日本人は独特だが個人差も大きい

日本人は独特だが個人差も大きい

 健康診断を受けると、その結果として「○○の正常範囲は△~□なのですが、あなたは高すぎますので注意してください」というような答えが返ってくることでしょう。因みに、私は過去十数年間は健康診断を受けていませんので、そのようなことを言われる機会は無くなりました。
 では、ここに健康な二人の人がいて、一人は健康な縄文人、もう一人は健康な東アジア人だったとしましょう。この二人の血液を採って、測定可能な様々な項目について調べると、数値がほぼ一致する項目もあるでしょうし、比較的大きな違いを示す項目もあるでしょう。

 掲載した図(高画質PDFはこちら)の中央下に、「縄文人(狩猟採集)」と「大陸の東アジア人(稲作農耕集団)」の特徴が書かれている部分があります。
 縄文人の場合は、「身長」が低めです。また、「CRP & 好酸球数」が低めです。〝CRP〟といいますのは〝C-reactive protein(C-反応性タンパク質)〟の略で、体内で炎症が起こると血液中に増加するタンパク質です。主に炎症反応のマーカーとして使われていて、これが高いと感染症、炎症性の疾患、膠原病、心筋梗塞、悪性腫瘍などが疑われることになります。従いまして、縄文人の場合は元々が低いですから、炎症反応のマーカーとして用いる場合は、正常範囲を全体的に低めに設定しておかなければならないことになります。
 〝好酸球〟といいますのは白血球の一種であり、そのうちの顆粒球の一種です。主に寄生虫の駆除やアレルギー反応に関与する細胞ですので、寄生虫が居たり、アレルギー反応が起こっていたりすると数値が高まることになります。ただ、縄文人の場合は元々が低いですから、マーカーとして用いる場合は正常範囲を全体的に低めに設定しておかなければならないことになります。
 また、縄文人は「中性脂肪 & 血糖値」が高くなり易いという特徴を持っています。これは、狩猟採集生活に適応した特徴で、現代の日本人のように、或いは稲作をしていた東アジア人のように高糖質のものを多く食べませんでしたから、「飢餓への耐性」が高まっていたと解釈されます。即ち、少量しか入ってこない糖質によって必要な血糖値を維持するために、体内における糖新生が活発であることや、飢餓に備えて貯蔵脂肪を生合成する能力が高められているということです。従いまして、縄文人が現代人のように多くの糖質を摂ると、血糖値や中性脂肪の値が容易に適正範囲を超えてしまうことになります。また、人によっては直ぐに太ってしまうことになります。

 一方、大陸の東アジア人は、縄文人とは逆の特徴を示します。「身長」が高めであり、「CRP & 好酸球数」も高めですので、適正範囲を少し高めに設定しておく必要があります。
 「CRP & 好酸球数」が高ければ、農耕社会において人口密度が高まったことによる寄生虫や細菌の増加に対応しやすくなりますので、それは有利な特徴であると言えます。ただ、その反面として、アレルギー反応(喘息やアトピー性皮膚炎など)が出やすくなります。
 また、空腹時の「中性脂肪 & 血糖値」が低めの数値になりますが、これは稲作によって恒常的に多くの糖質を得ることが出来るようになりましたので、中性脂肪の合成能や、糖新生の能力が低く設定されたことによると解釈できます。もちろん、空腹時の低血糖による空腹感は強くなりますので、人によっては高糖質のものを食べ続けるような病態に陥りやすいと言えるでしょう。

 さて、「縄文人(狩猟採集)」と「大陸の東アジア人(稲作農耕集団)」の両者の主な特徴を見ましたが、現代の日本人は両者の混血になっています。そして、同じ日本人でも、両者の遺伝子比率に大きな差が認められています。
 掲載した図の右上に日本列島(事情により北海道は除かれている)の図がありますが、青っぽい色で濃く塗られている都府県と、薄い色で塗られている都府県があります。そして、色が濃い都府県ほど、縄文人に由来する遺伝子を多く持っていることを示しています。
 なぜこのように、日本列島で不均一な状態になっているのかと言えば、それは何よりもDNAが分析された結果がこのようであった、ということです。どのような理由があろうが、その理由は後付けになるわけです。
 因みに、概略は次のように解釈されていて、掲載した図の左下、および中央に引用した図に示されているとおりです。即ち、日本列島に最初に住み着いていたのは縄文人であり、その後は大陸の方から次々と日本列島へと人が移住してきました。先ずは北東アジア人が入ってきて部分的に混血となり、いわゆる「弥生人」が誕生しました。次には東アジア人が入ってきて部分的に混血となり、いわゆる「古墳人」が誕生しました。その後、日本列島内で上記の3種類の人の混血が進み、現代の日本人に至っている、ということです。ただし、地域によって混血の程度が様々であり、縄文人の遺伝子の割合(度合)が多い都府県や、東アジア人の遺伝子の割合(度合)が多い地域があるということです。

 補足になりますが、右下の図に示されているのは、ゲノム(DNAに書かれている全遺伝情報)から見たときの縄文人、弥生人、現代日本人(黒線の楕円)、現代の東アジア諸国の人たちの位置づけが2次元的に示されたものです。図の詳細は煩雑になりますので割愛しますが、現代日本人は現代の東アジア諸国の人たちとは明らかに異なっていて、かつての縄文人との混血が進んで生じた独特の人種であると言えます。ただ、そのなかでも地域差や個人差は比較的大きいものであるということです。 
 
 以上から次のようなことが言えます。それは、特に生理学的な特徴を論じる場合に「日本人は…」と一括りにすることには問題が生じる場合があるということです。都府県ごとに違いがあるのと同様に、個人間でも、思っている以上に大きな違いがあって当然だということになります。
 上述しました「CRP & 好酸球数」や「中性脂肪 & 血糖値」の違いから、「縄文人度合いが高い地域」の人は肥満になり易かったり、「縄文人度合いが低い地域」の人は喘息やアトピーが重症化しやすかったりします。或いは、今回はデータを添付しませんが、酒を飲んだ時に働くアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の活性が弱い遺伝子多型も、東アジア人から伝わってきたと考えられていて、縄文人度合いが低い場合に、この特徴が表面化する確率が高くなります。このように、一人一人はDNAレベルでも比較的大きな差を有していますから、そのような目で人を見ていくことが大切でしょう。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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