細胞にとって二酸化炭素は極めて大切

細胞は、5%程度の高濃度の二酸化炭素(CO2)に包まれなければ生きられない。 それは、細胞が誕生した頃の地球の大気組成がそうだったからである。

 今日は、私たちの細胞に関する重要な基本の一つを紹介してみようと思います。それは、酸素や二酸化炭素に関することなのですが、世間一般では酸素が重要視され、二酸化炭素はどちらかと言えば嫌われる対象になってしまっているようです。しかし、本当のところはどうなのでしょうか…。

 この地球上に生命らしきものが誕生したのは、今から38~40億年前であるとされていて、当時の地球の大気に占める二酸化炭素の濃度(大気中に占める割合)は20%前後であったと推定されています。そして、酸素は殆ど存在していませんでした。
 そのような環境に生まれて棲息していた生命体は、いわゆるバクテリア(細菌)に分類されるものであり、現代の嫌気性細菌(酸素が在ると繁殖できなかったり死滅したりする細菌)に相当するものです。私たちの大腸に生息する腸内細菌も、その殆どが嫌気性細菌ですので、当時の形式を引き継いだ生物が今も私たちと共存してくれていることになります。
 その後の二酸化炭素濃度は、掲載した図(高画質PDFはこちら)に示されているように30%を超える程度まで高まった時期もありましたが、その後は減少に転じて現代に至っています。なお、現代の二酸化炭素濃度の平均値は0.04%ですので、当時よりも2~3桁少ないことになります。

 時代が進み、およそ27億年前になると、光合成によって酸素を排出する細菌(シアノバクテリア)が現れましたので、大気中に酸素が含まれるようになってきました。当初は低濃度でしたので問題は少なかったのですが、酸素を発生するシアノバクテリア自らが苦労をし、SODやカタラーゼといった酵素を作り出して活性酸素による傷害を防ぐ方法を身につけました。因みに、この仕組みは私たちも受け継いでいて、活性酸素種による傷害を乗り越えています。シアノバクテリアのお陰だと言うことができます。

 酸素濃度が徐々に高まっていくと、その酸素を有効利用する好気性細菌が誕生することになりました。その一種が、私たちの細胞に在るミトコンドリアへと姿を変えていくことになるのですが、やはり酸素は猛毒ですので、あまり高濃度になることは望んでいませんでした。そのため、どこかに潜り込んで、酸素濃度が適度になる環境を得ようとしていました。
 一方で、酸素が無い時代に生まれた嫌気性細菌の一部は、アメーバのような単細胞生物へと進化していました。ただ、酸素濃度が徐々に高まっていきましたので、それから逃れるために海の底や地面の中へと潜り込もうとしていましたが、問題は栄養源の確保やエネルギー効率を高めることでした。
 そこで、およそ21億年前に、どこかに潜り込みたいと思っていた好気性細菌と、細胞内に染み入ってくる酸素を何とかしたいと思っている単細胞生物が合体することになりました。具体的には、単細胞生物の細胞内に好気性細菌が潜り込むスタイルとなりました。そうすることで、好気性細菌は高濃度の酸素から逃れられることになり、単細胞生物にとっては細胞内に染み入ってくる酸素を好気性細菌が利用して二酸化炭素と水に変えてくれるので、両者がwin-winの関係になりました。その潜り込んだ好気性細菌が、今のミトコンドリアに相当します。

 ミトコンドリアを備えた単細胞生物は、永らく(1億数千万年間)その状態で過ごしていたのですが、その後に光合成によって酸素を放出する生物(シアノバクテリアや、その仲間を葉緑体として持つ単細胞生物(植物の前身))が繁茂したため、大気中の酸素濃度は10%を超えるようになりました。併行して光合成の時に二酸化炭素が炭素源として利用されたため、大気中の二酸化炭素濃度がどんどん低下していきました。因みに、私たちの細胞もそうなのですが、二酸化炭素は細胞内のpHの上昇を抑えるために欠かすことのできないものになっています。
 そこで、今からおよそ6億3千万年前、細胞同士が寄り集まって集合体を作る方法が編み出されました。細胞の中にはミトコンドリアが居てくれて酸素を消費しながら二酸化炭素を排出してくれますから、集団を作って一塊となれば、最も外側に位置する細胞の一面だけは犠牲になりますが、その他の細胞は環境中の高濃度の酸素から逃れることができ、併せて内部に生じた二酸化炭素の放散を防ぐことができます。
 現代のように、環境中の二酸化炭素濃度が0.04%などという低濃度では、細胞は一定のpHを保つことができずに死ななければなりません。しかし、一塊となれば、即ち多細胞生物になれば、内部の二酸化炭素濃度を5%程度に保つことが出来るというわけです。

 実験系において、ヒトを含めた動物の細胞を培養しようとする場合、容器内や培養機(インキュベーター)内の二酸化炭素濃度は5%にするのが一般的です。この濃度は、私たちの体の健全な組織中の二酸化炭素濃度でもあります。また、酸素を運んでくれているヘモグロビンも、この程度の二酸化炭素濃度になったときに酸素を離し易くなるように設定されています。要するに、組織中の二酸化炭素濃度がこれよりも低下すると、酸素の供給もできない状態になるわけです。
 概して言いますと、私たちの細胞レベルでは、細胞が生まれた時代の大気組成にて、はじめて健全に生きられるように設定されていますので、組織中から二酸化炭素を排出し過ぎないように注意することが極めて大切だということになります。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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