前回のブログ記事(『体格あたりの筋力が大きいほど死亡率は低くなる』)の続きとして、今回は、その対策の一つをご紹介いたします。
因みに、前回の記事では、特に膝の伸展力(大腿四頭筋の筋力)が大きいほど延命効果が高くなる(死亡率が低くなる)ことをご紹介しました。そこで、膝の伸展力を高めるためには、それなりのレジスタンストレーニングを行えば良いのですが、現実問題として気軽に行えない人もいらっしゃいます。そのため、そのような人向けに、今回は手軽な対策をご紹介することにします。
また、別の記事におきまして、1日に歩く歩数を一定レベルまで増やすことが老化防止にとって大変有効であることを紹介しました。しかしながら、普通に散歩するだけでは負荷が軽すぎて、大腿四頭筋をあまり鍛えることができません。
アスリートの例も別記事にて紹介しましたが、延命効果の高い競技は、有酸素運動と無酸素運動の、両方の要素がバランス良く入っている競技でした。
結局のところ、有酸素運動としてのウォーキングと、無酸素運動としての筋力トレーニングの両方を行えば、それが相乗効果になるということになります。では、それを一度に行うことは出来ないか…という命題に迫ってみることにします。
では、誰もが日常的に可能であろうトレーニング法について図示してみましたので(高画質PDFはこちら)ご覧ください。
① 先ず、普通に立っている姿勢から、膝を曲げて腰を低くします。膝を曲げる角度ですが、深く曲げるほど大腿四頭筋の大きな筋力が必要ですので、おおよそ90度ぐらいを目安にしてもらえば結構でしょう。なお、膝に痛みがあってあまり曲げられない場合は、痛まない程度まで曲げてください。なお、この姿勢はスクワットをする場合の姿勢に近いですが、この後に歩き出しますから、両足は広げないように閉じておいてください。
② 次に、手にはお茶または水が満杯に入った茶碗またはコップを乗せたお盆を持ってみてください。これの目的は、上半身の安定性を自分でチェックするためです。揺れても、傾いても、お盆の上のお茶や水がこぼれそうになりますので、それを防ぐ動きを目指すためです。
③ 下腹部の〝丹田〟と呼ばれる部分に力を入れてください。これは、特に弓道や射撃の競技の場合に上半身を安定させるために有効な方法になります。また、歩くときに丹田に力を入れるのは、能や狂言における歩行の場合にも行われ、その目的は主に上半身を揺らさないように、安定化させるためです。
④ 膝を曲げて腰を低くした時の頭の上には〝天井〟があると思ってください。そして、少しでも上半身が上に動くと、頭をぶつけると思ってください。
⑤ いよいよ、その姿勢のまま歩き出すことにします。踏み出した足の着地についてですが、世間で言われているように踵(かかと)から着地する必要はありません。特に家の中で裸足の状態で床を歩く場合、踵から着地すると衝撃を吸収できませんから「ドンっ」という音と共に、種々の関節に必要以上の負荷かかかります。従いまして、〝抜き足差し足〟の時のように、足の裏の前部から着地するようにしてください。
注意点としましては、踏み出した脚の膝の位置が横方向にずれないようにしてください。あまりずれると、膝のトラブルの原因になる可能性がありますので、あくまで進行方向に対してまっすぐになっていることを確認してください。
また、歩く度に上半身が上下動すると、それが反動となって、〝楽〟をする歩行になってしまいます。楽をすることは、その分だけ筋力を使わないことになりますので、トレーニング効果が低下します。また、左右の揺れが大きくなっても同様の結果になります。そのような場合、お盆に乗せたお茶や水の面が動いてこぼれそうになりますので、歩き方を修正してください。
⑥ この歩行を、例えば6畳の間であれば、長い方の距離を10往復してみてください。「あ~、もうキツイ…」と思ってからが勝負です。筋肉というものは、現状で間に合うようでしたら補強しようとはしません。生物の体は徹底的に省エネルギーを追求しますから、無駄な発達はしないようになっています。ですから、5往復目で「もう、しんどい」と思うのはまだまだ、8往復目で「もうムリ」と思ってから残り2往復が有効となるわけです。頑張ってください。
余裕があれば、3分ぐらい休憩してから、2クール目を行ってみてください。いわゆるインターバルトレーニングになって、効果が倍増します。
上半身を揺らすことなく、ムーンウォークのように流れるように歩くほど、下半身の多くの部位の筋肉や神経系が大いに働くことになります。そのような歩き方が出来るようになったら、お盆などは持たずに、両手を振って歩いて結構です。家の中を移動する場合、いつもこの歩き方をすれば、ウォーキングとレジスタンストレーニングが一度に実行できてしまうことになります。
また、腰を低く落として歩くほど、効果が高まりますので、チャレンジしてみてください。大腿四頭筋が発達して来れば、両手にウェイト(重り)を持って歩けば、更なる筋力アップが図られます。
以上は、体に特に大きな損傷が無い場合の運動ですが、病床にある場合や、既に歩き難くなっている高齢者の場合、仰向けに寝て足先を上に持ち上げる運動や、椅子に座って膝を伸ばす運動だけでも、ある程度の筋力低下は防ぐことが出来ます。しかし、発達させるまでには至りません。ただし、特別な方法もありますので、それについては次回に記事にしたいと思います。