異常現象が確認される──これが能力開花の原因なのか

異常現象が確認される──これが能力開花の原因なのか
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◆ 第13話 ── 物理教師の意地と驚愕

恐怖を覚えるほどの理解力や洞察力を示すようになった佐伯みのりの、前後左右の席の生徒たちも、それなりに急激な理解力の向上を示すようになった。その原因を究明するために、3人の理系教師たちによる“科学的調査”が、いよいよ実測の段階へと進むことになった。

物理の教師である高木は、職員室の自席に戻ると、校内にある測定器のリストを前に、しばらく腕を組んだまま動かなかった。
(……さて… どうやって測るか…だな)

昨日の打ち合わせでは、「次の物理の授業で測定する」という方針は決まった。しかし、実際にやるとなると、不自然のオンパレードであった。

(普通、こんなに測定器を持ち込むなら、実験室に移動させるよなぁ…。 …だが、実験室に移動すれば、座席配置も空気の流れも、佐伯の“いつもの環境”とは全く変わってしまう。それじゃ意味がない。“いつもの教室”で測らなきゃ、データとして成立しない…。…じゃぁ、通常教室に測定器を持ち込むか… しかし、それはそれで問題がある。……どう考えても怪しいよなぁ。電磁波測定器、空気質モニター、静電気測定器…… こんなものを机の上に並べたら、生徒は絶対に聞いてくる)

「先生、それ何ですか?」
「なんで佐伯さんの周りばかり測るんですか?」
「もしかして……ストーカー?」

高木の背筋に冷たいものが走った。
(いやいや……それだけは避けたい。生徒に変な誤解を与えるのは最悪だ。かといって、「佐伯さんの周囲で不可解な現象が起きているからそれを測定するんだ」などと言えるはずもない。 ……じゃあ、いっそのこと、全部説明するか? 「教室の空気が違う気がするので測ります」って? ……いや、それも不自然だ。生徒は面白がるか、逆に不安になるかのどちらかだ。……どうする……)

しばらく考え込んだあと、ふと、ひとつの案が浮かんだ。
(…そうだ。「授業の一環としての環境測定」にしてしまえばいいかも…。教室内の温度差、湿度、気流、CO₂濃度、電磁波…… これらは物理の授業でも扱えるテーマだ。「学習環境と集中力の関係を調べる」という名目なら、生徒も納得するし、測定器を持ち込んでも不自然じゃない)

さらに、もう一つの案が頭に浮かんだ。
(測定器を生徒に順に回してもらう…。前の席から後ろの席へ… 後ろの席から前の席へ…と測定器を回す間に、佐伯やその周囲を通過した時刻を記録しておけば、後でデータ解析ができる。……これだ!! これなら自然に測れる!)

高木は、ようやく胸のつかえが取れたように息を吐いた。そしてもう一つ、工夫を加えることにした。
(測定器が佐伯の周囲に来た時に、自分はその時刻をメモしたりするが、他の生徒が気にしないように、注意を他にそらせておく必要がある。そうだ… 各測定器の説明をまとめた細かめの資料を作って、それを読ませておこう。そうすれば、待ち時間も勉強になるし、自分の行動が目立たなくなるはずだ…)

こうして、高木の悪知恵… いや、教師としての知恵と工夫がまとまり、測定計画は現実味を帯びて動き出した。

◆ 高木先生の物理の授業が始まる
二時間目のチャイムが鳴り、教室のざわめきが少しずつ収まっていく。
高木は、色々な測定器を詰め込んだカゴを片手に持って教室に入った。そして、そのカゴを教卓の上に置き、生徒たちの前に立った。
(……よし。自然に…、自然にだ…)

高木は昨日の夜、何度も何度も頭の中でシミュレーションした。不自然に見えないように…。生徒に怪しまれないように…。佐伯の周囲を“重点的に測る”ことが悟られないように…。
(……大丈夫。今日は環境測定の授業だ。堂々としていれば、誰も疑わないはずだ…)

黒板にチョークを走らせる。
「教室環境の測定と学習効率の関係」

生徒たちがざわついた。
「え、今日って実験?」
「なんか機械いっぱい持ってる」
「物理で環境測定って何するんだろ」

高木は、できるだけ自然な笑顔を作ってから振り返った。
「はい、今日は少し趣向を変えて、“教室の環境が集中力にどう影響するか” を調べます。 温度、湿度、CO₂濃度、気流、電磁波…… いろいろ測ってみましょう!」

