背骨は水中を泳ぐことを前提として設計された

 腰痛で悩んでいる人は結構多いことと思われます。或いは、まぁまぁの頻度でぎっくり腰になるという人も決して少なくはないでしょう。或いは、長時間寝ていたリ、椅子に長時間座っていると痛くなるという人もいらっしゃることでしょう。
では、なぜ人は、そのようなトラブルを生じやすいのでしょうか…?

 私たちの心身に起こる色々な現象の原因を知ろうとするとき、生物進化の過程を眺めてみることが必要である場合が、思いのほか多くあります。そして、腰痛も、その一つに該当します。
 私たち人類の背骨は、多数の短い円柱状の骨がつながって出来上がっていますが、この構造は魚も一緒です。言い換えると、このような背骨の構造は、私たちの祖先が魚であった頃に、水中生活することを前提として出来上がったものだということです。もし、背骨が一本の長くて硬い骨で出来ていた場合、体をくねらせることができません。ヒレを随所に設けて動かしたとしても、速く泳ぐことはできず、天敵に食べられてしまうのが落ちになります。従って、背骨を多数の短い円柱状の骨を繋ぎ合わせ、つなぎ目は少し角度を変えられるような、柔軟性を確保できる形状にしておくことが必須だったわけです。

 次のようなことも着目すべき点です。それは、体をくねらせるのは、魚であった頃は、主に横方向(左右方向)でした。イルカやクジラなどの水棲哺乳類は尾ビレを上下方向に動かしますが、魚類は基本的には横方向です。そのため、背骨のつなぎ目も、体を横方向にくねらせることに対応しており、上下方向、ヒトの体で言えば、前後方向にくねらせることには対応していなかったわけです。
 更に、次のことも重要です。それは、魚であった頃の背骨は、体を捻転させる(ひねる、ねじる)ことにも対応していなかったことです。泳いでいる魚をご覧になってください。魚は左右に体をくねらせて泳いでいるだけであって、スクリューのように捻じる動きはしていないはずです。ところが私たちのような人類は、上半身を右に捻転させて物を取ったり、様々なスポーツを行ってわけです。いわば、基本設計には含まれていない動かし方をしているわけです。

 更なる想定外は、私たちの祖先が両生類、そして爬虫類であった頃に、上陸するようになったことです。なお、上陸が始まったのは約3.4億年前だとされています。元々水中用に設計された背骨は、水中に居るときには水に浮かんでいますから、泳ぐときの自分の筋力に耐えられればよかったのですが、上陸すると、今度は自分の体重を支える役割も果たさなければならなくなったわけです。
 ただ、ネズミのような姿の頃や、四足歩行のお猿さんのような姿の頃は、背骨に垂直方向の力がかかることはありませんでした。しかし、その後に、最大の難関が訪れることになったわけで、それが直立二足歩行です。この体勢になると、特に腰の部分の骨には上半身の全体重がかかることになります。この状況は、水中を体をくねらせて泳ぎやすいように設計した構造では、非常にムリがあります。しかし、機械のように構造変更することはできなかったのです。

 以上をまとめると、私たちの背骨は、水中において体を横方向にくねらせて泳ぐことを前提として設計されたものです。そのような背骨に対して、上陸したことによって体重の負荷がかかる、上下方向(前後方向)にも曲げられる、陸上の二足歩行によって垂直方向に大きな荷重がかかる、荷重がかかった状態で体を捻るような行動もされる、など、全くの想定外の使われ方をされるようになったのです。ヒトの場合、比較的分厚い椎間板が骨と骨の間に仕組まれていますが、これは特に柔らかいですから、潰れたり摩耗したりします。トラブルが生じないほうが不思議だと言える構造になっているわけです。
 もちろん、直立二足歩行に適応するために骨格の構造も何万年というオーダーで少しずつ変化しつつあるのでしょうが、元々の設計思想が異なっているわけですから、将来的(数千年後)に完璧なものになる可能性は低いでしょう。従いまして、何よりも、私たちの背骨の構造上の特徴を見つめ直し、背骨の気持ちになって日常の活動を行うことが重要なのではないかと思うところです。(図の高画質PDFはこちら

 
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