時と場合によってMCTオイルの摂取が功を奏する

時と場合によってMCTオイル摂取が功を奏する

 油脂に関する話の全体像を描き上げるために、前回の記事である『その脂がカイロミクロンになって毛細血管の血流を邪魔する』の続きとして、今回の記事をupします。前回と同様の〝飽和脂肪酸〟の話なのですが、今回は〝中鎖脂肪酸〟であるところが異なります。そして、脂肪酸の炭素鎖の長さが違うだけで、体に対する影響が雲泥の差となる、ということになります。
 因みに〝不飽和脂肪酸〟につきましては、これまでにEPAやDHA、その関連でα-リノレン酸やリノール酸についても少し触れました。ただ、後者については、まだ本格的な記事にはしていませんので、機会を改めてご紹介させていただこうと思っています。

 さて、飽和脂肪酸についてですが、霜降り肉などの脂の部分の主成分となっているのが炭素数16のパルミチン酸や、炭素数18のステアリン酸です。一方、今回のお話のメインになるのは炭素数8のカプリル酸や、炭素数10のカプリン酸です。これらは常温でサラサラの油です。水のように液体になっていますから〝さんずいへん〟の〝油〟という文字を使うことになります。
 カプリル酸やカプリン酸は、母乳を含めた乳汁中にも少量含まれていて、赤ちゃんに対して即効性かつ低負担のエネルギー源になっているのですが、多くを得るための原材料としてとして〝ココヤシの果実〟即ち〝ココナッツ〟が使われています。
 成熟したココナッツの内部には〝ココナッツウォーター(ココナッツジュース)〟が入っていて、その外側には白っぽい〝胚乳〟の層があります。この層に種々の油脂が含まれているのですが、油脂だけを採り出して、ある程度精製したものが〝ココナッツオイル〟です。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左下に脂肪酸組成の例を引用させていただきましたが、長鎖脂肪酸や、中鎖脂肪酸のなかでも炭素数12のラウリン酸が多くを占めています。ラウリン酸の融点は44~46℃ですので、常温で固体になります。従いまして、ココナッツオイルは常温で固体の油脂になります。
 一方、ココナッツオイルの中には炭素数が8のカプリル酸と、10のカプリン酸が含まれていて、両者を合わせて10数%程度と多くはないのですが、それらだけを採り出して精製したものがMCTオイルです。「MCT」は「Medium Chain Triglyceride(中鎖トリグリセリド)」の略なのですが、多くを占めているラウリン酸が取り除かれているため、元の意味を意識せずに「MCTオイル」を固有名詞として扱う必要があります。そして、ラウリン酸が含まれていないため、常温でサラサラの油になります。

 MCTオイルの最大の特徴であると言えるのは、これを摂取したときの吸収のされ方です。即ち、霜降り肉に含まれている長鎖飽和脂肪酸の場合ような複雑な過程を経ないことです。カプリル酸やカプリン酸がグリセリン分子と結合したトリグリセリドは、そのままの形で腸管内皮細胞に吸収され、そのまま直ぐに血管(門脈)に送り込まれて肝臓まで運ばれます。そして、肝細胞のミトコンドリア内に運ばれてATPの産生に用いられたり、残りは肝臓を出て全身に向かう血流に乗り、体の隅々の細胞にまで運ばれて、それぞれの細胞のミトコンドリアによってATPの産生に用いられます。
 従いまして、MCTオイルは、緊急時において早急にエネルギー源を確保したいときに功を奏することになります。例えば、医療現場で手術後における患者さんのエネルギー補給のために用いられたり、高齢者や栄養失調者における低栄養状態を早急に改善したい場合などに用いられたりしています。

 また、MCTオイルの摂取量が比較的多くなると、肝臓はそれをエネルギー備蓄用のケトン体に変換します。ケトン体は、一般的には断食(ファスティング)期間が数日以上になってくると、体脂肪が活発に分解されてトリグリセリドの血中濃度がどんどん上がっていきますので(断食中は自分の体の脂を食べているため)、その処理が間に合わないこともあって、処理できない分をケトン体へと変換することになります。MCTを摂取した場合、その吸収が速いものですから、同様に処理できない分をケトン体へと変換することになります。
 このケトン体は、糖尿病患者の場合にも増加していますが、様々な恩恵があります。具体例は図の右下の枠内にまとめておきましたので、ざっと目を通して頂ければと思います。結局、ケトン体の恩恵を受けたいのであれば、断食をしなくてもMCTオイルを適度に摂取すれば同様の効果が得られることになります。特に、脳の糖尿病であるアルツハイマー型認知症の場合はインスリン抵抗性などによってブドウ糖を利用し難い状態になっていますので、代替エネルギー源となるケトン体が増えてくれれば、脳細胞の死滅にもブレーキがかかることになります。その他の効果については、図から読み取っていただければと思います。
 摂取する場合の量ですが、1日に数ml程度から始めるのが適当です。エゴマ油にしても亜麻仁油にしても、その程度の量が適切であるのと似ています。また、MCTオイルは必須ではありませんので、過労の場合やエネルギー不足を感じるような場合の応急的なエネルギー源として一時的に利用することも結構だと思われます。

 今日のお話は、同じく〝飽和脂肪酸〟と呼ばれるものであっても、炭素数の違いによって生体への影響が大きく異なってくることと、時と場合によってはMCTオイルの摂取が健康維持だけでなく生活習慣病の改善にも大いに役立ってくれる、ということになります。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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