生徒たちの表情が一気に明るくなった。理由は、ややこしそうな計算式を見なくて済みそうだからだ。

(…よし……ここまでは順調だ…)
机の上に測定器を並べながら、高木は心の中で次の段階を確認する。
(……このあと、生徒に測定器を順に回してもらう。前から後ろへ、後ろから前へ。その間、データは取りっぱなし…。佐伯の周囲を通過した時刻だけ、こっそり記録する。これだ…)

みのりは、いつもの席で静かにノートを開いていた。その表情は落ち着いていて、先生に何かを測定される…などとは感づいてなさそうな感じだった。

高木は胸の奥に、いつもにない緊張を抱えながら、授業の開始を宣言した。
「では、まず最初に…この測定器を前から順に回していきます。数字が変化する様子をよく見ておいてください。また、全員に回るには少し時間がかかりますから、自分に回ってくるまでは、今日体験する測定器の説明が書かれた資料を配りますので、各自で読んでいてください」

生徒たちが興味津々で身を乗り出す。
(よし……始まった)
こうして、みのりの周囲で起きている“何か”を探るための、最初の実測が静かに動き出したのである。

◆ 測定器が動き出す
高木は、最初の測定器として、手のひらサイズの空気質モニターを手に取り、前列の生徒にそっと渡した。
「では、これを前から後ろへ順番に回していってください。数字がどう変化するか、よく観察しておいてくださいね」

生徒たちは興味津々で身を乗り出す。
「おお、なんか光ってる」
「CO₂ってこんなに変わるんだ」
「温度も微妙に違うな」

教室の空気が、いつもの物理の授業とは明らかに違う方向へ動き始めていた。
(よし……自然だ。誰も怪しんでいない)
高木は、胸の奥で小さく息を吐いた。
(いいぞ……この調子だ…)

そして、空気質モニターが、ゆっくりと佐伯みのりの列へ近づいていく。高木の心拍が明らかに速まっていく。
(……来る)

みのりの列に測定器が渡る… 生徒は順に数字を眺めながら後ろへ渡す。次に、みのりの前の席の男子が受け取る。その瞬間、高木はさりげなく腕時計をちらりと見て、「10時18分42秒」とメモを取った。

そして、ついに… みのりの手に測定器が渡った。みのりは、特に表情を変えることなく、淡々と数字を見つめている。

(……どうだ? 何か変化は……)
高木は、できるだけ自然に見えるように、教室の後方へ歩きながら、測定器の表示を横目で確認した。
(……いや、これは…… ほんのわずかだが、CO₂濃度の下降速度が他の生徒の時より速い。気のせいか……? いや、まだ判断するのは早い…)

みのりは、静かに測定器を後ろの席へ渡した。
高木は、再び腕時計を見て「10時19分07秒」をメモった。そして、胸の奥で小さく呟いた。
(……何かがある。やっぱり、何かが起きている気がする…。しかし、授業はまだ始まったばかりだ。ここからが本番だ)

◆ 電磁波測定器が通過する
空気質モニターが、みのりの周囲を通過し終えたとき、高木は教卓まで戻って次の測定器として電磁波測定器を手に持った。みのりの席は教室の中央付近なので、あと半分ほどの生徒は空気質モニターを体験している途中であるが、高木の興味はもっぱら、みのりの周囲を種々の測定器で測定することだった。

(……さて。ここからが本番だ)
高木は、できるだけ自然な声で言った。
「次は、電磁波の強さを測ってみましょう。スマホや電子機器の影響で、場所によって値が変わるんですよ」

生徒たちがざわつく。
「え、スマホで変わるの?」
「じゃあ俺の席、強いかも」
「なんか面白そう」

(よし……興味を引けている)
高木は、再び教室の左側前列の生徒に電磁波測定器を渡した。
「これも、前から後ろへ順番に回してください。数字が大きく変わったら、声に出して教えてくださいね」

生徒たちは素直に頷き、測定器は順に回されていく。
ピッ…… ピッ…… ピッ……
小さな電子音が、教室の静けさを切り裂く。

前の席の男子が測定器を見て言った。
「先生、ここ 0.12 です」

「ありがとう。そのまま後ろへ回してね」

次の生徒。
「0.11 です」

次。
「0.12 に戻りました」

(……安定してるな。ここまでは普通だ)
そして…… いよいよ… 測定器が、みのりの前の席の生徒に到達した。
高木は、自然を装いながら、腕時計をちらりと見た。そして、「10時23分14秒」とメモした。

