虫にかじられない植物には人を癒す力は無い

虫にかじられない植物 には人を癒す力は無い

 いよいよ、草木が元気に伸びて茂り、虫も活動を開始する季節に入ってきました。これまで心理的に塞ぎ込んでいた人も、もう大丈夫です! 5月病とやらを気にしている人も、もう大丈夫です。何故なら、植物が茂り、虫がその植物をかじる(齧る)と、かじられた植物は数秒~数十秒後には揮発性物質を発散します。その揮発性物質の主要成分は〝青葉アルデヒド〟や〝青葉アルコール〟と呼ばれるもので、人をリラックスさせるだけでなく、作業能力をはじめとした種々の能力を高めてくれることが従来から確認されています。従いまして、虫にかじられた植物に囲まれれば、すぐさま心身共に元気になってしまう…、ということになります。

 では、なぜ植物が揮発性物質を発散するのか…?ということについてですが、植物にとってはコミュニケーションの一手段になっています。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左側には、2023年の10月に埼玉大学の研究グループによって報告された結果のごく一部を引用させていただいたのですが、虫にかじられた植物が発散する、特に青葉アルデヒド、具体的には〝シス-3-ヘキセナール〟や〝トランス-2-ヘキセナール〟という物質が近隣の植物に届くと、それが届いた植物は数秒後にはカルシウムイオン(Ca2+)を増加させることによるシグナル伝達を開始させ、種々の防御反応を開始すると共に、細胞増殖速度を速めて損傷に備える、という態勢を採ることが明らかにされました。
 この、何秒という短時間の反応は、見た目には殆ど動いてなさそうに見える植物の印象からすると、まさに驚異的な反応速度だと感じられることでしょう。換言すれば、植物たちは静かにしているように見えますが、実際には揮発性物質を情報媒体として頻繁に会話している、ということになります。

 一方、植物工場の中の植物はどうでしょうか…。工場内は、虫が入ってこないように遮蔽されていますから、一匹たりとも虫は居ないはずです。そのため、そこで育っている植物は安心して生育しているわけで、わざわざエネルギーを使って揮発性物質を作って発散させる必要はありません。そもそも生き物は徹底的に省エネルギーを目指していますから、無駄なことはしません。また、使いそうもない機能は、遺伝子が発現しないように封印してしまいます。何世代も経ると、その封印状態が当然の状態として子孫に伝わることになり、植物工場用の品種は虫に対する防御力を完全に失ってしまいます。私たちは将来、そのようなクセの無い野菜を食べさせられるようになるのかと思うと、それは非常に怖いことだと言えます。

 近年、虫が嫌いだから草原や森には行きたくない、という子どもや大人が増えてきているように思います。これは心身のトラブルを増やすことにしかなりませんので、虫嫌いは何とか解消していただきたいところです。
 自分のすぐそばに植物があり、その植物に虫が居て、虫がその植物を食べているときにのみ、青葉アルデヒドが発散されます。まぁ、人力によって植物を傷つけたり、草刈りをしても同様の結果になると考えられますが、そのようなことをしてしまうと揮発性物質を発散してくれる植物が完全にやられてしまうことになって、自業自得となります。ですから、植物に損傷を与えるのは虫に任せ、人はそのそばでゆったりと仕事をしたり、休息を取ったりという行動が理想であると言えるでしょう。
 今回は植物と虫に集中してしまいましたが、土壌中や空中にいる微生物や動物も大いに関わっています。全てが揃ってはじめてヒトが元気に生きていけるようになっていますので、お休みの日はぜひ、大自然に溶け込み、特に虫にかじられている草木に囲まれてお過ごしください。

 
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