不足の可能性があるのは酵素ではなく補因子のほうです!!

不足の可能性があるのは酵素ではなく補因子のほうである

 「酵素(こうそ)」の続きを書きます。「体内の酵素を節約する」とか、「このような症状の場合は酵素不足ですよ」とか、Web上では言いたい放題です。そして、挙句の果てに「酵素を補給しましょう!」と呼びかけられてしまう始末です。
 前回も書きましたが、AI(人工知能)まで間違ったことを覚えてしまい、運営者側は少し気にしているのか「AI の回答には間違いが含まれている場合があります」と、小さな文字で逃げを作っています。因みに、質問として「酵素が不足すると?」と聞いてみると、「酵素不足を疑う症状」として、「全身の倦怠感、疲れやすい、疲れが取れない、頭痛、寝つきが悪い、眠りが浅い、動悸や胸の痛み、肩こりや首こり、冷え性、むくみ、肌荒れ、便秘、集中力低下、消化不良、食欲不振」などと表示されてきます。そして、「酵素を補う方法」として「生の食品を食べる、発酵食品を食べる、酵素ドリンクを飲む」などと出てきます。もう、この世も終わりだな…、と悲しくなります。
 逆に、皆さま、AIの限界は予想以上に低かったと言えます。この調子なら、AIに仕事を奪われることは無いです。どうも、多数決と言いますか、多数派の意見を正しいことだと判断するようです。そして、タンパク質である酵素を飲み込んだ時にどのような現象が生じるか…などという科学的なシミュレーションが出来ないようです。

 では、酵素というものを、もう一段だけ深く見てみることにしましょう。色んな角度から見られるわけですが、今日は掲載した図(高画質PDFはこちら)に示しましたように、どのような材料で出来上がっているのか…、という観点で見ていくことにします。
 まず、酵素は大きく2種類に分けることが出来て、一つは〝単純酵素〟で、もう一つは〝複合酵素〟です。
 前者の〝単純酵素〟は、アミノ酸を繋げていくだけで作ることが出来るタンパク質です。体内の(血中の)アミノ酸の濃度は、長期間の断食をしてどれだけ空腹になろうが、少しでも濃度が下がってくると筋肉を構成するタンパク質が分解されて、血中アミノ酸濃度が一定以上に保たれる仕組みになっています。従いまして、例えば、あなたの体がガリガリに痩せてしまった場合であっても、アミノ酸が不足することはありませんし、そのアミノ酸から単純酵素が作られて必要分が補われます。単純酵素の例として、消化酵素のペプシン、トリプシン、リパーゼを図中に挙げておきました。
 何故そんな仕組みになっているのでしょうか…? 例えば、何日にもわたって食べるものが無く、あなたの体がガリガリに痩せてしまったとしましょう。そんなとき、川で1匹の魚を捕ることが出来ました。あなたは大喜びし、焼き魚にしてそれを食べました。その時、魚の身の主成分であるタンパク質が胃の中に入ってきます。もし、ガリガリの体になったせいでペプシンやトリプシンを作ることが出来なかったとしましょう。それが現実ならば、あなたはガリガリになったら最後、そこからはタンパク質を消化することが出来ず、生き延びることが出来ないことになります。これでは困ります。神様は、あなたがガリガリの体になっても、決して酵素不足にはならないような仕組みにしてくださったのです。
 「え? …ということは、しばらく食べない生活をしたとしても、酵素不足になることは無いということですか?」
 はい、そういうことです。1週間食べない生活をすると、消化酵素の産生能力は少し低下しますが、数日も経てば元のレベルに戻ると考えて結構です。むしろ、そうならなければ進化の途上で絶滅していたでしょうから…。

 次に、酵素を大きく2種類に分けたときの〝複合酵素〟について見ていきましょう。何と何が複合しているのかというと、タンパク質で出来た部分と、タンパク質以外のもので出来た部分が、複合しているということです。
 掲載した図の左下のイラストが解りやすいと思うのですが、タンパク質で出来た部分は〝アポ酵素〟と呼ばれています。そして、そこにくっ付くものがあって、それが〝補因子(ほいんし)〟と呼ばれるものです。この両者が結合することで、はじめて酵素としての機能を発揮します。
 何故そんなことになってしまったのかという話につきましては、まさしく偶然の産物であって、この方法が不便な場合もありますし、便利な場合もあります。生物進化は偶然的な変異と自然選択圧との兼ね合いですので、何ら意図はありません。
 進化における途中経過は抜きにして、今の人類の場合を見てみることにします。実は、この補因子になっている物質の多くが、ビタミンやミネラルなのです。それは即ち、数日間も絶食すると、その体内濃度がどんどんと低下していくことを意味しています。或いは、ファストフードのような粗悪な食べ物を食べ続けていると、それによってビタミンやミネラルが不足していきますから、複合酵素のタンパク質の部分は作れますが、補因子の部分が満たされなくなりますので、その複合酵素が不足したのと同様の症状が出てくることになります。

 上述しました、AIが答えてくれた「全身の倦怠感、疲れやすい、疲れが取れない、頭痛、寝つきが悪い、眠りが浅い、動悸や胸の痛み、肩こりや首こり、冷え性、むくみ、肌荒れ、便秘、集中力低下、消化不良、食欲不振」などは、実際には補因子の不足だということです。それは即ち、ビタミンやミネラルの不足なのです。
 従いまして、粗悪な食事を続けていると、酵素が不足するのではなくて、補因子が不足するのだということです。

 〝酵素ドリンク〟や、その他の酵素商品を製造販売されている方々にお願いなのですが、それらの商品には種々のファイトケミカル、ビタミンやミネラル、種々のアミノ酸や発酵代謝産物などの有効な成分が入っていると思われますので、それらをPRしてもらうと共に、酵素が有効などと錯覚させる文言は末梢していただければと思います。また、商品名に「酵素」が入っていると誤解を生みますので、可能な限りそれも変更していただければと思います。少なくとも、子どもたちを惑わすような情報は避けなければなりません。

 補因子にはどのような物質があるのかにつきましては、掲載した図に示しましたように、大きく2つに分けることが出来ます。一つは〝補欠分子族〟で、もう一つは〝補酵素〟です。
 このうち、前者は〝永久的に、そのタンパク質と共有結合によって常時固く結合している非タンパク質〟を指し、後者は〝そのタンパク質と緩く結合し、酵素反応の通常の段階では、解離することが多いもの〟を指します。また、〝ビタミンに該当するものが多い〟ことも特徴です。なお、これらの詳細につきましては、今日は割愛させて頂きます。
 そして、実際にどのような物質があるのかにつきましては、図の右側に羅列していますので、そちらをご確認ください。

 今日の結論をまとめておきます。私たちの体内に在る大部分の酵素は複合酵素であって、補因子が結合することによって、はじめて酵素としての機能が発揮されます。そして、不足する可能性があるのは、タンパク質のほうではなくて補因子のほうです。補因子の多くはビタミンであったりミネラル(金属イオン)であったりします。それは即ち、多くの人が日常的に不足させている栄養素でもあります。従いまして、「酵素が不足している」のではなく、酵素が働くために必要な「補因子が不足している」のです。だからこそ私たちは、酵素を補おうとするのではなく、補因子であるビタミンやミネラルを補給しなければならない、ということです。

 
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執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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