寿命を延ばすスポーツと寿命を縮めるスポーツ

寿命を延ばすスポーツと寿命を縮めるスポーツ

 できるだけ健康で長生きすることを希望するのならば、一体どのような運動をするのが良いのか…。先に、歩くことに関する記事をupしましたが、これは歩くことのみに着目したもので、もちろん、そこで述べた歩数が有効となります。ただ、その記事の中で少し触れましたが、運動強度が中~高強度の運動を5.9%ほど採り入れた場合に最も老化防止効果が高いことについて少し触れました。一般的な速さでの歩行は、有酸素運動とは言えない低レベルの運動強度ですので、速歩をしたり、他の運動を組み合わせる必要がある、ということになります。
 また、運動と老化防止や若返りに関する記事としましては、過去に『肌の若返りにはレジスタンストレーニングの方が有効』という記事もupしました。そこでは、筋肉から放出される「マイオカイン」と呼ばれる様々な種類のサイトカインや機能性ペプチドが、特に肌の抗老化にとって有効に働くというお話をしました。そして、マイオカインを多く放出させるためには、筋肉量を増やすと共に、筋肉を大いに使ってやることが必要になりますので、筋トレをしましょう、ということでした。
 では、更なる詳細を知るために、実際に強めの運動を毎日のようにこなしてきたアスリート(元アスリート)の例を見てみることにしましょう。

 これは、過去にアスリートとして活躍した95,210人を調査対象とし、最終的に何歳まで生きたのかが競技別に調べられた結果です。なお、そのアスリートの所属は183各国、生年は1962年~2002年でした。
 掲載した図(高画質PDFはこちら)の左半分に表がありますが、左端の欄は競技(スポーツ)の種類であり、その右の列の数字は、一般人の平均寿命に対するアスリートの寿命の増減年数を示しています。その右は、寿命の増減が視覚的に解りやすいようにグラフ化されたものです。その右の数字は、各競技で調査された人数と、アスリート全体に対する人数の割合です。そして、最も長生きした競技から最も短命であった競技までが、上から下へと順番に並べられています。

 さて、調査の結果ですが、最も長生きしたアスリートは、棒高跳びの選手であることが判りました。そして、一般人の平均寿命に比べ、8.4年、長生きでした。
 次に長生きであったのは体操選手で、8.2年、長生きでした。標準偏差が解りやすく表示されているグラフを見ると、棒高跳びの選手と体操の選手では、ほぼ同等の延命効果であることが判ります。
 その次(第3位)はフェンシング、第4位はターゲティングスポーツ(射撃やアーチェリーなどのような、的を狙い撃ちする競技)、第5位はラケットスポーツ(テニスやバドミントンなどのような、コートを走り回ってラケットを使う競技)、以降、混合陸上競技(複数の陸上競技に参加する場合)、競歩、クリケット、短距離走、3種~10種競技、という順に続いています。

 因みに11位以下は、図から読み取っていただければと思います。なお、お馴染みの競技種目については和訳を入れておきましたが、その他のものは英語表記の部分にてご確認ください。
 下の方にあるフットボールやレスリングまでは、それを行っていたアスリートは一般人に比べて多かれ少なかれ、寿命が延長されたことが判ります。

 では、逆に、寿命を最も縮めることになった競技から順に見ていきますが、第1位は飛び抜けて、相撲を行ってきたアスリート(力士)であり、一般人の平均寿命よりも9.8年短命(-9.8年)であることが判りました。
 第2位はバレーボールで5.4年短命、第3位は登山で3.8年短命、そして、マーシャルアーツ、ハンドボール、と続いています。

 全体を考察してみることにします。最も長寿であった棒高跳びや体操という競技の特徴は、図中にも書いておきましたが、無酸素運動と有酸素運動の両方の要素が上手くバランスしている競技であると言えます。そのため、それを行うアスリートには、スピード、瞬発力、筋力、筋持久力、心肺機能などの全てが高水準であることが要求されます。太り過ぎや痩せ過ぎでは競技になりません。だからこそ、それを実現するために、極めて均整のとれた体づくりをしていかなければならないことになります。また、「疲労があった場合でも気力で戦う」などの無茶が出来ない競技ですので、何よりも健康の維持・管理が重要である競技の代表でもあります。

 一方、最も短命であった相撲という競技は、体重の重さが大きな武器になることが最大の特徴です。もちろん、スピード、瞬発力、最大筋力も重要になりますが、やはり体重が重くなければ吊り上げられてしまえば手の打ちようがありませんから、やはり体重です。そのため、仕事だとはいえ、とんでもない食生活を送らなければならなくなってしまいますから、それが短命になる最大の理由です。
 「次に短命なのがバレーボールの選手? 何故なんだろう…」という疑問など、次々と疑問が湧いてくると思われますが、外傷が多かったり、少々の怪我でも出場してしまったり、疲労回復の時間が無くて酷使してしまったり、精神的なストレスが過大であったりなど、その競技に特有の諸々の原因が寿命を左右していると考えられます。

 総じて、アスリートの目標は、あくまで競技成績を高めることであったり、勝つことであったりしますので、スポーツ障害を防ぐ工夫はあったとしても、寿命を延ばすことなどは目的外です。しかし、競技の種類によっては寿命が大幅に延びることは明らかです。
 寿命の延長をもたらす競技の特徴を繰り返しますが、無酸素運動と有酸素運動の両方の要素が上手くバランスしている競技だということです。そして、それを実現するためのアスリートは、極めて均整のとれた体づくりすることが一つの要因です。もう一つは、疲労していては実現できない高度な技を競いますから、日頃の健康の維持・管理が非常に重要になってくることです。だからこそ、現役時代に培った生活習慣が、その後の寿命延長に繋がっているのだと考えられるわけです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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