生活の偏りが白血球の比率を変えて病気を呼ぶ

白血球の種類と増減の要因

 いつの時代も、楽ばかりをして生きることは不可能に近いと言えるでしょう。たまに、高級な老人向け施設に入所して至れり尽くせりのサービスを受けながら毎日を楽しく寛(くつろ)いでいらっしゃる人のことを耳にすることがありますが、そのような人は比較的早期に病気に罹ってしまうケースが多いと聞きます。やはり、時には闘い、時には大いに疲れることが大切なのでしょう。今回は、その主な理由を図(高画質PDFはこちら)にしてみましたので、それを元に紹介させていただきます。

 図の上段は、ゆっくりと休み、寛いでいる状態を示しています。このような状態で大きな怪我をすることは殆ど無いと言えますから、体内に生じるであろう種々の問題に対処するための仕組みが稼働しています。例えば、体内には多くの種類のウイルスが常駐していますが、そのウイルスが増殖しないように圧力を掛け続ける必要があります。或いは、呼吸によって他の人から風邪のウイルスを貰うかも知れませんから、その監視をしておかなければなりません。或いは、細胞が古くなって自滅出来ない場合に自滅のスイッチを入れてやる必要もあります。その他、自分のものではない、いわゆる非自己と判断できるものが体内に生じる可能性もありますから、生じたらそれを直ぐに処理する必要もあります。このように、私たちが休んで寛いでいるときにも、リンパ球(lymphocyte)を中心とした生体防御システムが稼働しています。

 次に、図の中段ですが、これはマンモスと格闘をしているシーンです。精神状態も肉体の状態も、それこそ全てが戦闘モードです。交感神経が極度に高ぶると共に、体は外傷に対する防御態勢を強化します。具体的には、それまでリンパ球を作ることに重点を置いていたものを、今度は傷口から細菌が入ってきたときにそれを退治しやすいように、細菌を直接的に食べて処理することが出来る好中球(neutrophil)の数を増やすことに重点が移されることになります。この場合、元となる造血幹細胞の分裂能力には限度がありますし、白血球(リンパ球や顆粒球など)の総量を単純に増やしてしまうわけにもいきませんから、リンパ球を作る代わりに好中球などの顆粒球を増やす、という方法が採用されます。

 次に、図の下段ですが、これはマンモスとの激しい格闘によって疲れ切った状態を示しています。体表には多くの傷を負ってしまい、増えた好中球が、次々と入って来た細菌を食べて処分してくれました。ただ、その処分のために細胞内で用いた活性酸素種によって、好中球自身もやられてしまい、傷口付近には好中球の死骸が積もっています。また、泥や砂、草や木の微小な破片も傷口に残っています。そこで、これらを処分してくれる細胞を増やさなければなりませんが、その細胞がマクロファージです。この時に、マクロファージの増殖の合図になっているのが〝疲労〟です。逆から言えば、疲労しているということは、事前に激しい格闘があったのであり、処分しなければならない好中球の死骸や異物が沢山存在していると判断できるため、マクロファージの数を増やそう…、とする仕組みが出来上がったことになります。

 このように、造血幹細胞の分裂速度を速めることなく、目的に合致した細胞の割合を増やす仕組みは、私たちがヒトの姿に進化する遥か以前に出来上がったのだと考えられます。たいへん理に適った素晴らしい仕組みだと言えます。
 ところが、人間が作り出した社会では3種類の状態、即ち「休む・寛ぐ」「戦う/闘う」「疲れる」のバランスが大いに崩れてしまうことが多いのではないでしょうか。その場合、それぞれが過剰になってしまった場合の弊害を、図の右端に挙げてみましたので、その内容をここにも書いておきます。
 
 「休む・寛ぐ」が過剰になると、いわゆる〝免疫力〟は全体として高まることになりますが、リンパ球が増え過ぎることになって、自己免疫疾患やアレルギー性疾患のリスクが高まったり、炎症による症状が激しくなったりします。
 「戦う/闘う」が過剰になると、外傷による細菌感染に対しては防御力が高まりますが、化膿性の炎症が強まったり、顆粒球の増え過ぎはリンパ球の減少に繋がりますから、ウイルス性の疾患(風邪など)に罹りやすくなります。
 「疲れる」が過剰になる、即ち「過労が続く」と、マクロファージが増え過ぎて、マクロファージが仲介しているアレルギー反応、過剰な炎症による発がん、マクロファージの活動によるアテローム性動脈硬化、メタボリックシンドローム、組織の線維化などが促進されることになります。

 以上のように、3種類の状態が1日のうちでもバランスよく、しかもメリハリの効いたレベルで実現できている場合は、作られる各種白血球の割合も正常になるでしょうが、どれかの状態に偏ってしまうと、作られてくる白血球の種類の量的バランスも崩れ、それぞれに特徴的な疾患に罹ってしまうということになります。
 従いまして、日頃において過労の人は、とにかく休んで寛ぐことを考え、日頃において暇すぎる人は、己との闘いにて大いに疲れていただければと思います。

 
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