「これは体にとって良いのですか?それとも悪いのですか?」と聞かれ、「量によります」と答えれば、「ややこしいですね…。どちらなのか、ハッキリしてもらえないでしょうか」って詰め寄られる。或いは、「○○は有害だと言われてますが、その情報をご存じないのですか?!」と説教じみて諭される…などは、結構ありそうなシーンではないでしょうか(笑)そこで、そのような問題が生じないように、根本的な原理原則を確認しておこうと思います。
先ずは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の中のグラフをご覧いただきたいと思います。横軸には「量または程度」を採っていて、右に行くほど「多かったり強かったりする」ことになります。また、縦軸には「作用」を採っていて、破線よりも上に行くほど「有益性」や「恩恵」が大きいことになります。また、破線よりも下に行くほど「弊害」や「毒性」が大きいことになります。
身の周りの多くのものは、大抵このような特徴を示します。図の下段に色々と例を挙げておきましたが、例えば「食餌の量や回数」について見てみますと、腹7~8分目を食べれば、それは体にとって好ましい結果を及ぼすことでしょう。しかし、腹12分目を食べれば、ちょっと苦しくなり、栄養素を得られる点では良いかもしれませんが、消化器官の負担がかなり大きくなって、その分が弊害となるでしょう。更に、腹20分目を目指して詰め込めば、多くの面でかなりの弊害が出そうです。また、そのような大食を繰り返せば、比較的早期に寿命を迎えることになるでしょう。
では「食餌は体にとって良いのですか?それとも悪いのですか?」と聞かれ、「食べる量によります」って答えれば「そりゃそうですよね…(^^;」ってなると思います。同様の特徴は、身の周りの大抵のものに見られるわけです。
他の例として「有害ミネラルの量」を挙げてみました。例えばカドミウムという元素は毒性が高いことで有名ですが、食餌中からカドミウムを完全に取り除いてしまうと欠乏症が生じることがわかってからは、必須元素の一つとして扱われるようになりました。これは、本当にごく微量が「適量」になる例です。
「カドミウムは猛毒ですよね!?」って聞かれ、「いや、必須ミネラルですよ」って答えると、「あなた、何言ってるんですか!!」って怒られそうですが、要するに、カドミウムは量によって「悪」にも「善」にもなるということです。問題は、その物質にあるのではなく、その物質の量にあるということになります。
「薬の量」の例は解りやすいと思われます。飲む量や、飲む回数などが細かく指定されますし、多かれ少なかれ副作用が生じるという常識が行き渡っていますから、大抵の人は両刃の剣であることを納得していると思われます。そもそも、薬の起源は毒草に含まれている有毒成分であり、「毒も少量であれば薬になる」ということをご存じの人も多いと思います。そして、その特徴は何も薬に限ったことではない、ということです。
「一酸化炭素」も挙げておきました。一酸化炭素が空中に一定濃度以上に漂うと、容易に一酸化炭素中毒を起こし、意識を失って死亡してしまうという、大変怖い物質であることは多くの人の知り得るところです。ただ、ごく少量は体内でも産生されていて、神経伝達物質として欠かせない気体になっています。そして、低濃度の一酸化炭素は、酸化ストレスを原因とする色々な病状を軽減させる効果のあることが発見され、治療薬として利用されることもあります。即ち、一酸化炭素が「悪」であると決めつけるのではなく、「一酸化炭素も、その濃度によって有害にも有益にもなる」と覚える必要があると言えます。
因みに、「酸素」の有害性や、「二酸化炭素」の重要性につきましてはこのブログでも既に採り上げて紹介した通りです。
例を挙げていくとキリが無くなりますが、「各種の細菌・ウイルス」は非常に大切です。これまでに関連記事を幾つもupしていますが、病原性を示すものは本当にごく一部です。しかし、全部を含めて「菌」と称し、それを駆除することが理想であるような啓蒙を行ったせいで、特に子どもたちの免疫系は極めて異常なものになってしまいました。環境中や人体の要所には然るべき種類と数の細菌やウイルスが必要になっています。そして「悪玉菌」や「善玉菌」などと呼べるものはいません。それぞれの存在割合が重要なのであり、それぞれが「適度」に存在していることが重要になります。
「放射線」を挙げましたが、「放射線ホルミシス」をいう言葉や現象をご存じの方は多いと思われます。その放射線がDNAを切断する危険な放射線(電離放射線)であっても、それに微量に暴露することによって少量のDNA切断が起こり、それを修復する酵素が働くシーンを設けてやることが「有効」となります。
逆に、そのような機会が与えられなければ、その酵素の出番が無くなり、やがてその遺伝子が封印されてしまうことになるでしょう。そうなった場合、何らかの事故によって多量の放射線を浴びたときに対応できなくなります。
「電界・磁界・電磁波」も同様の現象を示します。「電磁波は絶対に危ないですよ!!あなた、何言ってるんですか」と叫ぶ人がいるような予感がします。しかし、私たちは特に太陽から結構強めの各種波長の電磁波を浴びながら生活しています。電磁波を浴びると、その波長によって様々な現象が起こります。例えば、熱に変わったり、体内で誘導電流が生じたり、生化学反応のエネルギー源になったりします。「善」なのか「悪」なのかを決めようとせずに、どの種類のものは、どの程度浴びるのが良いのか、を追及する必要があります。
幾つかの例を見てみましたが、まとめとして、図に書き入れた文言をここにも書いておきます。
◆何にでも「適度」というものがある
過ぎたるは猶及ばざるが如し。「良薬」も過ぎれば「毒」となる。「親切」も過ぎれば「おせっかい」になる。
◆「善悪」ではなく「適度」を見極める
「善」なのか「悪」なのかを決めようとするのではなく、そのものが最も有効に作用する量や強さ、最も有効に働ける場所や場面を探し求めることが重要。完全なる「善」や「悪」は極めて少ない。
◆あらゆるものには二面性があり、「ホルミシス効果」も同様の現象
多ければ「害」をもたらしたり「毒」になったりするが、適量であれば生体の機能を高めることになる。極微量が効くものもある。
今日のお話は以上です。「これは良いのか悪いのか?」が気になった時、「万物の作用曲線」を思い出していただき、「あぁ、このあたりの量や程度のときの作用を言ってるのだな」と解釈していただければと思います。