「先生、ここ 0.12 です」

「ありがとう。じゃ、後ろへ…」

そして、測定器はついに、みのりの手に…
みのりは、ほんの一瞬だけ測定器を見つめ、静かに数字を読み上げた。

「0.10 です」

(……下がった?)
高木の心臓が少しだけ跳ねた。
(…前後の席では 0.11〜0.12 だった。しかし、佐伯の席だけ 0.10。…誤差と言えば誤差だが…。しかし、佐伯の席だけ下がるということは……)
高木の胸にざわめきが生じた。
(…この測定器も佐伯のところで、少しだけどブレる…。もちろん、2種類の測定器だけで判断するのは早いが…)

みのりは、特に表情を変えることなく、測定器を後ろの席へ渡した。高木は、腕時計を見て「10時23分39秒」をメモした。

後ろの席の女子が測定器を受け取り、数字を読み上げた。
「先生、ここ 0.12 に戻りました」

(……やっぱり、佐伯の席だけ低い)
高木は、胸の奥で静かに息を吸った。
(偶然か……? それとも……)

授業は淡々と進んでいく。しかし、高木の心の中では、確率では説明できない違和感が、じわじわと形を成し始めていた。

◆ 風速計にも異変が…
電磁波測定器が、みのりの後ろの席の生徒を過ぎたとき、高木は次の測定器として小型の風速計を手に取った。
(……ここも慎重にいこう。風速計は、本来なら屋外や空調の吹き出し口で使うものだ。教室内で大きな変化が出ることは、まずない。だからこそ、もし何か起きれば、それは偶然ではない可能性が高い)
高木は、できるだけ自然な声で言った。
「次は、教室内の“気流”を測ってみましょう。空調の風の流れで、場所によって値が変わることがあります」

生徒たちは、
「へぇ〜」「そんなの測れるんだ」
と興味津々で風速計を覗き込む。

前列の男子が測定器を受け取り、小さなプロペラを見つめながら言った。
「先生、ここ 0.03m/s です」

「ありがとう。そのまま後ろへ回してね」

次の生徒。
「0.02 です」

次。
「0.03 に戻りました」

(……まあ、こんなものだろう)

そして…… 風速計が、みのりの前の席に到達した。高木は、自然を装いながら腕時計をちらりと見て「10時27分51秒」とメモした。

みのりの前の席の男子が風速計を手に取り、数字を読み上げる。

「0.03 です」

「ありがとう。そのまま後ろへ」

そして…… みのりの手に風速計が渡った。みのりは静かに測定器を見つめた。その瞬間、カタッ…… 風速計のプロペラが、ほんの一瞬だけ回った。

(……え? 教室内に風はない。窓も閉まっている。空調の風は一定で微風…。他の生徒の席では揺れなかった。 …しかし、みのりの手に渡った瞬間だけ、プロペラが一度だけ回転した)

みのりは、特に驚く様子もなく数字を読み上げた。

「0.01 です」

(……下がった? いや、それよりも ……あの回転はいったい……)
高木は自然を装いながら、腕時計を見て「10時28分06秒」をメモした。

後ろの席の女子が風速計を受け取り、数字を読み上げた。
「先生、ここ、0.03 に戻りました」

(……やっぱり、みのりの席だけ… プロペラが回ったにもかかわらず、値が低い…)
高木は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
(偶然……じゃない。これは……何かがある)

◆ 温度計が示した違和感
授業はまだ続く。
高木は、気持ちを引き締めながら、デジタル温度計を手に取った。
(……ここからが、本当に決定的かもしれない…。温度は、空調の風向きや日当たりで微妙に変わるが、局所的に佐伯の席だけ低い…などという結果が出れば、それは偶然では済まされない…)
高木は、できるだけ自然な声で言った。
「次は、教室内の温度差を測ってみましょう。前後左右で、意外と違いが出るかもしれません」

