がん幹細胞は生き残るためにALDHを高発現する

がん幹細胞は、生き残るためにALDHを高発現する。

 〝がん幹細胞〟につきましては、先にupした記事『がん細胞に見られる遺伝子変異は結果である』において、がん幹細胞の存在および触りのみを述べましたが、今回は、もう一段掘り下げた内容になります。因みに、先にupした記事中には、組織中に在る一般的な幹細胞とがん幹細胞との違いについて「どの遺伝子を、どの程度発現させているかに少々の違いがある、という程度である」ことを述べました。また、「発がんの原因は何なのかといえば、変身しなければ(普段は使わない遺伝子の封印を解かなければ)生きていけない悪環境になったしまったこと」を挙げました。では、もう一段掘り下げて見てみることにしましょう。

 掲載した図(高画質PDFはこちら)の左側の図におきまして、左側が一般的な〝通常の幹細胞〟、右側が〝がん幹細胞〟を表しています。
 通常の幹細胞であっても、種々の原因によって細胞内に活性酸素種(ROS)が生じます。結果として起こることの一つは、不飽和脂肪酸が過酸化脂質に変化し、毒性の強い活性アルデヒドを生じることです。もう一つは、活性酸素種が細胞内の酸化ストレスを高め、それによってDNA損傷が増えることです。この場合、一定限度内のDNA損傷ならば修復できるのですが、限度を超えると修復が追いつかなくなりますので、その場合にどうなるのかと言いますと、細胞はアポトーシスにて消滅してしまうのです。この仕組みは、DNAに変異を持ってしまった幹細胞が細胞分裂して異常細胞を生み出すことを避ける為の仕組みです。因みに、〝がんの専門家、がんの専門医〟などと自称する人が口癖のように言う「遺伝子変異が積み重なって…」などは、生命の仕組みを全く知らないことの証ですので、その話を信用してはいけません。話を戻しますが、活性酸素種が多量に発生し続けるような状況が延々と続くと、DNAを修復できなかった幹細胞がアポトーシスによって減少し続けるため、組織の細胞を生み出すことが出来なくなって、組織がどんどん痩せていくことになります。そこで、幹細胞は対策を講じるわけですが、その一つが、今回お話しするALDH(アルデヒド脱水素酵素)を高発現する、という対策になります。
 
 具体的には次のようです。細胞内に増えてきた活性アルデヒドを消去するためには、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)のお世話になる必要があります。例えば、人がアルコールを飲んだ時には、それが先ずはアセトアルデヒドへと変換されます。次に、そのアセトアルデヒドは酢酸へと変換されます。この場合の後者の変換を担当しているのがアルデヒド脱水素酵素(ALDH)です。〝活性アルデヒド〟というのはアセトアルデヒドを含めた毒性の強いアルデヒドの総称です。細胞内に生じた種々の活性アルデヒドは、ALDHを増産すれば(ALDHという酵素をコードしている遺伝子の発現を高めれば)その全てを無難なカルボン酸へと変換することが可能になります。
 その場合に乗り越えなければならない課題は、一般的に決められているALDHの発現量の上限を超えて発現させることです。そして幹細胞が我慢の限界を超えたとき、その上限を超えることを決断します。世間で云われる「がん化」とは、この時のことを指しているのでしょう。

 私たちの体内の組織中に点在する幹細胞が、限度を超えてALDHを高発現した場合、次のようなメリットを生み出すことが出来ます。掲載した図の右上に要点を書きましたが、ここにも書いておきます。
 1つ目は、大量に生じた活性アルデヒド(α,β-不飽和アルデヒド)を消去できるようになり、それによってDNA損傷を抑えることが出来るようになることです。
 2つ目は、細胞内に在るレチナール(レチンアルデヒド)を、レチノイン酸(ビタミンA酸)へと変換する効率が高まることです。それによって増量されたレチノイン酸は、細胞の生存、幹細胞としての性質の維持、細胞の増殖、化学療法抵抗性に関連する遺伝子群の発現を高めることに利用されます。
 3つ目は、エネルギー源として用いる脂肪酸を、脂質から遊離させるときにもALDHが必要になってきますから、ALDHの高発現によってエネルギー獲得が有利になることです。
 4つ目は、ALDHが稼働するときにNAD+ がNADHへと還元されますから、生じたNADHはミトコンドリアにおけるATP産生量を高められることです。即ち、エネルギー確保のためのグルコースへの依存度を減らすことが可能になるわけです。俗に言われる「糖質制限によるがん細胞の兵糧攻め」など、かえってALDHの高発現を促すことになるだけだということです。

 なお、図の右下に挙げましたのは、上記の概略を、もう一段詳しく見たものですが、煩雑になるため詳細は割愛することにしました。要するに、実際にはALDHには様々な種類があって、幹細胞(がん幹細胞)は時と場合に応じて個々のALDHの発現量を細かく調節していることです。ざっと、その感触だけでも感じ取っていただければと思います。私たちの体を作っている細胞たちの能力は、人間の叡智などとは比べ物にならないほど優れていて、その高性能ぶりは想像を遥かに超えるものだと解釈してもらえば結構です。
 
 このお話の続きはまだまだあります。それは、生命の仕組みを知らない医師によって、がんの標準治療を進められた結果として、ALDHの発現を高度に高めてしまったがん幹細胞を体内に持ってしまった場合の対策です。比較的身近な医薬品で対処することが可能です。それにつきましては、次の記事にて紹介させていただきます。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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