「女性ホルモン」というのは幾つかの物質の総称ですが、大きく分けると「エストロゲン(エストロジェン、卵胞ホルモン)」と、「プロジェスチン(黄体ホルモン)」の2つになります。
このうち、「エストロゲン」もまた総称であって、最も主要な物質は〝エストラジオール〟で「E2」と略記されます。因みに、「E1」は〝エストロン〟、「E3」は〝エストリオール〟です。また、「プロジェスチン」も総称であって、最も主要な物質は「プロゲステロン(プロジェステロン)」です。
上記のうち、E1やE2は体内にて「男性ホルモン」から変換されて作られます。この「男性ホルモン」というのも総称であって、最も主要な物質は〝テストステロン〟ですが、他には〝アンドロステンジオン〟や〝デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)〟があります。
言葉で書くとややこしいですが、いずれも「ステロイドホルモン」に分類されるもので、男女共に、複数の器官において、コレステロールを原料にして作られるものです。そして、今回のお話の主役は、E2(エストラジオール)とテストステロンです。以下の文章では、それらを使い分けていきますが、ややこしいと感じる人は、単に「女性ホルモン」と「男性ホルモン」だと解釈していただいて結構です。
「更年期」と呼ばれる時期は、女性におきましては「女性ホルモン」が急激に低下し始めますので、その急激な変化に追い付けない体内組織があった場合、心身に不調が生じることになります。それが、いわゆる「更年期障害」なのですが、その対策として、巷では様々なことが行われます。放っておけば、2~3年も経てば心身が微量ホルモン状態で稼働できるようになるのですが(ご参考:『人生の半分以上は微量ホルモンにて生きるようになっている』)、更年期障害の症状があまりにも酷い場合は、ホルモン補充療法(HRT)が行われます。また、美容のためだと言ってホルモンが補充される例もあります。
ホルモン補充療法のデメリットは、補充された女性ホルモンが代謝されるとき、それを代謝する能力の如何によって、発がん性の高い代謝産物を多く作り出してしまう人が出てきます(ご参考:『乳がんを防ぐための基本的な心構え』)。従いまして、ホルモン補充療法は「諸刃の剣」だということになります。即ち、メリットのほうが多い人がいるかと思えば、デメリットの方が多い人も出てくることになります。
デメリットが多い人の場合、乳がん、子宮体がん、卵巣がんを患うリスクが高まり、その治療においては全く逆のホルモン療法、即ち、女性ホルモンを枯渇させるための治療が行われたりします(ご参考:『ホルモン療法は想像以上に危険である』)。この場合、それまで女性ホルモンを補充して高濃度にされていたにも拘わらず、今度は一気に枯渇させられてしまうわけです。まさしく、天から地への急降下になり、それだけで心身へのダメージは相当なものになってしまいます。それではあまりにも気の毒ですから、何としても避けたいところです。
では、更年期障害の改善や、閉経前の比較的若い人が女性ホルモンのレベルを高めたい場合、どのようにするのが最も良いのかについて結論づけておきたいと思います。なお、「レベル」という語を使いましたが、特に閉経前は月単位で女性ホルモンの血中濃度が変動しますので、「平均的な濃度」を言いたいがために「レベル」という語を使わせていただきました。
また、女性ホルモンの受容体に結合して、あたかも女性ホルモンであるかの如く働く物質(例えば、エクオールなど)を補給する方法もありますが、ここでは体内にて自らの女性ホルモンレベルを高める最も有効な方法について見ていくことにします。
生物学的に見た場合、ホルモン補充療法というのは、強引かつ不自然な行為になります。それは、体が対応できていないにも拘わらず、良かれと思って勝手に体外からホルモンを補充する行為に相当するわけです。何かに例えるならば、不完全燃焼しているにも拘らず、どんどんと燃料を放り込む感じです。
仮に、事前にしっかりと検査して、脳内から増産のための刺激ホルモンが沢山出ているにも拘わらず血中ホルモン濃度が上がっていないことを確認したとしても、既に体は低濃度のホルモンで稼働する方向へと進んでいるわけですから、そうはさせないぞと強引にホルモンを補充することになるわけです。では、強引にならないようにするには、どうすればよいのでしょうか…?
それは、体内における女性ホルモンの需要を増やせば良いのです。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左側の図に、筋肉において主要な女性ホルモンであるエストラジオール(E2)が機能している場面が描かれています。
概して言うと、骨格筋の筋線維が壊れた時、それを修復したり、再生したり、肥大させたりするために、E2(エストラジオール)が使われている、ということです。これは即ち、筋線維を壊せばE2の需要が高まる、ということになるわけです。
筋トレ(筋力トレーニング;レジスタンストレーニング)を行うと男性ホルモン(テストステロンなど)のレベルが高まることは多くの人の知り得るところですが、同様に、女性ホルモン(エストロゲン(E2など))のレベルも高まるのです。
そのメカニズムとしては2通りが考えられて、1つは、筋トレによって増加したテストステロンから、その何割かがE2へと変換されるというパターンであり、もう1つは、筋トレが直接的にE2増産の刺激になっているというパターンです。
その何れにしましても、筋トレによってE2レベルが高まることは事実であり、筋トレと言っても筋線維が破壊されるような高強度の筋トレを行う必要があるわけです。
「筋線維が破壊」と聞くと、何やら恐ろしい現象のように聞こえるかもしれませんが、例えば、腕立て伏せを行って「もう限界…」と感じてから、更にもう2~3回追加して行えば、それで何割かの筋線維が破壊されていると考えられます。できれば、そのような筋トレを、途中に3~5分ぐらいの休憩を入れて、その後にまた限界を少し超えて筋トレを行い、全部で3クールぐらい行えば充分でしょう。
また、特に女性の場合は、高強度の筋トレに相応(ふさわ)しい時期があって、それは右側の図に示されていますように、閉経前の女性では、卵胞期から排卵までの時期です。この時期はもともとエストロゲン濃度が高まっていく時期なのですが、高強度の筋トレを行うことによって、エストロゲン濃度を更に高めることが出来ます。
では、それ以外に時期はどうなのかと言えば、体に無理なストレスを掛けないように、理想的には図に描かれているような、低負荷の有酸素運動や、ごく軽い運動にとどめておくことのほうが良いと考えられます。
因みに、女性アスリートの場合、そのような流暢なことは言っておれないということで、月経周期を無視したトレーニングを行うのですが、その結果として逆にエストロゲンレベルを低下させてしまっているのが現状です。もちろん、アスリートは競技成績が第一ですから、その選択も有りなのでしょう。
では、閉経後の女性の場合はどうなのでしょうか…? この場合は、男性と同じように、月の周期に関係なく筋トレを行っても大丈夫だと言えますが、月齢(月の満ち欠け)に合わせることによって、女性としての自然なホルモン変動リズムを刻めるのではないかと考えられます。
右側の図の下部に月齢の写真を付けておきましたが、上弦の月から満月までの時期に筋トレを行えば、その期間のエストロゲンレベルを高めることが出来ますので、それが自然に近いのではないかと考えられます。
なお、筋トレの頻度は、体(筋肉)の一部位につき2~3日に1回が理想です。それは、超回復にそれだけの時間が掛かるからです。もし、毎日筋トレするのであれば、部位が重ならないように3種類のメニューを作り、3日間で全部位を完了するようにすれば結構です。
今回の記事の最大のポイントは、体が要求していないのに勝手に体外から性ホルモンを補うと、弊害の方が大きくなりますので、体が性ホルモンを必要とする状況、即ち、筋線維の修復、再生、肥大が必要になる状況を作ってやることが重要だということです。