生徒たちは、
「へぇ〜」「確かに…後ろの方が暑い気がする」
と盛り上がりながら、温度計を覗き込む。

前列の男子が温度計を受け取り、数字を読み上げた。
「先生、ここ 24.3℃です」

「ありがとう。そのまま後ろへ」

次の生徒。
「24.4℃です」

次。
「24.3℃に戻りました」

(……安定してるな。ここまでは普通だ)

そして…… 温度計が、みのりの前の席の男子に到達した。
「24.3℃です」

高木は、自然を装いながら腕時計をちらりと見て「10時31分22秒」をメモした。
「ありがとう。じゃ、後ろへ…」

そして…… みのりの手に、温度計が渡った。高木は、急な動きにならないように、そっとみのりの席に近づいた。
みのりが数字を見つめたその瞬間… 高木の視界の端で、温度計の表示が スッ… と変わった。

「23.9℃です」

(……下がった… 教室の空調は一定。前後の席は24.3〜24.4℃で安定していた。しかし、
みのりの席だけ 23.9℃。…0.4℃というのは、誤差と言えば誤差。しかし……いや、これは……)
高木の額に、少々脂汗がにじんだ。

みのりは特に気にする様子もなく、温度計を後ろの席へ渡した。高木は再び腕時計を見て、ちょっと震える手で「10時31分41秒」をメモした。

次いで、後ろの席の女子が温度計を受け取り、数字を読み上げた。
「先生、ここ、24.4℃です」

(……やっぱり、みのりの席だけ低い…)
高木は、必死に平常心を取り戻そうとしていた。
(電磁波も……風速も……温度も…… 全部…わずかに違う。偶然が三つ続く確率は…… いや、計算するまでもない…。これは、偶然ではない…)

◆ いよいよ最後の測定器が登場する
しかし、授業はまだ終わらない。高木は、気持ちを引き締めながら、最後の測定器を手に取った。
(……ここで何も起きなければ、まだ偶然と言えるかもしれない。だが……もし、ここでも異変が出たら…。 …静電気測定器は、本来なら、摩擦などによって帯電した物体に近づけたときだけ反応する。教室の中で、しかも生徒の身体に触れずに反応することは、まずない。だからこそ、ここで異変が出れば、それは決定的だ…)

高木は、できるだけ自然な声で言った。
「最後に、静電気の強さを測ってみましょう。これは、摩擦や材質によって値が変わります。前から後ろへ、順番に回してください」

生徒たちは、
「静電気って測れるんだ」
「冬じゃないのに反応するのかな」
と興味津々で測定器を覗き込む。

前列の男子が測定器を受け取り、数字を読み上げた。
「先生、ここ0.02 kVです」

「ありがとう。そのまま後ろへ」

次の生徒。
「0.01 です」

次。
「0.02 に戻りました」

(……安定してる。ここまでは普通だ)

そして…… 静電気測定器が、みのりの前の席に到達した。高木は、自然を装いながら腕時計をちらりと見て「10時35分58秒」をメモした。

前の席の男子が測定器を手に取り、数字を読み上げる。
「0.02 です」

「ありがとう。そのまま後ろへ」

そして……みのりの手に、静電気測定器が渡った。
みのりは、静かに測定器を見つめた。その瞬間… ピッ……! 測定器が、突然 0.07kV を示した。
(……跳ねた。。)
教室の空気が、一瞬だけ止まったように感じた。

みのりは、特に驚く様子もなく数字を読み上げた。
「0.07 です」

高木の背中には、冷たい汗が流れ、足元が揺れる感覚に陥った。
(……高い。この環境で、こんな値が出るはずがない…)

みのりが測定器を後ろの席へ渡すと、後ろの席の女子が数字を読み上げた。
「先生、ここ 0.02 に戻りました」

(……やっぱり、みのりの席だけ跳ねた。。)
高木は、普通では考えられない現象に、あたかも幽霊に出会った時のように脅えた。
(電磁波… 風速… 温度… 静電気… …全部、佐伯の席だけ、わずかではあるが異常とも言える数値を示す…。 …これは……偶然じゃない)

そして、高木の脳裏に、三浦(数学)の言葉がよみがえる。
「佐伯の席の周りだけ…空気が違うんですよ」

(……違うどころじゃない。何かが発せられているとしか思えない)
しかし、授業はまだ終われない。生徒たちは、ただの実験授業だと思って楽しんでいる。

高木は、揺れる全身を、教卓に手を添えることで支えた。そして、震える指先を隠しながら、授業を締めくくった。
「……はい、ありがとう。今日の測定データは、後でまとめて共有します。みんな、協力ありがとう」

