腸内細菌を軽視した栄養指導や医療行為は悪である

 分かりやすそうな例を挙げてみることにしますが、草を食べるだけで大きく成長する牛や馬やカバは、いったいどこからタンパク質やアミノ酸を得ているのでしょうか…? 人間の世界にも「私たちの体は食べたものでできている(You Are What You Eat)」などというフレーズが広範囲にバラまかれていますが、これは真実なのでしょうか…?

 草食動物の大きな体を作っているタンパク質は、食べた草の中に入っていたものではありません。では、どこから来たのかといえば、草の主要成分である繊維質を、胃や腸管内に棲息している原生動物や細菌が分解してアミノ酸へと変換し、それを草食動物が貰ったものです。即ち、彼らの体は決して食べたセルロースなどの繊維質で出来ているのではなく、消化管内の微生物が変換して提供してくれたものを利用することによって出来上がっている、ということです。

 私たちの体も同様です。私たちは雑食性になっていますが、食べ物の中に入っている種々の成分だけで体を作り上げることは出来ません。一例を挙げますと、芋を含めた植物性の食料だけを食べて逞しい筋肉を作っている民族もありますが、彼らの腸管内には繊維質を含めた炭水化物をアミノ酸に変換してくれる微生物が生息しているからこそ、彼らの筋肉が出来上がるわけです。更に、私たちの血中に存在するアミノ酸の濃度比率は非常に厳密に調節されているのですが、これは腸管から吸収したアミノ酸を、私たちの体が状況に応じて別のアミノ酸へと変換するからこそ可能になっている調節機能です。或いは、各種のビタミン(ビタミンB1、B2、ナイアシン、パントテン酸、ピリドキシン、コバラミン、ビオチン、葉酸、ビタミンKなど)も、腸内細菌が私たちに供給してくれています。即ち、私たちの体は食べたもので出来ているのではなく、腸内細菌が供給してくれたり、体内で変換されて作られる物質で出来ている、ということになります。

 掲載した図の左側は、ヒトと腸管内微生物との「symbiosis」=「共生」を重視すべきことを提言するものであり、その共生関係の崩壊が、ヒトの酸化ストレス、炎症、腸管透過性の変化、腸内細菌叢の貧弱さなどをはじめとした様々な弊害をもたらす、ということを示しています。
 更に、掲載した図の右側は、腸内細菌叢の不全が原因となる疾患が挙げられており、上から順に、自閉症、肝性脳症、家族性地中海熱、アレルギー、アテローム性動脈硬化症、肝臓病、膵炎、糖尿病、火傷の重症化、肥満、線維筋痛症、となっています。

 このような現実を見てみると、医薬品を与えるのみで腸内細菌叢を軽視した医療行為では、これらの病気を治すことは不可能であることが解ります。もっと言うなら、たいていの医薬品は腸内細菌にも悪影響を与えることになり、病状は悪化する一方になるという危険性をも、はらんでいると言えるわけです。

 私たち日本人が最初に栄養のことを学ぶのは、おそらく小学校の理科や家庭科であると思いますが、そこで教えられる各種の栄養素は、人体に必要な栄養素として教えられます。おそらく、「腸内細菌を養うためにこれを食べましょう」などという指導は無いのではないでしょうか…。これが臨床医学の現場にまで反映され、片手落ちの医療、場合によっては疾患を重症化させてしまう医療が行われることになってしまったのだと考えられます。
 どのような種類の腸内細菌が必要で、それを養うためにどのようなものを食べればよいのかについて、ごく短く表現するならば、それは、世界の長寿村に挙げられるような地域の自然環境中に棲息している土壌細菌種であり、そこで食べられている加工度が少なくて繊維質に富んだ食事です。なお、これらの詳細については追々紹介していくことにしたいと思います。

 
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