少なくとも現時点におきまして、最も顕著な発毛促進効果を示す物質は、ミノキシジル(Minoxidil)であると言われています。ただし、これは、そもそも血管拡張薬(降圧薬)として人工合成された物質で、外用においても副作用がそれなりに出てしまうことが大きな問題です。因みにその副作用とは、頭皮の痒み(かゆみ)、初期脱毛、刺激感などであり、また、使用を中止すると脱毛して元の状態に戻ってしまうそうです。その他、ミノキシジル配合の育毛剤の添付文書には、様々な副作用が羅列されています(詳細は割愛します)。もう一つ、フィナステリド(finasteride)という物質も有名なのですが、これは抗アンドロゲン薬であるため、男性型脱毛症には効果があるのですが、やはり様々な副作用が現れるそうです(詳細は割愛します)。
そこで今回ご紹介しますのは、既存の発毛促進剤には上記のような問題点(副作用など)がありますので、天然物質の中から発毛促進効果のあるものを見出そうと、世界中で活発に探索が行われている中で発見されたものです。それは、ミノキシジルと同等の発毛促進効果が得られると共に、副作用が無いばかりか頭皮の健康増進にも働く、という優れものです。そしてそれは、日本でも迷惑かつ強靭な雑草であるとされているギシギシの、根から採れるエキスです。
先に紹介しておきたいのは、掲載した図の右上に挙げた図(高画質PDFはこちら)なのですが、この図を掲載している論文は、天然物質の発毛促進効果に関するもので2024年までに報告された殆どの論文の内容を調査し、様々な観点から分析し、整理してまとめ上げた総説になっています。そして、この図の左上には、総合的に最も有効であろうと考えられたものから順に植物名が挙げられています。
それは即ち、rumex japonicas(ギシギシ(根))、cucumis melo(メロン(葉))、perilla frutescens (エゴマ(葉))、leea indica(リー・インディカ)、blumea eriantha(ウールフラワーブルメア)、など、となっています。もし、他のものについてご興味がありましたら、論文中に挙げられている幾つかの大きな表に目を通していただければと思います。
次に、掲載した図の左下の2つのグラフを見て頂きたいと思います。これは、ギシギシの根に優れた発毛促進効果が認められたとする原論文のうち、代表的とも言える論文の中に掲載されているグラフです。その内容を簡単に紹介すると、次のようになります。
論文中には様々な実験と結果が書かれてあるのですが、このグラフは、現段階で最も優れた発毛促進効果を示すとされているミノキシジル(図中の「Mi」)と、ギシギシ根エキス(図中の「RJ」)とを比較した結果の一つです。
2つのグラフの左側は、ヒト皮膚乳頭細胞の増殖に与える影響が調べられた結果です。横軸はギシギシ根エキスの濃度であり、右端が比較対象のミノキシジルです。また、細胞に対して1日だけ投与した場合と3日間投与した場合がそれぞれ表示されています。結論を一言で言うならば、ギシギシ根エキス(100μ/ml)は、ミノキシジルと同等の細胞増殖効果を示すことが明らかになりました。
次に、その右側のグラフですが、これはヒトケラチノサイトの増殖に与える影響が調べられた結果です。結論を一言で言うならば、ギシギシ根エキス(50~100μ/ml)は、ミノキシジルと同レベルの細胞増殖効果を示すことが明らかになりました。
両結果を合わせて言うと、ギシギシ根エキスは、ヒト皮膚乳頭細胞やヒトケラチノサイトの増殖促進について、ミノキシジルと同等の効果を示した、ということになります。
次に、図中央の右寄り下段のグラフを見て頂きたいと思います。これは、マウスを用いて毛周期に対する影響が調べられた結果です。「Vehicle」というのは有効成分を含んでいない溶液、「RJ」はギシギシ根エキスを4mg/ml(約0.4%)または8mg/ml(約0.8%)の濃度で含んだ溶液、「Mi」は5%ミノキシジル溶液を、それぞれ1日1回、計25日間塗布されました。
その結果、ギシギシ根エキスは毛周期における成長期を延長させ、休止期を短縮させました。因みにミノキシジルには成長期を延長させる効果は見られず、休止期を短縮させる効果は僅かに見られ、退行期を延長させてしまう、という好ましくない影響も見られました。
以上のことを概観すると、ギシギシ根エキスは、毛包を構成する細胞に好影響を与えて、ごく自然な形で発毛を促進する、という効果を示すことが明らかになりました。これは、ミノキシジルが様々な副作用を生じさせながら不自然な形で発毛を促進することと大きく異なっていると言えます。
ギシギシ根に含まれている成分は、先にupしました『ギシギシも薬効成分の宝庫』に記載した成分(ギシギシの葉の成分)と同じ成分や、異なった成分も含まれていたり、それらの含有比率が異なっていると考えられます。ギシギシ根は、生薬として「羊蹄根(ようていこん)」と呼ばれていて、効能としては、便秘、動脈硬化、いんきん・たむしなどの皮膚病、円形脱毛症の治療に用いられてきた経緯があるのですが、上記のような論文にて、明らかに発毛促進効果がある、ということが確認されたことになります。
なお、『薄毛の対策(育毛)にはエプソムソルト(硫酸マグネシウム)が有効』に記しましたように、入浴時の洗髪の10~15分ほど前に、硫酸マグネシウムの溶液と合わせてギシギシ根エキスを頭皮に適用する方法や、ギシギシ根エキスは経口投与することでも効果が出ると考えられます。
ギシギシという畑の強靭な雑草も、葉っぱから根っこまで神様の有難い恵みであり、大いに感謝したいと思うところです。