チャイムが鳴り、高木はふらつく全身をコントロールし、なんとか無事に職員室に戻ってきた。ほぼ同時に職員室に戻ってきた江藤(化学)や、先に職員室に戻ってきていた三浦(数学)をはじめとした他の先生も、高木の様子を見て、計測での異変を予感した。

◆ 高木が他の先生に打ち明ける
江藤がすぐに声をかけた。
「先生! どうしたんですか!? なんか、ただ事じゃない感じがするんですけど… もしかして、何か出たんですか?」

高木は、少し青ざめた顔と、少々震えた声で答えた。
「……出ました。全部です。 …全部、佐伯の席だけ… …違いました」

江藤は目を丸くし、息を呑んだ。
「……全部……?」

高木は、静かに頷いた。
「ええ。これは……偶然じゃありません。何かが発せられているとしか思えないです…」

江藤は、一瞬だけ冗談を言おうとしたが、高木の表情を見てやめた。
「……じゃあ…… 本当に……?」

高木は、測定器を入れたカゴをそっと机に置き、低くて小さな声で言った。
「……佐伯みのりは… 根本的に変わり始めているのかもしれません…」

そこへ、三浦(数学)が静かに近づいてきた。
「高木先生……顔が怖いですよ。そんなにヤバいデータが出たんですか?」

高木は、測定器のひとつを指で軽く叩きながら言った。
「……出ました。“全部”です。電磁波、風速、温度、静電気…… 全部、佐伯の席だけ違いました」

三浦は息を呑んだ。
「…そうなんですね……。戻ってきた先生の様子を見て、ただ事じゃないと感じましたよ」

高木は、測定器のログと、みのりの周囲に測定器がある時の時刻のメモを見せながら、一つづつ説明を始めた。
「…まず、これが電磁波の測定時刻とデータです。そして、こちらが佐伯その周囲に測定器が来た時の時刻です。両方を合わせると、佐伯の前後の席は 0.11〜0.12 で安定していたのに、佐伯の席だけ 0.10 に落ちていることが分かります」

江藤が、そのデータを食い入るように見つめる。
「誤差の範囲なのかもしれないですけど、佐伯の席の時だけ下がってることに驚きますね。……他の測定器のデータも見たいです」

高木は、風速計のデータを示した。
「風速です。教室内では変化するはずがないのに、佐伯の席だけプロペラが一度回ったんです。逆に、数値は 0.01 に低下したんです」

三浦が小さく呟く。
「私でも、その異常ともいえる測定器の挙動に驚きますよ…」

高木は頷き、次に温度計のログを開いた。
「温度ですけれど、前後の席は 24.3〜24.4℃で安定しています。でも、佐伯の席だけ 23.9℃に下がってるんです」

江藤は、思わず椅子から身を乗り出した。
「0.4℃の差… そして、佐伯の席だけ局所的にその温度になっている…」

これまでの3つの測定器が、佐伯のところだけ値が違っていることを実際に確認したことによって、江藤も、三浦も、いよいよ平常心を保てなくなっていた。

高木は、続けて、静電気測定器のデータを示して説明した。
「この… 静電気の値も… 佐伯の席だけ 0.07kV。他は全部 0.01〜0.02」

三浦は、完全に言葉を失った。そして、目が座り、手先が震え始めていた。
江藤も同じような状態であったが、念押しのように次のような質問をした。
「……これ、“全部が偶然”って確率… 数学的にどうなります?」

三浦は、顔を小刻みに横に振りながら…
「……計算するまでもないですよ。ほぼゼロです。これには……何かがあるとしか言えません」

高木は、机の上の測定器を見つめながら言った。
「……外部ノイズじゃない。教室にそんな機器は無い。スマホの影響なら、もっとランダムに出る。しかも、佐伯の席だけ… 必ず狂うんです」

江藤が、静かに言葉を継いだ。
「……じゃあ…… 発生源は…?」

三人の視線が、同時に一点へ向かった。
そして高木が低い声で言った。
「……佐伯が… 佐伯自身が… 何かを発しているとしか思えないです…」

三浦は、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「……人間が……? そんなこと……」

江藤は、震える声で言った。
「……でも、データは嘘をつかない」

そのあと、三人には長い沈黙が続いた。

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