インフルエンザに罹ってしまった場合、どうするのが最も良いのでしょうか…? 今日は、その選択肢の一つになっている可能性の有る〝抗インフルエンザ薬〟の利用について言及しておくことにします。
この手の薬は普通に薬局で買うことは出来ませんので、インフルエンザに罹ったかも知れないと思って病院やクリニックを訪ねた際に「陽性である」と診断された場合、担当医師の判断によって処方されるものになります。患者さんに特に知識が無かった場合「インフルエンザに効く薬は無いのですか?」と尋ねると、「では、お薬を出しておきましょうか?」、「はい、お願いします」という流れで患者さんが抗インフルエンザ薬を飲むことになってしまいます。
最も有名な抗インフルエンザ薬は「タミフル」でしょう。例えば2007年の3月末までに副作用が報告された件数は1,465件、そのうち異常行動を含めた精神障害が249件、神経系障害が197件、胃腸障害が169件となりました。「タミフル」を飲んだ若者の飛び降り自殺がテレビでも頻繁に報道されましたので、記憶に新しいことと思います。
あれから時代も進み、「タミフル」は今どうなっているのかと言えば、抗インフルエンザ薬の分野におきましてはシェアNo.1です。掲載しました図(高画質PDFはこちら)の左下に、直近7年間のデータを引用させて頂きましたが、「タミフル」は相変わらず強いです。その次は「イナビル」で、これも同様の作用機序をもつ抗インフルエンザ薬です。第3位は「ゾルフーザ」で、これは作用機序が異なっているのですが、第4位の「リレンザ」は、「タミフル」と同様の作用機序をもつ薬です。その機序とは〝ノイラミニダーゼ阻害〟というものです。
〝ノイラミニダーゼ〟といいますのは、インフルエンザウイルスが表層に持っている酵素の一つです。どのように使われるのかと言いますと、インフルエンザウイルスが細胞内で増殖すると、その後は細胞の外へと運び出されるわけですが、細胞膜の表面に存在している各種の糖鎖にインフルエンザウイルスが付着したままになります。そこで、その付着を切り離すための酵素がノイラミニダーゼになります。
「…ということは、ノイラミニダーゼを阻害したとしても、インフルエンザウイルスは細胞内で、いっぱい増えてしまうんですね?」ということになります。その通りであって、「タミフル」を飲んでも、既に感染してしまった細胞内ではインフルエンザウイルスは沢山増えてしまいます。
「では、感染した直後に飲めば効果あるかもしれないですね…」ということなのですが、風邪気味だと思って病院に行っても、抗体価は直ぐには上がりませんから「陰性」の判定になってしまい、医師はタミフルを処方できません。「じゃ、次の日に行きます」ということで行って検査を受ける頃には、インフルエンザウイルスは全身的に広がっています。
「ノイラミニダーゼ阻害薬は、発熱などの症状が出てから24時間、ないしは48時間までであれば有効」となっているわけですが、検査してもらって「陽性」が出る頃には、インフルエンザウイルスは全身的に散らばってしまっている、ということです。
「じゃ、そのようなものがなぜ処方されるのですか?」「う~ん、…細胞内にとどまってもらうため…でしょうか。。(いや、薬を欲しがる患者さんが多いですし、使えばそれなりに収益の足しになりますから…)」
臨床試験におきましては、元気な人が「タミフル」を飲んでも、さほど大きな副作用は見られませんでした。しかし、実際にインフルエンザに掛かった人が「タミフル」を飲んだ場合に、酷いことが起こったのです。それは、タミフルの代謝過程において、未変化物を速やかに排泄する脳内のトランスポーターが、インフルエンザの罹患によって働き難くなり、脳内に高濃度に溜まって精神活動が抑制されたり、酷ければ呼吸中枢まで停止する、という結果になりました。
そんな「タミフル」なのですが、今もシェアNo.1ですし、同じ機序である〝ノイラミニダーゼ阻害薬〟が「タミフル」も含めて全体の8割以上を占めています。
図の右側上段に、2032年までの「抗インフルエンザウイルス薬の市場規模」の予想を引用させていただきました。インフルエンザウイルスのA型とB型が色分けされているのですが、共に市場規模の更なる拡大が予想されています。
また、図の右上は、2033年までの「世界インフルエンザ診断市場の見通し」を引用させていただきましたが、これはインフルエンザ検査キット、検査機器、検査設備などの市場規模です。関連している企業は、このような推移を目標にして色々な計画を進めていくことでしょう。
「人々を助けるために頑張ります」という言い方もできますが、「インフルエンザが経営を支えてくれているのだから、お茶が効くなどという情報は末梢しなければならない」と思っている関係者も居ることでしょう。
少なくともノイラミニダーゼ阻害薬は、インフルエンザウイルスの感染や細胞内での増殖を防ぐことは出来ません。それにも拘らず、命に関わるかもしれないリスクを背負うことになるわけです。本当のことを知ったならば、誰がそれを飲みたいと思うでしょう。
右下の図に示しましたのは、「お茶」の成分による抗インフルエンザウイルス活性の機序です。これは、最も簡単にまとめられている図なのですが、左上から見ていきますと、先ずは「カテキン(EGCG、EGC、EC)」と「テアフラビン(紅茶に含まれる)」が、インフルエンザの細胞への吸着・侵入を防ぐことです。そもそも、この段階をブロックすることが最も大切なのであって、上記の医薬品には該当するものがありません。
もし、上記の段階をクリアしたインフルエンザウイルスがあったとすれば、次は「ストリクチニン(緑茶のタンニン)」が膜融合(インフルエンザウイルスの外殻と細胞側のエンドソーム膜との融合)を防いでくれます。これが防がれると、インフルエンザウイルスは細胞内に入っただけで、その後の活動が一切できなくなります。
もし、上記の段階もクリアしたインフルエンザウイルスがあったとすれば、次は「カテキン」が(ウイルス遺伝子の)複製を防いでくれます。
もし、上記の段階もクリアしたインフルエンザウイルスがあったとすれば、次も「カテキン」が(ウイルス粒子の)細胞からの遊離(放出)を防いでくれます。
このように、「お茶」は万能とも言える抗インフルエンザウイルス薬です。こんな日常的なものでインフルエンザを防ぐことができ、感染したとしても複数の機序でインフルエンザウイルスの活動や増殖を防げるのですから、製薬企業や診断機器を作っている企業にとっては〝禁句〟です。みんなが知ってしまったら、会社が潰れてしまいます。だからこそ、内緒にされるのです。