頭痛で最も多いのは「緊張性頭痛」で、その次が「片頭痛」ということになります。今回は、後者の「片頭痛」に絞って見ていこうと思います。
片頭痛の起こる頻度が最も高いのは30歳代で、その後は徐々に低くなっていきます。性別では、男性に比べると女性のほうが数倍多いという結果になっています。
次に、片頭痛が起こるメカニズムを簡単に見ていくことにします。なお、掲載した図(高画質PDFはこちら)は、既に片頭痛が起こっているときの現象が示されたものですので、後に、ごく簡単に紹介しようと思います。
<1> 片頭痛のきっかけになるのは、本人にとって過剰となる種々の生理的および精神的ストレスです。そのストレスの原因(ストレッサー)は、人によって本当に様々です。「こんなものが原因になっていたとは…」と驚くことが多いわけです。なお、対処方法については後に述べていくことにします。
<2> 次に、その過剰のストレスが、全身の恒常性維持を担っている脳内の視床下部に働くと、そのストレスを緩和するために様々な防衛反応が開始されます。そして、片頭痛の場合、特にセロトニン神経系が大きく関係し、生理的な乱れや精神的な不安を軽減するために多量のセロトニンを分泌することになります。
<3> セロトニンは、高ストレス状態でアタマに血がのぼっている状態、即ち、血管が拡張している状態を鎮めるために、脳内の血管を収縮させることにも働きます。これによって脳内の血管径は適度に収縮し、ほぼ正常な状態を保つことが可能になります。
<4> しかし、セロトニン神経によるセロトニンの生合成量には限度があるわけであり、やがてセロトニン枯渇を引き起こすことになります。その結果、血管を収縮させていたセロトニンが枯渇するわけですから、今度は血管が過剰に拡張することになります。過度の緊張の後のリラックス状態も、副交感神経優位を招いて血管拡張に輪をかけることになります。
<5> 血管が過剰に拡張すると、特に顔面や脳内の血管周囲を取り巻いている三叉(さんさ)神経が過度に引っ張られることになり、過度に興奮することになります。その興奮は、神経末端からのCGRP(図中に示されている物質;カルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide)を多量に分泌することになります。
<6> 分泌されたCGRPは、図中に示されているような機序によって、更なる血管の拡張を引き起こします。即ち、セロトニン枯渇による血管拡張と、CGRPによる血管拡張が重なることになるわけであり、周囲を取り巻いている三叉神経は、平常時にはあり得ないほどに引っ張られて過度に興奮することになります。
<7>このような状態になると、脳内の他の部位のニューロンにおいても、痛みを含めた炎症を亢進させる方向に働くサブスタンスPやプロスタグランジンなどの発痛物質を放出することになります。また、痛みを抑制する作用も有するセロトニンが枯渇していますから、あり得ないほどの激しい痛みを感じることになります。結局、脈拍と連動するズッキン-ズッキンとした痛みは、血管周囲の三叉神経系からの直接的な電気信号によるものであり、じわーっと持続的な痛みは種々の発痛物質によるものだということになります。
以上のようなメカニズムによって、片頭痛が非常に激しい痛みを起こすことになります。そこで、どのように対処していくのが良いのかについて、文字数の関係から、今日は「前編」として、最初の部分のみ触れることにさせていただきます。
上記<1>で述べた、「片頭痛のきかっけは、人によって本当に様々である」ことから、その「きっかけ」を探し当てることが、最も大切な作業になります。例えば、「私は、仕事で凄く疲れた翌日に片頭痛を発症することが多い」とか、「寝過ぎた後に発症することが多い」とか、「低気圧が近づくと発症しやすい」とか、「何かのにおいを嗅いだ後に発症しやすい」とか、「あれを食べたあとに発症しやすい」とか、「生理周期と連動している」とか、もう、書き上げればきりがないほど、個人によって様々なのです。それを見つけ、出来る限り、それによる刺激を脳内に入れないことです。
そして、もっと根源的な話をするならば、ストレス耐性を高めることなのですが、これにも個人差や遺伝的要素がありますので、その人のせいにすることは酷な話です。ただ、現代の都市環境にて現代的な生活を送っているほどストレス耐性が低下しますので、出来る限り、人工的な空間に居る時間を減らすことが大切です。また、オフィスなどの空間には、ストレス耐性を高めるために植物を沢山置いたり、緊張緩和に有効なアロマ成分を漂わせたり、耳には聞こえない高い音を発することができる装置にてBGMを流したりすることが必要です。自然界に囲まれている限り、ヒトという動物も、かなり高いストレス耐性を発揮することが出来るのです。現代に片頭痛が増えている最大原因はこれだと考えられます。
既に、この文字数になってきましたので、続きは別稿とさせていただきます。