方から情報を受け取り、そのバランスによって炎症の起こりやすさが決まります。そのため、腸内細菌叢を整えることによって皮膚の状態が改善する、という報告が多くあります。
 “皮膚は腸の鏡” という言葉があるのですが、これは単なる比喩ではなく、免疫学的な現象を端的に表したものと言えるでしょう。

③ 腸内細菌叢の乱れは皮膚炎症に波及する
 腸内細菌叢が乱れると、腸管バリアが弱まり、腸の内側にとどまるべき物質が血中へ漏れ出しやすくなります。これが全身の炎症を引き起こし、その影響は皮膚にも波及します。
アトピー性皮膚炎、乾燥肌、かゆみ、慢性的な湿疹などは、腸内環境の悪化と関連することが多く、腸の炎症が皮膚の炎症として現れることは珍しくありません。即ち、皮膚のトラブルは必ずしも皮膚だけの問題ではなく、腸の状態が皮膚の炎症レベルを左右しているということです。

 以上のことより、皮膚常在菌と腸内細菌叢は、互いに独立した存在ではなく、免疫・炎症・代謝を通じて密接に連動していると捉えたほうがよさそうです。腸の状態が皮膚に現れ、皮膚の状態が免疫を通じて全身に影響する…。その意味で、皮膚と腸は “二重の生態系” として私たちの健康を支えていると言えます。

◆ まとめ
 皮膚常在菌は、私たちが生まれた瞬間から母親との接触を通じて受け継がれ、家族や生活環境、そして自然との触れ合いの中で少しずつ形づくられていく“継承された生態系”です。そして、この生態系は、皮脂や汗がつくり出す化学的環境、微生物同士の均衡、皮膚そのものの構造といった複数の要素が重なり合うことによって、ようやく安定した姿を保っています。
 更に、皮膚常在菌は腸内細菌叢とも密接に連動しており、腸の状態が皮膚の炎症やバリア機能に影響を与えることが分かってきました。皮膚と腸は、免疫を介して互いに情報を共有する“二重の生態系”として働いているのです。
 皮膚の健康を考えるとき、私たちはつい「何を塗るか」「どう洗うか」といった表面的な対策に目を向けがちです。しかし、皮膚常在菌の視点から見れば、皮膚は単なる“表面”ではなく、環境・微生物・免疫が重なり合う生態系です。皮膚を理解するということは、この生態系の成り立ちと連続性を理解することに他なりません。
 次回の記事では、この生態系を乱してしまう現代生活の要因、そして、皮膚常在菌を守るために私たちができることについて、見ていくことにします。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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