痛いところに手を当てる理由

痛いところに手を当てる理由

 温かさや暖かさが嬉しい季節になってきましたので、その関連のお話を何度かに分けてしていこうと思います。そこでまずは、原点として〝手当て〟について見ていこうと思います。因みに、〝手当て〟と〝手当〟は別の意味になるということですので、日本語も非常に難しいと思わされる一例です。そして、〝手当て〟の「て」が付くと、それが医療的行為であることを意味するようになるということです。

 さて、掲載しました図(高画質PDFはこちら)の左側の幾つかの写真のように、私たちは体のどこかに痛みを感じたとき、その箇所の体表に手を当てる、という行動をします。この行動は子どもたちも無意識的にしますので、誰かに教えられたものではなくて、生まれた時から備わっている本能的行動だと言えます。では、なぜそのような行動をすることが遺伝的に定着したのでしょうか…?

 図の中央付近に、〝手を当てる理由〟を書き出してみました。上から順番に見ていきましょう。
 1. その行為が本能として備わっているため
 具体的には次のようです。何も教えられていない子どもも、痛いところがあれば同じように無意識的に手を当てますので、これは先天的に仕組まれている能力、即ち本能であると言えるでしょう。

 2. 触覚や圧覚を優先させることによって、痛覚が抑制されるため
 手を当てられた部分の皮膚は、手が触れているという触覚や、手で押さえられているという圧覚を脳に送るため、脳は痛覚情報処理だけに専念できなくなり、結果として痛みが緩和する、という理屈です。
 なお、手を当てるだけでなく手を動かして擦る(さする)と、振動や揺れなどの情報も脳に入力されることになりますので、痛覚情報処理が更に疎かになって、鎮痛効果は一層高まることになります。

 3. 壊れたかも知れない組織を物理的に保護するため
 痛みが発生している患部の状況は解らないことが多いですが、その部分が損傷している可能性もありますので、手を当てることによって物理的に保護することを目論みているのだと言えます。

 4. 出血の可能性もあるため、圧迫によって止血するため
 止血帯の代わりを手で行うことになるわけですが、外出血の場合は患部を清浄にしてからしっかりと押さえて止血するのが良いでしょうし、内出血の可能性の有る場合は服の上からでもしっかりと押さえれば結構でしょう。
 怪我などで血管が破損した場合、早ければ数分間で止血されますから、それまでじーっと我慢すれば結構です。

 5. 圧迫によって急性炎症を緩和するため
 急性炎症は治すための大切な反応ですが、炎症が過剰になると痛みも組織損傷も酷くなりますので、手で圧迫することが有効になります。
 その理屈は、次々と損傷現場に送られる白血球の数を少し減らすことで、炎症反応の種々のカスケードの進行にブレーキを掛けることができます。なお、近くに包帯(またはそれに代わるもの)があれば、少し圧力が掛かる程度に巻けばよいのですが、包帯が無ければ手を強めに当てておけば結構でしょう。

 6. スキンシップによって痛みを緩和するため
 これは、第三者に手当てをしてもらう場合に特に言えることなのですが、スキンシップによってオキシトシンの分泌量が高まりますので、安心感と共に、疼痛が緩和することになります。
 特にお子様の場合、与える薬を探す前に、痛いところをしっかりと手当てしてあげましょう。

 7. 患部に遠赤外線を送るため
 一言で言えば、手の平から発せられる遠赤外線によって、損傷部分の治癒を促進させるためです。
 遠赤外線は、いわゆる温度が有るものから放射される電磁波なのですが、もちろん人体からも放射され続けています。その遠赤外線を捉えることが出来る機械の一つがサーマルカメラです。サーモグラフィーにも使われていますし、暗闇でも映る防犯カメラに使われていることもあります。因みに、赤外線カメラというのは近赤外線が使われていますので、仕組みとしては別のものになります。
 なお、〝近赤外線〟の人体に対する有効性につきましては、『昔は竈から放射される近赤外線も乳がん予防に役立っていた』にて述べましたが、〝遠赤外線〟の有効性は別の機序になります。なお、その機序につきましては、機会を改めて書くことにします。
 今回、触れておきたい基本的なことは、遠赤外線の皮膚透過距離についてです。直接的な透過距離は0.2mm程度なのですが、遠赤外線が人体からも放射されていることから解りますように、例えば皮膚表面が加温されれば、その皮膚表面から内部に向かっても遠赤外線が放射されることです。そして、内部に向かって放射された遠赤外線は、その皮膚の下層を加温することになります。これが連続していきますので、最初は皮膚表面のみが加温されるわけですが、だんだんと下層(深層)まで加温されていくことになります。
 遠赤外線は、種々の受容体を介した生体反応によって、損傷した組織の治癒を促進させます。〝手当て〟が有効である理由の中でも、かなり重要な機序になります。私たちは、誰から教えられるまでも無く、傷んだ時にはその部位に手を当てて治癒を促します。自分以外の誰かが痛み出したら、何よりも先ず、自分の手を当ててあげてください。

 
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