その脂がカイロミクロンになって毛細血管の血流を邪魔する

ヒトが多くの脂を摂取することは、生物進化において想定外

 脂、即ち常温で固体になる油脂を食べることの弊害について、既にupした記事(『脂は体内で作るものであって食べるものではない』)では、成分的かつ病理的な側面から見てみました。そこで今回は、機能的かつ生理的な側面から見てみることにします。
 先ず、私たち人類の消化器系は、脂が多量に含まれている動物の肉を食べるようには設計されていない、ということを大前提として挙げることができます。動物の肉を食べてきた歴史も長いですが、それは野生の動物を食べてきたのであって、野生の動物の肉に脂は多く含まれておらず、どちらかと言えば良質のタンパク質が得られる食材であったと言えます。もちろん、脂が少ないため決して軟らかくはなく、現代人に食べさせたら美味しいとは言わないでしょう。
 一方、現代人に好まれている肉はどうでしょうか…?度々例に出して申し訳ないのですが〝霜降り肉〟は、動物の筋肉組織内に脂が蓄積している肉なのであり、まさしくこれは異常な肉を食べていることになります。そのような筋肉になりやすい遺伝的系統が作られたことについては、その育種に携わった人々の努力を称えたいところですが、牛にとっても人にとっても、不健康の大きな原因になってしまったようです。

 細かなメカニズムについては図(高画質PDFはこちら)を参照していただければ良いのですが、図の右下に、脂肪分の多い食事をした2時間後に採血して遠心分離した血液の写真を引用させていただきました。全く同様に処理した結果ですが、食事前には澄んでいた血清が、食事後には乳白色に濁っています。濁っている理由は、血清中に大きなサイズのカイロミクロンが多量に存在しているからです。
 脂は水に溶けませんから、リン脂質から成る膜によってトリグリセリド(中性脂肪)の集合体を囲み、その膜はリン脂質の親水性部分が外側にくるように配置されています。このカイロミクロンのサイズは毛細血管の内径よりは小さいのですが、図の中央下部のイラストのように、毛細血管の同一断面には5個程度しか並べられないほどの大きさになります。この毛細血管の中を、普通ならば赤血球が変形しながら通過するわけですが、カイロミクロンが多量に存在すると、赤血球の通過が妨害されることになりますし、その分だけ酸素の供給や二酸化炭素の回収が疎かになります。また、毛細血管には少し狭窄しているような部分もあって、赤血球が通過するのに手間取っている間にカイロミクロンが後からどんどんと詰まってきて、いわば交通渋滞をおこし、血流が止まってしまうこともあります。そうなると、毛細血管を構成する内皮細胞も健全性を失うことになってゴースト血管と化します。また、その周辺の細胞も苦しむことになり、死滅するか、或いは最終手段として無酸素でも生きられるように、がん化する場合が出てくることになります。
 このような悲惨な状況になってしまうのは、先に申しましたように、私たちは脂が多量に含まれている動物の肉を食べるようには設計されていない、ということです。

 二つ目として挙げておきたいことは、自分よりも体温の高い動物の脂を摂取しないことです。例えば牛の体温は38~39℃と、ヒトよりも比較的高いですし、ニワトリは更に高くて41℃程度だとされています。そのような高い体温に合わせて、脂肪酸の種類の構成比も決まっています。即ち、炭素数の多い(炭素鎖の長い)飽和脂肪酸(ステアリン酸;C18、パルミチン酸;C16など)の比率が多くなっています。従いまして、そのような脂肪酸構成比のトリグリセリドを内包したカイロミクロンが、ヒトの体温の低い場所に運ばれると、その場所でカイロミクロンが硬くなり、狭窄部分があれば、そこを変形して通過することは出来なくなります。
 因みに、生物学的には〝動物〟である魚の体温は水温と等しくなりますから、その低い体温でも固まらないようにEPAやDHAをはじめとした不飽和脂肪酸の比率が高くなっています。それは即ち、ヒトが摂取するのに適した油だということになりますし、準必須と言える重要な脂肪酸になっています。

 以上のように、ヒトという生物種にとって、霜降り肉などの脂の多い肉を食べることは生物進化上では想定外の出来事であり、体の様々なシステムはそれに対応できていません。従いまして、どうしても食べたいというのであれば、それなりの覚悟をした上で、「これで血清が白く濁るのだなぁ」と思いながら、あくまで自己責任のもとで楽しんでいただければと思います。
 

 
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