記憶力を高める方法

 記憶力を高める方法、或いは、短時間でしっかりと記憶する方法について考えてみましょう。​
 「自分は記憶するのが苦手だ」とか、「最近、覚えが悪くなってきた」などと言う人がいらっしゃいますが、そのような人であっても「あのことだけは忘れることができない」ということが必ずあるはずです。
では、どのようなことがしっかり記憶されるのでしょうか?

 最も鮮明に記憶に残るのは、恐怖を感じたときの体験です。大地震にあった、津波に襲われた、交通事故にあった、ヒグマに襲われそうになった、などの時の記憶は、生涯にわたって忘れることが出来ない鮮明な記憶として残ります。恐怖を感じたときの体験を記憶する能力は、ヒトだけでなく、ほ乳類、鳥類など、動物の多くが生物進化の途上で真っ先に獲得した能力です。むしろ、そのような能力を獲得できなかった個体は子孫を残せなかった…ということになります。

 恐怖心を煽って、あることをしっかりと記憶させようとする方法は、人間社会において随分と利用されてきました。学校や職場などで、「これを覚えてこないと強烈なペナルティを課すぞ!!」などのように圧力をかけられる場合がこれに相当します。

 しかし、この方法は、学習においては必ずしも最善の方法だとは言えません。なぜなら、記憶される内容は、恐怖を与えた先生や上司の顔や言動の内容であって、学習すべき内容や仕事の内容の記憶には及び難いのです。

 では、別の方法を模索してみましょう。動物がしっかりと記憶しなければならない二番目の対象は、エサを得る方法に関する記憶です。どこに行けば食べ物があり、どのようにすれば食べ物を得られたかを記憶する能力です。これは、自分が生き長らえ、命を後世に繋ぐために必須です。カラスなどは、その記憶力の凄さを見せつけてくれます。

 ヒトも、これに関する記憶力は優れているはずです。女性の場合は、どちらかというと近場において、いつ頃、どの辺りに、どのような食べ物があるかということや、家族や隣人と交換した情報をしっかりと記憶できるようになっています。

 一方、男性は獲物を追いかけて遠方にまで行くため、広い範囲にわたる地理、進んできた方角や距離、道具の作り方や使い方、獲物の習性などをしっかりと記憶できるようになっています。

 これを現代の日常生活に当てはめるならば、男女の違いはありますが、およそ次のような場合に記憶力が高まるのだと言えます。それは、自分が本当に得たいと思っているものを真剣に追い求めるとき、その過程において見たり聞いたりしたことはしっかり記憶されるということになります。覚えられないというのは、それを真剣に求めていないからです。仕方なく覚える…などの、自らの生存に直接に関係のないことは、あまり記憶しない仕組みになっているのです。

 では、上記のような場合に記憶力が増強される仕組みにおいて、共通している点は何でしょうか。それは、生命を維持したり、子孫を繁栄したりすることに直接的に関係する内容について、特に鮮明に記憶できるようになっている、と言えそうです。

 裏を返せば、覚えたくてもなかなか覚えられない事というのは、生命維持や子孫繁栄にとっては「どうでもよい」と、心の底で思っている事柄になります。数学の小難しそうな定理とか、昔の言語である古文とか、歴史の年代とか、「こんなもの何の役に立つのか…」と、少しでも感じたら最後、長期記憶の回路に入るまでに削除されてしまうのです。

 「受験生なので、そこのところ、何とかならないでしょうか…」という切実なるご要望があるかもしれませんが、そのときは、「この知識は将来にメシを食うために絶対に必要なのだ」と思い込むことです。

 更に別の観点から、記憶力が高まる仕組みを見てみましょう。脳の内部では、意外と単純で機械的な処理が行われていて、どの程度の強さの記憶にすべきかについて、ウェイト付けされます。どのような指標に基づいてウェウイト付けされるかというと、次の2つを挙げることが出来ます。

 1つ目は、ある情報が入ってきたときの感情変動の大きさです。情動の大きさとも言われますし、いわば喜怒哀楽の大きさでもあります。感情が大きく変化したとき、その変化の原因となった情報は記憶として強く残される仕組みなっています。逆に言えば、情報入力の際に情動の変化が伴わない場合は、右の耳から左の耳へ抜けていくという結果になります。結局、記憶に残したければ、喜怒哀楽のどれでも結構ですから、情報が入ってきたときに、思いっきり感動すればよいということになります。「わーーー すごい!! これ…」などと叫んでください。

 2つ目は、一度記憶した情報が後に利用される回数です。利用される回数が多ければ多いほど、その情報は重要だと判断され、やがて長期記憶に格納されるようになります。一般的に、よく覚えている情報というのは、何度も回想したり、何人もの人に話した情報です。これを一般的な学習に利用するならば、今日覚えたことを翌日に取り出して使う、3日後にまた使う、3週間後にまた使う、3カ月後にまた使う、というふうにすれば、ほぼ確実に長期記憶に刻まれるはずです。

 その他、記憶しやすくするコツがありますので、上記の続きとして紹介していきます。

 3つ目として、エピソード記憶を積極的に使うことです。例えば、恐怖体験も、エサを得る方法も、「あの時、あの場所はこうなっていて、私はこのようにしました…」などと、物語として話せる内容になっています。これがエピソード記憶なのであり、ヒトを含めた哺乳動物が最も得意とする記憶です。要するに、覚えたい内容を物語ふうにすることです。その短いバージョンが、語呂合わせです。

 4つ目は、記憶した内容を長期記憶として定着させやすい生活習慣を実践することです。その中でも最も重要なのは睡眠です。寝ているときは、脳は記憶を定着させることに専念できますから、睡眠時間の短い人は忘れん坊になります。因みに、ぼーーっとする時間も有効であり、脳が記憶を定着させるために多くのエネルギーを使うことが可能になります。

 5つ目は、新しく覚えた内容を、既に記憶されている内容と関連づけていくことです。即ち、「あぁ…コレはアレとこのような関係なのか…」などという解釈をしていくことです。芋づる式に覚えるというテクニックだとも言えます。もう少し大きなレベルでは、何かを調べものをしているとき、疑問に思ったことはその時にすぐに調べることです。目的から横道に逸れても結構です。そもそも調べていることの関連情報ですから、全体を丸ごと覚えてしまうことができます。

 6つ目は、「記憶する」という脳活動を日常的に大いにすることです。これによって、短期記憶の処理を担当している海馬の体積を増やすことができます。

 7つ目は、栄養学的なことですが、DHA(ドコサヘキサエン酸)を日常的にしっかり摂っておくことです。

以上、記憶力を高める方法でした。​​​​​​​

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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