歳と共に血圧が上がるのは当たり前ではない

歳と共に血圧が上がるのは当たり前ではない

 今回の記事は、〝血圧〟を主テーマにした記事としては4つ目となります。因みに、先にupしていますのは、『高血圧症の解消に運動が有効である理由』、『高血圧であることが伝わっていないから高血圧』、『マグネシウム不足で高血圧になるメカニズム』の3つです。
 上記のそれぞれについて「高血圧症を防ぐための方法」という観点で読んでいただくのであれば、そのポイントは、① 1秒間に2回程度の上下動を伴う運動をすること、② 大動脈の動脈硬化を改善すること、③ マグネシウム不足にならないようにすること、という3点になります。

 そして今回は、「年齢が高まっていけば血圧が少しずつ高まっていくのは当たり前である」という、一般常識とも言える思い込みを解消しておくことを目的の一つとします。
 因みに、一昔前に言われていました高血圧の基準は「自分の年齢に90~100を足したもの」というのがありましたが、これは高齢化した世の中ではあまりにも基準が甘すぎて、90歳の人であれば最高血圧が180~190mmHgにならなければ大丈夫だということになりますので、やはりこれは完璧に撤回しておくべきだと言えます。
 また、この計算で行くと、50歳の人であれば140~150mmHgにならなければ大丈夫だという話になりますが、やはりこれも理想像とは言えませんので、考え直しておく必要があると言えます。もちろん、血圧が高まっている原因を解消せずして、何らかの医薬品で強引に血圧を下げることは危険ですから、降圧剤を使えという話では全くありません。

 では、今回の主題に移りますが、世界中には年齢が高まっていっても血圧が高まっていかない人たちがいます。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左上にグラフを引用させていただきましたが、縦軸が〝血圧値〟、横軸が〝年齢(10歳区分)〟になっています。そして、3つの民族のデータがプロットされているのですが、その中でも赤四角で示されている〝ヤノマミ族〟のデータに注目して頂ければと思います(スマホでご覧の方は後で見て頂けば結構です)。
 彼らは、年代が進んで行っても血圧(収縮期血圧や拡張期血圧)が高まっていきません。およそ、収縮期血圧が100mHg前後、拡張期血圧が60数mmHg前後で安定しています。しかも、別の研究者によると、例えばヤノマミ族(Yanomami)の30人を検査したとすると、30人ともが同様に、加齢による血圧上昇を示さないということです。
 このような状況は、日本ではありえないことです。例えば、Aさんは10年間で血圧上昇がほぼゼロであったが、Bさんは10年間で10mmHg高まった…などと個人差がかなり大きく、平均すれば日本人は加齢と共に血圧が確実に上昇していく、ということになるわけです。

 ヤノマミ族の人たちのように、ほぼ全員に加齢による血圧上昇が見られないというのは、遺伝的には少しの個人差があったとしても、それを打ち消すような外部要因が存在しているからだと言えます。即ち、その地域に暮らすことによる食習慣、その他の生活習慣、環境要因などが、加齢による血圧上昇を起こさないように働いているのだと解釈できます。
 なお、人種的には、彼らは日本人と同様の〝モンゴロイド〟です。日本人とよく似た顔をしていますし、諸々の遺伝的な特徴も日本人に似ていると捉えて結構です。その彼らが、加齢による血圧上昇を示さないのですから、日本人も色々と改善していけば、高血圧にならずに済ませることが可能なはずです。
 彼らの血圧が上がらない理由として以前から挙げられているのは、低ナトリウム・高カリウムの食餌、激しい労働、飲酒習慣が無い、の3つです。そして、私が付け加えるとすれば、ほぼ野生に近い植物を食べることによって得られる充分量のマグネシウム、塩や砂糖をはじめとした調味料を一切使わず、もちろん食品添加物などは一切含まれていない自然のままの食餌、洗剤を使ったり殺菌したりしないため圧倒的に豊かな腸内細菌叢を有していること、膨大な種類と数の植物が放散するフィトンチッドを常に吸っていること、ジャングルに漂う自然界の超高周波音を1年中浴びていること、などです。

 ヤノマミ族の人たちには、加齢による血圧上昇が見られないだけでなく、糖尿病や脂質異常症も殆ど見られません。本来なら、至って健康のはずですから、普通ならば長寿になるはずです。しかし、彼らの寿命は平均すると50歳前後だということです。現代日本から見れば、かなりの短命だということになります。
 この事実だけを知って、次のように言う人たちがいます。「やっぱり、塩(塩化ナトリウム)は使ったほうが良いんじゃないですか?!」とか、「もっと衛生面に気をつけるべきじゃないんですか?!」などです。しかし実際は、極めて残念かつ憤りを感じる理由によって、彼らの寿命が大幅に短縮されています。その一つは〝水銀汚染〟なのです。
 ヤノマミ族の人たちが住んでいるのは、ブラジルとベネズエラの国境付近であり、アマゾン川の支流であるネグロ川の左岸やオリノコ川の上流部に当たります。そして、そこは金の産出量が多く、違法行為としてジャングルを破壊しながら金を採掘する業者が数千人~2万人ほど入り込んでいるそうです。もちろん、取り締まりは行われているのですが、追い付かない状況のようです。
 水銀汚染の直接原因は、金が含まれている地層から1gの金を採り出すために、その数倍~100倍程度の水銀(無機水銀)が使われるのですが、その際に違法業者は水銀を回収せずに、水銀蒸気として大気放散してしまうからです。大気放散された無機水銀は、自然環境中において微生物によるメチル化などによって、猛毒となる有機水銀へと変化します。日本では、かつて、水俣病の原因になった猛毒物質です。結局、生活習慣病には縁の無いヤノマミ族の人たちなのですが、地域一帯が有機水銀に汚染されてしまったために、50歳に近付くころには体内蓄積量が限界に達し、命を落とすことになってしまうのです。

 他にも短命になる原因があるのですが、2番目の恐怖は、違法な金採掘業者が次々と運んでくる種々の病原体(病原ウイルスや病原菌)です。そもそも、彼らはジャングルの中で隔離されたような形で生活してきましたから、種々の病原体に対する抗体が出来ていません。そのため、そのような病原体が入ってくると重症化しやすいわけです。
 3番目は、違法業者との争いによって命を落とすヤノマミ族の人たちがいることで、平均余命を短縮させる原因の一つになっています。
 4番目は、ジャングルが破壊され続けていることによって、食糧確保が不十分になることによる栄養失調です。

 今回お話したかったことは、一つは血圧の話なのですが、もう一つはヤノマミ族の人たちを救わなければならないというお話です。掲載した図の右端中段には如何にも健康そうなヤノマミ族の若い女性、下段には魚を捕って誇らしそうにそれを見せる少年たち。しかし、その魚も、果実類も、芋や小動物たちも、既に有機水銀を蓄積しており、それを食べた子たちの体内に入り、表面的に健康そうに見えるその子たちの体は、既に蝕まれつつあるのです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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